「経済学101」(既存のエントリーは「経済学101」ではなく、"rionaoki.net"に残されています)の青木理音さん(@rionaoki)の新著。



上記Blog「経済学101」(現在は"rionaoki.net")から、テーマごとに面白い記事をピックアップして、一冊の本にされたものです。

テーマは下記のとおり(章立てのみ抜粋)


第1章 IT企業の動向
第2章 ソーシャルメディア
第3章 新聞・放送・出版
第4章 日本・教育・日米比較


このようなホットなテーマについて、主にアメリカのニュースやBlog記事などを紹介しながら、それを経済学的な観点から「斬る」というスタイルの一冊です。
この「斬る」という言葉は、いかにも使い古された表現ではありますが、本書での青木理音さんは、ほかに適当な言葉が見当たらないほど、切れ味鋭く徹底的に斬っていらっしゃいます。
また、この小気味よいまでの斬り具合が、理音さんならではの持ち味でもあるのでしょう。読んでいて気持ちがよいです。

さて、先に「経済学的な観点から」と書きましたが、そう大上段に構えたものでもないので、おそらく大抵の方は何ら抵抗なく読み進められるのではないでしょうか。
というのも、専門用語には一つ一つ丁寧に注釈がついていますし、そもそも表現がわかりやすいので、「経済学はちょっと・・・」と躊躇する向きにも、お薦めできる一冊だと思っています。
とはいえ、平易な表現で、かつ端的に述べられているだけに、行間を読めるかどうかによって、読み手にとってのこの本の価値というものに違いが出てくるだろうとは思います。

また、「IT社会の」とタイトルに付いているだけあって、ここ2年ほどのアメリカにおけるIT企業やSNSの動向なども知ることができ、私にとってはこの辺りも非常に興味深いところでした。


しかし私が最も興味深く読んだ項目の一つが、既存の出版業界と電子書籍に関する「衰退産業が持ち出す文化議論」というもの。
一部引用したいと思います。


ではなぜ今になって出版業界は文化について論じ始めたのか。これは業界を保護してもらう口実だ。それも、「出版」ではなく「業界」であることがポイントだ。「出版」を守るためなら出版「業界」を守る必要はない。日本の農業や林業を守るために既存の業界における「文化」を保護する必要がないのと同じだ。だから、農業・林業保護の議論に株式会社導入は表立って出てこない。
(中略)
一産業が自分たちのやっていることは文化だと言い出すとき、その業界は回復の見込みがない程に衰退へと向かっている。


このエントリーは2010年2月4日付のものですが、今まさに日本において議論されていることが頭に浮かびます。


というわけで、IT、経済学、出版といったものの「いま」を知るためにも、是非一読頂きたい一冊です。
※ちなみに著作権に関する記述も多いのですが、日本とアメリカの著作権制度を厳密に区別して記載されていないので、そのあたりは読み手側で理解しておく必要があるかと思います。