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タグ:ファイナンス

コーポレート・ガバナンスの経営学 -- 会社統治の新しいパラダイムコーポレート・ガバナンスの経営学 -- 会社統治の新しいパラダイム
(2010/03/31)
加護野 忠男、砂川 伸幸 他

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コーポレート・ガバナンスについては、このBlogでも過去に何度か本を紹介してきました。
今回ご紹介する一冊は、そのコーポレート・ガバナンスの「はじめの一冊」としてとてもよいのではないかと思います。
ただし第11章を除いて、という留保付きですが。


さて、例によって章立てから。


序章 経営学から論ずるコーポレート・ガバナンス論/会社統治論
第1章 株式会社と会社統治論
第2章 株式会社の仕組みと会社統治
第3章 アングロサクソン型の会社統治 ―米国を中心に
第4章 ライン型の会社統治 ―日本を中心に
第5章 日本の会社統治の過去
第6章 日本の会社統治の現在 ―日本が間違った時代
第7章 コーポレート・ガバナンスと資本コスト
第8章 コーポレート・ガバナンスと事業投資
第9章 コーポレート・ガバナンスと資本政策
第10章 日本企業の会社統治のもう一つの姿 ―プレイヤーとしての従業員、親会社
第11章 内部統制と会社統治



ご覧のように、コーポレート・ガバナンスの全体像から入り、アメリカを中心とした「アングロサクソン型」のコーポレート・ガバナンス、日本を中心とした「ライン型」のコーポレート・ガバナンス、そしてその日本のコーポレート・ガバナンスについて、過去から現在に至るまでの流れを俯瞰できるという点が、上述したように「はじめの一冊」として適当なのではないかと思う理由です。
これらの点をおさえておけば、昨今のコーポレート・ガバナンスに関する議論の理解がずいぶん促進されるのではないかと思います。


ちなみに第7章から第9章はやや毛色が異なり、ファイナンスとコーポレート・ガバナンスの話題が中心となりますが、コーポレート・ガバナンスを根本的な部分から考えるには、最低限の財務知識はやはり必要だということでしょう。


そして第10章では、最近とみに話題にされることの多くなった、ドイツの共同決定法を中心とした従業員による経営者への牽制や、親会社による経営者への牽制に関しても触れられています。この部分についても本書は、とても丁寧にわかりやすく説明してくれているので参考になるものと思います。
ところで個人的には第6章で採り上げられている、フランスのコーポレート・ガバナンスに関する話が、目新しく、また興味深いところでしたので、少し引用したいと思います。


このように他国同様、1990年代になって会社統治(管理者注:本書ではコーポレート・ガバナンスを「会社統治」と訳しています)改革の必要性に迫られたフランス企業であったが、改革を現実に進展させるにあたっては、統治改革それ自体はフランス経済全体の成長・競争力向上を後押しするための道具に過ぎず、あくまでもフランスに根づいている価値観を基盤として、これと整合的な仕組みを導入することなくして意味のある改革はなしえないとの認識が共有されていた。それゆえ、弱点とされた経営を監視する仕組みの形骸化については、いわゆる「米国流」の改革例を一部模範とすることで仕組みの強化を図りつつ、あくまでも、フランスにあった会社統治に関わる基本的な価値観、たとえば国家経済全体の中長期的な成長・競争力向上や、利害関係者総体としての利益重視、これらを自国の長所とみなして、それらは以前どおりに保持したままでの改革であった。
企業不祥事の頻発や英米の機関投資家による「発言」がフランス企業にも押し寄せていたのは、日本企業と同様であった。しかし日本などと同様に「唯一絶対」の姿を想定することはなく、自国の実態にある優劣を分析したうえで統治改革を進めていったのである。




日本が「唯一絶対」の姿を想定しているかどうかは異論もあるかと思います。しかしコーポレート・ガバナンスというと、社外取締役や独立役員といったアメリカの発想を採り入れる話に直結したり、最近ではドイツの発想を採り入れて従業員代表(選任)監査役を導入しようという話になったりという話になりがちです。
この点は、以前の記事でも触れたように、「主権論」をもう少し考えてみる必要のあるところだと思います。

その「以前の記事」でご紹介した伊丹敬之教授は、「日本型コーポレートガバナンス」において、以下のように主張されています。


主権論とは、企業の主権は誰が担うのがもっとも適切か、という議論である。そして、資本を提供する株主と働く人々の両方が企業には共に重要であることを考えれば、それはその二つのグループの間でどのように主権を分かちあうか、という問題になる。カネもヒトも企業活動に必須である以上、主権をどちらかが排他的に持つのであれば、それは問題をはらむことになることは容易に想像される。したがって、主権論とは排他的議論ではなく、株主がメインになるのか、従業員がメインになるのか、あるいはまったく対等で行くべきか、といったことが議論の対象になるような問題領域である。
会社法の世界では、株主主権をあらかじめ想定してしまっているが、それだけでいいのか、という議論が必要なのである。
(太字部分は管理人によるものです)



最後の太字部分については、今回ご紹介している加護野忠男教授も同じ問題意識をもっていらっしゃるようです。
現状として、私たち企業法務担当者は、現に存在する会社法を前提として日々の業務を行っていかざるを得ないのですが、会社法の見直しがなされようとしている今この時期においては、少し立ち止まって「主権論」から考えてみることも有益なのではないでしょうか。
少なくとも私たちは会社法を、当事者として実際に日々利用しているわけですから、自社にとって或いは日本企業にとってどのようなコーポレート・ガバナンスがよりよい姿、より自社にフィットする姿であるのかを考えることが必要だと思います。


さて、この記事の冒頭で私は、「ただし第11章を除いて」、「はじめの一冊として適当なのでは」と書きました。
この点について少々補足しておきたいと思います。
第11章は「内部統制と会社統治」というタイトルで、これでもかと言わんばかりに内部統制のマイナスの側面について書かれています。
これは、本書が出版されたのが2010年3月30日と、まさに日本の上場企業が内部統制システムの構築に振り回された直後であった影響も大きいのではないかと思います。
例えば以下のようなものです。


実務家の間には、内部統制の制度は本当に必要かという疑念を抱く人々が多い。われわれも、法律に定められているような内部統制は必要のない制度だと考えている。それだけでなく、企業経営に害を及ぼす可能性すらあると憂えている。



内部統制への対応コストは平均1億6,000万円、そして小規模な会社ほど負担するコストは高くなっているとの調査も提出されている。



このように、いわゆる"J-SOX"導入初年度の情報やデータをもって、内部統制を否定的に捉えています。
この点に関して最近では、内部統制のレベル感も徐々に共通の認識として一定のところで落ち着いてきているように感じていますので、必ずしも負の側面ばかりが目につく状況ではなくなっているのではないかと思います。
確かに加護野教授がおっしゃるように、


会社統治制度それ自体には意味はない。統治によって経営をよりよくし、企業価値を高めることが目的である。統治のために実際に発生する金銭的なコストのみならず、制度を運営する過程で発生する時間や人材の無駄遣い、それによって奪われてしまう事業機会も、コストと考えるべきである。また、リスクに挑戦しないことほど、よりよい経営の妨げとなるものはない。よい経営を実現させるために必要なことの多くにはリスクがともなうためである。
内部統制、コンプライアンスの問題を経営学の視点から考えていくためには、こうした点への目配りも重要である。


という点には同意するのですが、「はじめの一冊」として本書を手にされた方にとって、内部統制に対する上記のような主張は、ミスリードの危険があるのではないかと思います。
これは私が勝手に「はじめの一冊」と言っているだけではなく、本書の冒頭においても、「本書は(略)学部生・院生諸君を読者対象としている」と書かれているので、内部統制への偏った見方が植えつけられることに若干の懸念があるわけです。


しかしながら本書を全体として捉えるとやはり、網羅性や説明のわかりやすさといった内容面、また、注釈、参考文献一覧、親切な索引といった形式面においても、コーポレート・ガバナンスの「はじめの一冊」としてお薦めしたい一冊です。
というわけで、このBlog の右端に「オススメ」として登録決定。
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起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと
(2010/09/30)
磯崎 哲也

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ご存知「isologue」の磯崎哲也さんの著書です。

もう既にあちらこちらのBlogで書評がなされていて、今さら私ごときがウダウダ書く意味はない気もしています。
しかしサブタイトルに「ベンチャーにとって一番大切なこと」とあり、私自身ベンチャー企業で、経営にとても近いところで法務の仕事をしていることから、少し感想程度のものを書いてもいいのかな、と思った次第です。


さて、本書の一番の特徴、それは「類書がない」というところではないでしょうか。
「なんじゃ、そりゃ」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、これ、結構重要です。

何はともあれ、まずは目次をご覧ください(章のみ抜粋しています)。


序章  なぜ今「ベンチャー」なのか?
第1章 ベンチャーファイナンスの全体像
第2章 会社の始め方
第3章 事業計画の作り方
第4章 企業価値とは何か
第5章 ストックオプションを活用する
第6章 資本政策の作り方
第7章 投資契約と投資家との交渉
第8章 種類株式のすすめ
おわりに



「会社のつくり方」とか「事業計画の作り方」などというお手軽な本は、本屋に行けばヤマとあります。
一方、「企業価値」「ストックオプション」「資本政策」などに関する分厚い本も、本屋に行けばいくつか見つけることができるでしょう。

本書はこれら、ベンチャー企業の経営に関わる方であれば知っておくべきトピックを、「ベンチャー企業のファイナンス」という切り口で、ブスっと横串で刺したうえで、非常にわかりやすく説明してくれています。

この切り口、このレベル感、このわかりやすさ。
少なくとも私は類書を知りません。
この本があと2年早く手許にあればずいぶん助かっただろうな、と思います。

というのも、リンクを貼るのも恥ずかしいのですが、1年半ほど前のエントリーで私は、ストックオプションの組立てに関して、


弁護士の知識と会計士の知識を併せ持っていて、司法書士ばりの手続きに関する知識を持っているスーパーマンがいればいいのにな、とないものねだりをしている今日この頃です。


と書いて、「企業法務について」のkataさんに、「じゃあ、お前がそうなれや!」とチクリとコメントされたことがあるのですね。

上記リンク先のエントリーは、ストックオプションに関して書いたものですが、ベンチャー企業で法務をやっていると、(もちろん会社にもよるとは思いますが)ファイナンスに関わる機会というものが非常に多いんですね。
そういう意味において、「類書がない」本書のありがたみというものが、身に沁みてわかるのです。

ちなみに本書「第5章 ストックオプションを活用する」には、以下のような記載があります。


このため、ストックオプションの発行というのは、(略)法律、会計、税務など、いろいろな技を使う必要がある「総合格闘技」的なものになっています。


さらに、税制適格ストックオプションに関しては以下のように述べられています。


企業価値や税務などがからんで大変ややこしい話ですので、他の条件ともども専門家にご相談されることをお勧めします。



まさにこの点で私は弁護士と公認会計士と司法書士(あと税理士もですね)の知識・経験を兼ね備えたスーパーマンを求めていたわけです。
この点、磯崎さんもおっしゃっているように、最終的にはそれぞれの専門家に相談しておく必要があるのでしょうが、少なくとも本書を読んでおけば、そこにどのような問題があって、どの専門家に相談する必要があるかという感覚はつかめて、致命的なポカはなくなるはずです。


以上、例としてストックオプションを挙げさせてもらいましたが、もちろんストックオプションに限らず、このようにベンチャー企業が遭遇するファイナンスにまつわる問題を、本書は全般的に網羅してくれています。
そのため、ベンチャー経営に1ミリでも関わりのある方は、一読しておくことを強くお勧めします。


ところで、「おわりに」で磯崎さんはベンチャー企業を以下のように定義されています。


ベンチャー企業とは、誰もわからない未来にチャレンジする企業のことです。


以前引用したような気もするのですが、村上龍氏も「無趣味のすすめ」の中で、


小規模で孤独な環境から出発し、多数派に加入する誘惑を断固として拒絶すること、それがヴェンチャーの原則である。


と述べられています。
そしてせっかくの機会なので最後に、私のお気に入りの言葉をご紹介しておきたいと思います。
それは早稲田大学の松田修一教授の「ベンチャー企業」 (日経文庫―経営学入門シリーズ)という本で引用されているアメリカのDean Alfangeという政治家の言葉です。


   起業家宣言
私は平凡な人間にはなりたくない。
自らの権利として限りなく非凡でありたい。
私が求めるものは、保証ではなくチャンスなのだ。
国家に扶養され、自尊心と活力を失った人間にはなりたくない。
私はギリギリまで計算しつくしたリスクに挑戦したい。
つねにロマンを追いかけ、この手で実現したい。
失敗し、成功し・・・七転八倒こそ、私の望むところだ。
意味のない仕事から暮らしの糧を得るのはお断りだ。
ぬくぬくと保証された生活よりも、チャレンジに富むいきいきとした人生を選びたい。
ユートピアの静寂よりも、スリルに満ちた行動のほうがいい。
私は自由と引き換えに、恩恵を手に入れたいとは思わない。
人間の尊厳を失ってまでも施しを受けようとは思わない。
どんな権力者が現れようとも、決して萎縮せず
どんな脅威に対しても決して屈伏しない。
まっすぐ前を向き、背筋を伸ばし、誇りをもち、恐れず、自ら考え、行動し、創造しその利益を享受しよう。
勇気をもってビジネスの世界に敢然と立ち向かおう。


※強調部分は私によるものです。

上記引用のうち、強調表示した部分、
「私はギリギリまで計算しつくしたリスクに挑戦したい」
この、「ギリギリまで計算しつくしたリスクに挑戦」するのに、磯崎さんがおっしゃる「ファイナンスの世界は『こうすると後々こうなる』という因果が強く働く世界ですので、一定の『常識』を持つことが、将来の事業の発展を助けるのではないか」という考え方がピタリと合うように思います。


とはいえ、私も雇われの身ですので、あまり偉そうなことは言えないのですけどね。
ただ、大企業ではとても味わえなかった面白みを日々感じていることは確かです。

何はともあれ、「起業のファイナンス」は非常にお薦めの一冊ですので、このBlogの右端の「オススメコーナー」に追加しておきたいと思います。
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