「isologue」「CFOのための最新情報」などで既に採り上げられていますが、昨日来、私も思うところをTwitterで少しつぶやいたりしています。

何の話かというと、日本証券業協会
『新規公開前に行われる不適切な自己募集を規制するための 「有価証券の引受け等に関する規則」等の一部改正について(案)』
と題する規則改正案のパブリック・コメント募集の件。

これまで全くスルーしていましたが、磯崎先生のつぶやきを発端にこちらのBlogを拝読し、「これはとんでもない話だ」と気づいた次第です。

思い切り簡単にいうと、
「ベンチャー企業が赤の他人に出資してもらったら、原則としてIPOできなくなる」
という、ちょっと驚いてしまうような改正案なのです。

未公開株詐欺事件を防止するための解決策としては下の策と言わざるを得ません。
というよりも、そもそも「解決策」と呼ぶべきものではないように思います。


ご存知の方も多いかと思いますが、金融商品取引法上、50名以上に対して出資を募った場合には「募集」というものに該当し、有価証券届出書の提出が要求されます。
そうすると「継続開示会社」という扱いを受け、それ以後ずっと、有価証券報告書の提出義務が生じてしまいます。
有価証券報告書を提出するには監査法人の監査を受ける必要がありますので、当然多大な費用がかかるわけで、非上場の会社にとっては、増資時や場合によっては新株予約権発行にあたり、被勧誘者が50名を超えることがないよう非常に気を使うところでもあります。
しかしこのような50名以上に出資を募った場合は、発行会社は有価証券届出書を提出しているはずですので、今回の規制の適用が除外されます。

今回の改正案は、50名未満への勧誘、つまり「私募」につき、個人投資家に出資をしてもらった会社の株式公開を原則禁止としてしまおうというものです。
「その他本協会が第1号から第3号(注:有価証券報告書・有価証券届出書を提出していた場合や、役員とその家族などが出資した場合)に準ずると認めたとき」には適用が除外されるので、実運用上はここで篩にかける腹づもりなのではないかと思います。
しかしこれでは必要なときに個人投資家からの出資を受けることが難しいのは明白です。

ところで、今回の日本証券業界のリリース冒頭には、以下のような文言があります。


新規上場を予定している発行会社においては、通常、上場前に個人投資家に対して自己の発行する株券の勧誘行為を行うことはないものと考えられる



この文言にも疑問があります。
私が知る限りにおいても、設立時や設立直後のベンチャー企業が、個人投資家に出資してもらうケースは数多くあります。
客観的なデータを持っているわけではありませんが、「ないものと考えられる」というのは明らかに事実を誤認しています。

また磯崎先生も指摘しているように、「未公開株詐欺」というのは「もうすぐ上場する会社の株式を買いませんか?」と言って騙すものなので、本気で上場しようとしている会社に規制をかけても何の意味もないわけです。
さらに言えば、既に個人投資家からの出資を受けている会社は当然、「出資者の方には上場して恩返しをしたい」と考えているわけで、上場の道が閉ざされるとそれこそ「詐欺」みたいなことになってしまいます。

そのようなわけで、全く理解できない今回の規則改正案。
ベンチャー企業に関わる一会社員としても、断固反対したいと思います。


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(追記)
大杉先生のブログにおいても、この問題が取り上げられています。