ご存知、「企業法務について」のkataさんが、「英文契約書はじめの一歩」という記事を書かれました。

そしてほぼ時を同じくして、やはりご存知、「dtk'blog」のdtkさんが、「英文契約書を読むためのヒント・・・のようなもの」という記事を書き始め、既に4回ほど書かれています。

さらにここに、「企業法務マンサバイバル」のtacさんが、やや切り口を変えて、「英文契約書を読み書きしたい法務のためのブックガイド2011」という記事を書かれています。

そのようなわけで、いま世の中は「海老蔵か英文契約書か」というような、大変な騒ぎになっているわけです。


さて、そのような状況の中、私はtwitter上でdtkさんに対し、


続編を期待してます。特に準拠法と裁判管轄や、仲裁条項について期待してます( ̄^ ̄)ゞ


と、無責任にも続編のお願いを(昼ごはんを食べながら)してみました。

これに対しdtkさんは、


いや、だから…そういう難しい話を期待されても....一応考えてみますが。


と、答えて下さいました。

そこで私としては、「お願いをした以上もう少し何か書かないと失礼だよね」と思い、英文契約書について常日頃から疑問に思っていることなどを書いてみようと思ったわけです。

(相変わらず前置きが長くてすみません)


私が「常日頃から疑問に思っていること」というのは、ズバリ「準拠法と裁判管轄」
割と素通りされがちな一般条項にあって、準拠法と裁判管轄だけは「お互いに譲れない一線」となることが多いように思います。

そりゃそうですよね。
日本の会社がインドの会社と取引をするとして、インドの法律を準拠法としてインドの裁判所を専属的合意管轄裁判所とすると言われても、「わしゃ、インドの法律知らんけんのう・・・」となるのが普通です。
仮に「私はインドの法律に精通している」という場合でも、やはりコストや予測可能性を考えると、できる限り「ホーム」である日本法と日本の裁判所に持ち込みたいと考えるのが、日本の会社として自然でしょう。

しかしこれは当然、インドの方にとっても同じこと。
インドの方も自分たちの「ホーム」に持ち込みたいと考えます。

そこで落としどころとして、
①準拠法は日本法、裁判管轄は被告の国の裁判所
②準拠法も裁判管轄も被告の国
③仲裁合意
などが、どちらからともなく提案されたりします。

しかし①を選択したとして、実際にインドの裁判所に訴え出たときに、日本法に則って裁判が進行するかは甚だ疑問です。
②は少々投げやりな落としどころともいえます。
インドの方を訴えることになったときには、インドの法律を準拠法として、インドの裁判所で争うことになりますし、その逆であれば、インドの方が日本に乗り込んで来る必要があるので、「お互いに争いにならないことを祈るばかり」の落としどころともいえるのではないでしょうか(それはそれで抑止力として有効かも知れませんが)。
そうすると③が案外、公平かつ合理的な判断のように思えてきます。

例えば「日本商事仲裁協会」のHPなどには、仲裁条項案も載っていますし、件のインドの方との契約に関していえば、(ずいぶん古い話ですが)「インド商工会議所連合会仲裁裁判所」と協定を結んでいることなどもわかります。
これらをチョチョチョイと修正して、契約書に盛り込むことも考えられます。


このようなことはちょっと調べればわかることですし、さらに詳しく知りたい方であれば、下記の本などにも非常に詳しく書かれているわけですね。
※非常にお薦めの一冊でもあります。

国際取引・紛争処理法国際取引・紛争処理法
(2006/11)
河村 寛治

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ただ私が知りたいのは、
「実際のところどうしてるんですか?」
ということです。

上記の書籍にも以下のような記載があります。


準拠法の決定を当事者の意思に任せるということを基本的な考え方とする国は、米国をはじめ、ドイツ、フランス、英国などであるが、わが国もこの考え方(準拠法の意思主義)を採用している(通則法7条)。通則法では、適用すべき法を変更することができるという規定も設けられている(通則法9条)
国際的には、当事者の意思に関係なく、契約の締結地とか、履行地とかの法を採用する国も、米国の一部数州や中南米諸国などで存在する。
中国なども契約の種類毎にその準拠法が法律で定められていることから、国際契約を作成する際には、当事者の合意でそれを排除することができるかどうかという点も非常に重要である。


※本書は2006年に書かれていますが、同年に施行された「法の適用に関する通則法」施行前の情報に基づいて書かれている点と、ここ数年の中国の法整備の状況を考慮しておく必要があるかと思います。

つまり欧米諸国との契約に関しては、とりあえず「日本法を準拠法とし、裁判管轄も東京地裁」などでとりあえず押してみても概ね問題ないかと思うのですが、それ以外の国や地域については、それぞれの国の法律によって、そのような合意が無効となってしまうことが考えられるわけですね。

そして件のインドを含めた東南アジア諸国の皆さんや、アルゼンチンやチリといった中南米諸国の皆さんというのは、私の数少ない経験からいっても、


ウチの国で作業をするから、日本法を準拠法にすることも裁判管轄を日本にすることも、ウチの国の法律ではたぶん認められないです。だからウチの国の法律を準拠法にしてウチの国の裁判所を専属的合意管轄裁判所にしましょう。


とおっしゃることが多いように感じています。

これをハッタリととるか信用するかというと、私はまず「ハッタリではないか」と疑ってかかります。
しかしそうはいっても取り扱う契約や相手国の数が多くなってくると、一つ一つの国の法令について調べて「ウソつけ!」などとやっている時間もないので、「どうしたものか・・・」と困ってしまうんですね。
(先日、とある東南アジアの国の方は、「もう準拠法と裁判管轄に関する条項を削除しましょうよ」と提案してきました)


以上、ずいぶん長くなってしまいましたが、このような「英文契約書における準拠法と裁判管轄」について、実務的な経験が豊富であろうdtkさんにご教示頂けたら嬉しいな、と思った次第であります。

そのようなわけdtkさん、よろしくお願いします(ペコリ)。


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そういえば先日、とある欧米企業の日本法人の法務部長に、英文契約書についていろいろとお話をお聞きしたので、そのことについてはまたあらためて書いてみたいと思います。