風にころがる企業ホーマー

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「企業法務マンサバイバル」のtacさんが紹介されていたこの本。

会社法施行5年 理論と実務の現状と課題 (ジュリスト増刊)会社法施行5年 理論と実務の現状と課題 (ジュリスト増刊)
(2011/05/26)
不明

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この5年間で発生した会社法の時事ネタのうち、特に重要なものが論点ごとにまとめられている本なわけです。教科書を最初から最後まで通読する学習では絶対挫折する会社法も、このアプローチだとリアリティがぐっと増すからでしょうか、途端に面白い法律に見えるから不思議です。



と紹介されていて、もはや私ごときがウダウダとご紹介する意味もないと思っていた次第です。
そこで今回は、思いのほか話題になっておらず、またリアル書店での取扱いも少し冷たいのではないかという印象を受ける類書をご紹介したいと思います。

会社法新判例 50 (ジュリストブックス)会社法新判例 50 (ジュリストブックス)
(2011/07/27)
弥永 真生

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ご存知、弥永真生先生の判例解説です。
ほぼ時期を同じくして有斐閣さんから出版されているのですが、いくつかのリアル書店をまわってみたところ、都心の大規模書店でも売切れているのか置いていないのか、なかなか見当たりませんでした。
「さすがにここにはないだろう」と思いながら寄ってみた近所の本屋に並んでいて、驚きつつ即買いしました。

さて、上記「会社法施行5年 理論と実務の現状と課題」(長いので以下「ムックのほう」といいます)が、有斐閣のHPをご覧頂けばわかるように、

Ⅰ コーポレート・ガバナンス
Ⅱ 資金調達
Ⅲ M&A,組織再編
Ⅳ 株券電子化と会社法
Ⅴ 会計制度と会社法

と、テーマをいくつかに分けたうえで、25個の裁判例を弁護士や学者の先生方がそれぞれ分担して解説されているのに対し、「会社法 新判例50」(紛らわしいので以下「弥永先生のほう」といいます)は、そのような明確な区分をせず、50個の裁判例の全てを(当然ですが)弥永先生が解説されているところが大きな違いです。


本書は、平成20年7月(1359号)から平成22年にかけて、ジュリストに「会社法判例速報」として連載させていただいたものの中から50件の裁判例を選択し、若干の加筆を加え、とりわけ、その後の帰趨をフォローしたものです。



とはしがきにあるように、「ムックのほう」よりカバーしている期間は2年程度短いものの、そのぶん「おっ!」と思うような裁判例が掲載されていたりします。
この点は「ムックのほう」が、会社法が施行されて5年経ったところで、実務的な視点からここらでいったん振り返ってみよう、というスタンス(だと思う)に対して、「弥永先生のほう」は、淡々と連載されてきたものの中から重要性の高いものをピックアップするというスタンス(だと思う)の違いだと思います。

そのため一見すると、「似たような本が同じ時期に出て、どっちを読もうか迷ってしまいます」ということになってしまうかも知れません。
しかしtacさんの、


世の中を騒がせた会社法関連事件を後からまとめて俯瞰できる文献というのもそうそうなく、そういう意味でも価値ある本



というご指摘のとおり、この5年間の会社法にまつわる事件を総ざらいするには「ムックのほう」が適当かと思います。
しかしながら、「もう少し踏み込んだところまでカバーしたい」「商事法務を読むとワクワクする」というような方には「弥永先生のほう」をお薦めしたいと思います。
とはいえ、そのような方はおそらく両方買うのでしょうね。

ちなみに個人的には、このBlogでも何度か触れていますように、私は弥永先生の切り口が好きなので、「弥永先生のほう」もハズせません。
amazonの解説では物足りないと思いますので、ご興味のある方は有斐閣のHP(コチラ)をご覧ください。
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今にはじまったことではないのですが、「企業法務マンサバイバル」の tac さんなどから、

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ところで暴排といえば先日証券会社の約款でヘンな暴排条項見つけたのでいつかブログでネタにします。マル暴として高名なひろさんのご指導も賜りたく。


などと、反社会的勢力問題に関して「高名」な人であるかのように、すっかりおちょくられてしまっている私ですが、実は案外と会社法が好きだったりもします。
正確に言うと、「必要に迫られて調べたり対応したりしているうちにすっかり面白くなってしまった」というのが正確な表現のように思います。


過去にも何度か、会社法に関する渾身のエントリーを書いていて(渾身ではありますが、たいした内容ではありません)、それはそれで今でも訪問して下さる方の多いエントリーとなっています。
そして今回もまた、必要に迫られてGW返上で調べ物をしているわけです。

何を調べているかを現時点でここに書くことはできないのですが、いずれさりげなくまとめてUPしておきたいと思っています。
おそらく同様のことで頭を悩ませている方もいらっしゃるものと思いますので、何かのお役に立つのではないかと思っています。


さて、何を調べているかを書かないくせに、なぜ今ここに駄文を書いているかというと、会社法に関する書籍についてちょっと思うところなどを書いてみたくなったからです。

少し大きな本屋に行くと、「会社法○○」「○○会社法」といった分厚い本がたくさん並んでいて、どれを買えばいいのか悩んでしまうこともあるかも知れません。
私はそれらを全て読んだわけでもないので、ここで紹介させて頂くのは、本来であれば紹介するまでもない「定番」になってしまっていますが、まあいいではないですか。
所詮は素人の戯言ですので、「おいおい、それは違うぞ」とか「こっちの方がいいぞ」とか、色々なご意見もあるかと思いますが、そのようなときはコメント欄から優しくご指摘下さい。

もちろん「この本、最高なんだよね」というご紹介など頂けると、大変嬉しいです。


さて、まずは会社法に関わる仕事をされている方であればたいてい持っているであろうこの一冊。
株式会社法 第3版株式会社法 第3版
(2009/12/21)
江頭 憲治郎

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私が最も好きな芸人さんは江頭2:50さんなのですが、それとこれとは何の関係もありません。
やはりいつも手許に置いておきたい一冊です。
900ページの大部で、会社に持って行ったり持って帰ったりするのはツライので、家と会社に一冊ずつ置いてあります。
そして何か疑問があるときにまず開く一冊です。
この本のことを「エガちゃん」と呼んでいる失礼な法務担当者は、一人や二人でないと思います。
それほど身近な一冊であるとも言えるでしょう(!?)

次にご紹介するのはこれ。
リーガルマインド会社法 第12版リーガルマインド会社法 第12版
(2009/11/30)
弥永 真生

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弥永先生ですね。
この一冊は、他の書籍に当たってみて、「載ってないなあ・・・」などと呟きながら開いたとき、欲しかった情報がズバリ載っていたりする、不思議な一冊だと私は感じています。
しかもそのような情報はたいてい脚注に載っています。
試しにページをパラパラめくってみて下さい。
脚注のほうが本文よりも幅を利かせているページが目につくことも少なくありません。
そう厚い一冊でもないのですが、法律と会計の世界を自由に行き来される弥永先生の視点は、個人的にとても興味をもっているところです。


会社法入門 第12版会社法入門 第12版
(2009/12/12)
前田 庸

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この一冊も完全に定番だと思いますが、どんどん分厚くなっていく気がしています。気のせいでしょうか。


以上が「とりあえず調べる」というとき、私が最初にパラパラと目を通すお気に入りたちです。ほかにもいくつかありますが、これらに目を通すことでたいていの場合は「なるほどね」と気持ちが落ち着きます。
もちろん特定の分野に徹底して突っ込む必要があるときには、その分野の書籍に当たったり、さらにその書籍の参考文献に遡ったりということをしています。

「弁護士に相談した方が早くね?」という向きもあろうかと思いますが、どうしても自分で調べておく必要がある状況というものが世の中にあることは、何となくご理解頂けるのではないかと思います。
あえてここでは詳しく書きませんが。

さてさらに、当然といえば当然ですが、
会社法コンメンタール〈1〉総則・設立(1)会社法コンメンタール〈1〉総則・設立(1)
(2008/03)
江頭 憲治郎

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このシリーズはやはりとても頼りになります。
そりゃ、コンメンタールですから詳しいですよね。
とはいえ、シリーズを全部揃えていたら、いったいいくらかかるかわかりませんし、私は学者さんや弁護士ではないので、その必要もありません。
どうしても必要だったり、欲しい分野に絞ったりして買うことにしています。


そして今回買ったのがこの一冊。
会社法実務ハンドブック会社法実務ハンドブック
(2010/06)
高野 一郎

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分厚い・・・
1,400ページほどあります。
しかし今回の調べ物に関して、ここまで詳しく、しかもわかり易く書かれている書籍が他に見当たらなかったので、迷わず購入しました。
体重計で量ってみようと思っていてすっかり忘れていましたが、部屋にあるダンベルと持ち比べてみたところ、どうも3.5キロくらいはありそうです。

この一冊、「実務ハンドブック」というだけあって、一般論に留まらず、具体的に実務上どう対応すべきかまで述べられているところがお役立ち。これから末永いお付き合いをさせて頂く一冊となりそうです。



さてさて、これらはどれも「通読」するような代物ではなく、よほど苦行が好きな方でない限り、企業法務担当者で通読される方は、まあまずいらっしゃらないのではないかと思います。
「では通読できて、会社法の全体像がわかるのはどんな本だ?」
と問われれば、以下のようなものをお薦めしたいと思います。
会社法要説会社法要説
(2010/12/20)
落合 誠一

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この落合先生の薄い一冊は200ページ程度しかありません。


さらには、
会社法 第2版 (LEGAL QUEST)会社法 第2版 (LEGAL QUEST)
(2011/03/25)
伊藤 靖史、大杉 謙一 他

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ご存知、伊藤先生と大杉先生の通称「リークエ」ですね。
この一冊を一気に読んでおけば、会社法の全体像をある程度の深さをもって知ることができるのではないかと思います。
ちなみに最近第2版が出ています。


「会社法を勉強したいけど、どれも難しそうだなあ・・・」と、1,200円くらいで「サルでもわかる」系の本を次から次に買われる方を何人か見てきましたが、やはり一度はある程度「骨のある一冊」をきっちり読んでおく必要があると思っています。
これはもちろん会社法に限ったことではないのですが、少なくとも会社法に関しては最後にご紹介した2冊あたりをお薦めしたいと思います。

あと、図表が好きな方であれば、
会社法マスター115講座会社法マスター115講座
(2009/04)
不明

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この一冊もいいかも知れません。
左ページが文章で、右ページが図表というスタイルが徹底されています。



--------------(6月4日追記)
本エントリーには Twitter でも多くのコメントを頂いたのですが、「この本を忘れちゃ困る!」といわんばかりの勢いで、いろいろな方からお薦め頂いたのが、この一冊。

アドバンス 新会社法アドバンス 新会社法
(2010/09)
長島大野常松法律事務所

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長島・大野・常松法律事務所の本だけあってとても実践的な内容なので、私もよく参考にさせて頂いています。
お値段は張りますが、手許にあると心強い一冊であることは間違いありません。
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「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2011」が、3月22日付にて、東証のホームページにアップされています。

そんな折。
日本経済新聞の「経済教室」のコーナーでは、3月31日に「コーポレート・ガバナンス 経営者の交代と報酬はどうあるべきか」の著者である久保克行先生、翌4月1日に全国社外取締役ネットワーク代表理事である田村達也さんのご意見が、「企業統治の論点」というテーマのもと、掲載されていました。

久保克行先生の上記著書はこのBlogでも以前ご紹介したことがあるのですが、非常に膨大なデータを基に、経営者の「交代と報酬」について論じられていてとても面白い一冊でした。そして今回の日経新聞の記事もまた、興味深く拝読しました。

さて、4月1日の田村達也さん。
こちらは紙面に目をやると、「社外取締役の義務化を」「国際標準、受け入れよ」「株主・投資家の意見反映」という大きな文字が目に飛び込んできます。
「全国社外取締役ネットワーク代表理事」という肩書が付されている以上、まあ、そのようなご主張は予想されるところでしょう。
中身もじっくり拝読いたしましたが、以下の言葉に全てが集約されているように感じました。


日本を除く世界の資本主義国の会社法制がこうした仕組み(社外取締役の義務化※管理人注)を導入しているのは、資本市場の活用が企業の発展成長に不可欠との認識に立ったものである。現在のわが国の資本市場と会社法制は世界の潮流から外れているため、海外資本が積極参加しにくい環境となっており、日本がグローバル経済の発展から取り残される事態となっている。



確かに監査役制度という海外に説明するのに難儀な制度があることによって「資本市場の活用」がしづらい面はあるかも知れません。
しかし社外取締役設置が義務化されていないことが、「日本がグローバル経済の発展から取り残される事態となっている」ことに直結しているという理屈は少し乱暴な気がします。
また、


財務省統計によれば2004~10年中の対外直接投資は48.1兆円、対内投資は6.5兆円となっている。こうした結果が生じるのは、海外では公開会社の企業買収が容易であるのに対し、わが国では内部者で固めた取締役会が防波堤の役割を果たし、敵対的買収が極めて困難なことも大きな原因の一つではなかろうか。


とまでおっしゃっています。これは例のソース屋さんのことなどを指しているのでしょう。
もちろん、「原因の一つではなかろうか」と問われれば、「原因の一つかもしれませんね」というほか答えられないようにも思います。
しかし果たして社外取締役の設置を義務化すればこれらの問題が解決するのかといえば、決してそのようなことはないと思います。


話は少々逸れますが、このような本が昨年、商事法務さんから出版されています。

会社法の選択―新しい社会の会社法を求めて会社法の選択―新しい社会の会社法を求めて
(2010/10)
中東 正文、松井 秀征 他

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商事法務さんのホームページから紹介文を引用すると、


本書は、明治から今日までの会社法制立法過程に関する歴史的分析をふまえた、かつてない、本格的研究である。
平成の時代にあっては「新会社法」が立法されるなど、頻繁に会社法(商法)改正が行われているが、本書は、明治以来、今日までの会社法立法過程を、それぞれの社会的背景、会社法制立法チャネルの変化、立法に関与した各種アクター(研究者・関係省庁・経済界・政界等ステイク・ホルダー)等の役割りと活動の変化を検証しながら、会社法改正を読み解く。
「無色透明の会社法」理論とその神話化に関する分析を通じて、ガバナンス、ファイナンス、マネジメント業務執行等の会社法立法について根本的な問題提起を行う。


ということで、個人的にとても興味のある一冊なのですが、現在の仕事に直接役立つような代物でもないだろうし、1,246頁もの大部だし、「長期休暇が取れた暁には、陽の当たる縁側でゆっくり読みたい一冊」と考え、amazon の「ほしいものリスト」に登録だけしています。(冗談ではなく本当に欲しいのです)

その「縁側本」(関係者の皆様、失礼な呼び名を付けてすみません)を受けて、中村直人弁護士が「旬刊商事法務」1919号(2010.12.25)に「実務からみた商法・会社法の立法過程と会社法制の見直し」という論考を寄せられていたことを思い出しました。

その中に以下のような興味深い記載があります。


従来、社外取締役義務化論は、モニタリング・モデルを理想とし、経営者は独立した者によって監督されなければならず、それによって企業の効率化や不祥事の防止に役立つという議論であった。
しかし、昨今の議論をみていると、良いものだから導入するという説明ではなく、欧米と日本のガバナンスが異なっており、説明してもなかなか納得してもらえないから、欧米と同じものにすべし、という議論に変わってきているようである。


そして次のような面白おかしい表現をされています。


欧米の投資家などに対する説明という観点からすると、問い「日本には経営者に対する独立した監督者がいるのか」、答え「日本には社外監査役がいる」、問い「社外監査役は経営者に対する人事権を持っているのか」、答え「持っていない」、問い「人事権なしでどうやって監督ができるのか」、答え「・・・・」ということになってしまうので、この際同じにしてはどうかということであろう。




それからまたまた話は逸れてしまうのですが、「旬刊商事法務」の同じく1919号には、アジア・コーポレート・ガバナンス協(議)会(ACGA)による、「法制審議会会社法制部会に対する意見」なるものが掲載されています。
そしてその意見の中には、以下のような記載があります。


(略)会社法または上場規則によって、上場企業の取締役会が、完全な議決権を持ち、適格要件と経験を備えた独立社外取締役を三名以上含むよう規定されるべきであると考えています。


ちなみにACGAは、欧米の年金基金や機関投資家が主要なメンバーのようです。

さらに、やはり同じく「旬刊商事法務」1919号の最後のページ、「スクランブル」においては、「日本企業のコーポレート・ガバナンスはどこへ向かうのか」というタイトルで、主にこの社外取締役問題が取りあげられています。
これは是非、バックナンバーでも何でも取り寄せて読んで頂きたいところなのですが、その一部を引用します。


投資家の中には、日本企業の業績が上がっていないことを錦の御旗に、今年一年間のガバナンス改革に不満を唱えている声高な団体もある。しかし彼らの提案は残念ながら、企業を取り巻く関係者の大半から支持を得られていない。たとえば、独立取締役を相当人数全上場企業に強制すべきであると唱えているが、業務執行の現場になじみのない独立取締役が相当数入り、重要な決定に議決権の一票を投じるよう強制することがいかなる理屈で企業の業績向上つながるのか。赤の他人に決めさせたほうが業績が向上するという理屈はどこから出てくるのか。(略)何かを強制したらこう良くなるという提案が、強制することのデメリットを捨象しているなど議論の視野が狭く、また論理の緻密さを欠いているのである。むしろ、異議を特段唱えていない大半の投資家のほうにサイレントマジョリティがあると考えざるを得ず、少なくともこうした声高な意見を投資家多数の声とみなして制度改正を進めるべきではないであろう。



そんなこんなに思いを巡らせながら、冒頭の「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2011」のうち、興味のある部分に目を通していました。
そして、
「社外取締役の選任状況」(P28)  東証一部47・1%、東証二部43.1%、マザーズ62.9%
という数字に、「うーむ・・・」と思わず唸ってしまったわけです。

どうも海外からの声は、「監査役設置会社の取締役」と「委員会設置会社の取締役」の役割の違いが正確に理解されていないことがその前提としてあるようです。
そしてそれを理解してもらうために「社外取締役」という海外にもわかりやすい制度を導入しようという動きがあるように見えます。
であれば、海外からの理解を得たい会社は委員会設置会社になって社外取締役を設置し、特段そのような強い希望がない会社はこれまでどおり監査役設置会社として必要に応じて社外取締役を設置すればいいのではないかというのが、現時点での私の考えです。

もちろん、「日本は海外からの投資をバンバン受けたいから、社外取締役を設置してね~!」と、国が強い姿勢を示すのであれば、それはそれでよいことのようにも思えますが、実際のところは経済成長が先にないと投資先としての魅力もないでしょう。
逆にいうと、投資先としての魅力があればコーポレート・ガバナンスの細かな建てつけにまで口を出されることもないのではないかと思います。


以上、思いつくままタラタラと書いてみました。
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先日ご紹介した「Business Law Journal」2月号において、「Business Law Journal」「ビジネス法務」「会社法務A2Z」のいずれかを定期購読し、さらに商事法務メルマガで情報収集することを勧めていらっしゃる法務担当者の方がいらっしゃいました。

この法務担当者の方はいわゆる「一人法務」の方だったと記憶しているのですが、法務部門が少人数であればなおさら、「どうやって情報収集するか」ということが重要になるかと思います。
特に法改正や目新しい裁判例などについては、少なくとも、「そのようなことがあったな」ということが必要なときに”ピン”とくるような仕組みを作っておく必要があるでしょう。
少人数でやっているとどうしても、積極的に収集しない限りなかなか情報は集まりませんし、必要な情報を法務担当者が持っていないことは、会社の法的リスクを高めてしまうことになります。
そのような意味で、上記の法務担当者のアドバイスはとても有益ではないかと思います。


さて、その紹介されていた雑誌のひとつ。「会社法務A2Z」
前にも書いたことがある気がするのですが、これ、「エイトゥーズィー」と読むのが正解。私はずっと「エートゥーゼット」と、いかにも日本人らしい読み方をしていました。
編集部の方に聞いた情報なので間違いありません。「エイトゥーズィー」と読んで下さい。


今月の「会社法務A2Z」で興味深かったのは、「ビジネス法務の部屋」でおなじみの山口利昭弁護士による「企業法務の視点から見る不正調査の実状と課題」という記事。

ここでは、子会社が不正を働いた場合に親会社が負う責任と、そのような不正を防ぐための内部統制・内部監査のあり方について、非常にリアルな「不正調査の実状」が紹介され、また実践的な「不正調査の方法」が提案されています。


そもそも会社法上の内部統制システム構築義務の根拠とされる、以下の法令


会社法第362条4項6号
取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

(法務省令)↓
会社法施行規則第100条1項5号
当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
※これは「法務省令で定める体制」の一つに過ぎません。念のため。



上記の法令からすると、内部統制システムを構築するにあたり、子会社をそのシステムに取り込む必要があるのは明白なのですが、そうはいっても別会社。
不正の疑いがある場合にこれを調査するにも、何かと障害が多いのが現状のようです。特に子会社のトップが不正に関与している疑いがある場合の調査の難しさが興味深いところです。
非常に面白い記事ですので、是非読んでみて下さい。


さて次に、「会社法務A2Z」1月号の29ページ。
ここは是非、ご覧頂きたい。
「法務分野における情報発信の新潮流」とのタイトルで、我らが「ITエンジニアのための『契約入門』」が紹介されています。
おかげ様で予想以上の売れ行きを記録した「ITエンジニアのための『契約入門』」ですが、しぶとくこのような場所に登場させて頂いたりしております。

第一法規編集部の皆さまにはこの場を借りてお礼申し上げます。


そのようなわけで、2011年最初のエントリーは、若干宣伝のにおいのするものとなってしまいましたが、本年も当ブログをご愛顧頂ければ幸いです。
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監査役の報酬について、会社法387条は以下のように定めています。


第387条
①監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
②監査役が二人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監査役の協議によって定める。
③監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができる。


(ここでは便宜上、金銭報酬を前提として記します)

取締役の報酬についても同様に、定款又は株主総会決議で定める必要があります。
しかし取締役の報酬については、いわゆる「お手盛り防止」が目的であって、実運用上は株主総会で最高限度額を定め、個々の取締役の報酬については取締役会で決定していることが多いかと思います。

しかし監査役の報酬については、「お手盛り防止」の要請もないわけではありませんが、定款又は株主総会決議で報酬額を定める主な目的は、「監査役の地位の独立性を確保すること」とされています。
実際には、株主総会に提案される監査役の報酬に関する議案は通常、取締役会が決定するので、監査役は株主総会において意見を述べることができるようになっているわけです。

ここで気になることが一つ。

取締役の報酬総額を例えば1億円と決定し、3人の取締役がそれぞれ3,000万円を報酬として受け取ることを取締役会で決定したとします。
これは「お手盛り防止」という目的に適うもので、1,000万円の枠が残ったとしても全く問題はありません。

しかし監査役の報酬総額を1億円と決定し、3人の監査役がそれぞれ3,000万円を報酬として受け取ることを監査役の協議によって決定した場合はどうでしょう。
この点に関しては少し議論のあるところで、「監査役の地位の独立性を確保する」という本条のねらいからすると、株主総会で定めた報酬枠を使い切らないことに問題がないわけでなく、原則として株主総会で定めた報酬枠の全額を配分すべきとの見解もあります。
しかし報酬総額の上限を決定する際に監査役が意見を述べられる建前と、個別の報酬額は監査役自身の協議によって定められる以上、監査役の地位の独立性は確保できているといえるので、枠を使い切らなくとも問題はないように思います。
また、実務上もこの解釈で運用されているようです。


しかし、ここでさらに気になることが一つ。

「監査役が1名である場合に、監査役の報酬総額を定めた場合、当該監査役の報酬はどのように定めるべきか」
これが今回のメインテーマです。

「監査役が1名であれば1名分の監査役報酬を決めればいいじゃん」という向きもあるかも知れません。
確かに正論です。しかもそれが本来あるべき姿でしょう。
しかし例えば、監査役の具体的な報酬額を公表してしまうことに抵抗がある場合や、過去に監査役が数名いたのだが現在は1名になってしまったという場合や、数年前に決議をしたままになっていたが現在の監査役にはそこまで出すわけにはいかない、などということもあるわけです。

つまり単純化すると、監査役報酬について定款や株主総会決議にて「枠」を取っているが、1名しかいない監査役の具体的な報酬額を株主総会等で決定していない場合に、会社は監査役にいくらの報酬を払えばいいのか、という問題です。

この問題の解決策は3つあるかと思います。

まず一つ目。
この時点では監査役に具体的な報酬請求権が発生していないため、即座に臨時株主総会を開催して、当該監査役の報酬を決定してしまう方法。
しかしこの方法は、株主数が多い会社では現実的ではありませんし、監査役の具体的な報酬額を公表することに抵抗がある場合には、解決策になり得ません。

二つ目。
次回開催される定時株主総会なり臨時株主総会なりで、過去に支払った監査役の報酬について遡って承認決議を行う方法。
この方法が可能なことは、最三小判平17.2.15にて下記のとおり示されています。


(略)株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合であっても、これについて後に株主総会の決議を経ることにより、事後的にせよ上記の規定の趣旨目的は達せられるものということができるから、当該決議の報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになるというべきである。



しかしやはりこの方法においても、事後的にせよ監査役の具体的な報酬額が公表されてしまうことに変わりはありません。



そして三つ目。

監査役自身に決定してもらう方法。


会社法施行により取締役が1名しかいない株式会社が存在するようになりました。
そのような会社においては取締役会議事録に替えて「取締役決定書」などという書面を作成することがあります。
それと同様に「監査役報酬決定通知書」(もちろんタイトルはこれに限られませんが)という書面を監査役から提出してもらうことによって、具体的な報酬額を決定する方法です。
もちろん、例えば3,000万円の監査役報酬の「枠」を定款や株主総会で決議している会社において、監査役1名に対して1,000万円を報酬として払いたいと考えている場合に、当該監査役が「3,000万円に決定しました」と言ってきたら驚いてしまいます。
しかし通常であれば、監査役が就任を承諾する時点で報酬額の合意も得られているので、そのような問題が発生することはまずないと考えて良いのではないかと思います。

そして「監査役報酬決定通知書」は、以下のような書式でよいのではないかと考えます。


株式会社○○
代表取締役○○殿

          監査役報酬決定通知書

会社法第387条1項に基づき、○年○月○日開催の貴社定時株主総会において、貴社の監査役報酬は年額3,000万円以内と定められています。
本日、貴社監査役に就任するにあたり、私の監査役の報酬を下記の通り決定いたしましたので通知します。
なお、下記報酬額は会社法第387条第2項に準じ、決定いたしました。

               記
  監査役報酬:年額1,000万円
                       以上

             ○年○月○日
                  住所
                  氏名



この方法を採用したとしても、「監査役の地位の独立性の確保」という本条の目的は達せられ、また株主に不利益を与えるものでもないため、問題はないのではないかと考えています。
もちろん以上は私の個人的見解ですので、この方法を採用される場合はご自身の責任のもと行って頂きたいと思います。
しかし、下記書籍の以下の記載から、その有効性に問題はないと考えています。


「リーガルマインド会社法」弥永真生


監査役の独立性確保という立法趣旨からは、定款または株主総会においては少なくとも総額を決めるか、最高限度額および最低限度額を決めることが立法趣旨に適う。(中略)その際に決定を株主総会から委ねられる機関は通常、業務執行の意思決定機関である取締役(会)であるが、監査役(会)に独立性確保のため委ねることもできると考える。その場合はお手盛り防止の要請も生じよう。



「会社法コンメンタール(8)機関(2)」落合誠一編


なお、監査役が1人しかいないときに、定款または株主総会において同人の報酬額そのものではなくその最高限度額を定め、その範囲内で、当該監査役が自分の報酬額を決めるものとしてよいかどうかについては、名文の規定がない。しかし、そのような定め方をしても監査役の独立性の保障の趣旨には反しないし、また、上限が画されている以上は株主の利益を害することも考えにくいから、本条2項に準じた報酬等の決定方法として許容されるべきである。



「役員報酬の法律と実務」味村治・品川芳宣


監査役の員数が一人である場合に、株主総会の決議によって監査役の報酬の額の最高限度を定めた場合には、その決議の趣旨は、その額の範囲内において監査役の決定する額を監査役の報酬の額とすることにあると解すべきであり、その額の範囲内で監査役が報酬の額を決定したときは、これによって、その報酬の額が監査役と会社との間の報酬の特約の内容となって、監査役は、その額に相当する報酬請求権を取得する。




リーガルマインド会社法〔第15版〕
弥永 真生
有斐閣
2021-04-15






役員報酬の法律と実務
芳宣, 品川
商事法務研究会
2001-01-12


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