民の見えざる手 デフレ不況時代の新・国富論 (2010/07/14) 大前 研一 商品詳細を見る |
今回も相変わらずの大前節がいかんなく発揮されています。
相変わらずと言えば、相変わらずなのですが、大前研一さんの場合はブレないところが大きな魅力でもあるので、やはり本質的な部分は「相変わらず」であったほうがいいのでしょう。
とはいえ今回俎上に上がっているのは、2010年夏時点の国内外の政治経済です。
「相変わらず」のブレない大前節で、いま現在の政治経済が語られる本書は、読んでおいて損はないでしょう。
一部の経済学者などからは、「経済のことがわかっていない」「決め付けが多い」などと批判されることもある大前研一さんですが、彼はコンサルタントであって学者ではないので、そこはそれ。学術的な緻密さを求める場合は、別の著者の本を読めばいいのではないでしょうか。
少なくとも、
「大前さんはそういうふうに見てるのね」
ということをいつも楽しみにしている私のような人は少なくないはずです。
さて、例によってamazonから目次を引用します。
プロローグ 経済学は、もう未来を語れない
第1章 (現状認識) “縮み志向”ニッポンと「心理経済学」
第2章 (目前にある鉱脈) 拡大する「単身世帯」需要を狙え
第3章 (外なる鉱脈) 「新興国&途上国」市場に打って出る
第4章 (規制撤廃が生む鉱脈) 真の埋蔵金=潜在需要はここにある
第5章 (20年後のグランドデザイン) 「人材力」と「地方分権」で国が変わる
エピローグ そして個人は「グッドライフ」を求めよ
目次に出てくる言葉も、いつもの大前さんですね(笑)
とはいえ「超セレブな」というような表現をされているところもあり、対象としている読者層は20代から30代前半くらいの若手ビジネスパーソンだということが推測できます。
本書では、リーマン・ショックからギリシャ危機、そして日本での政権交代と菅政権の誕生といった、ここ2年ほどの間に起こった事象を踏まえたうえで、国内外の政治と経済が語られています。
たいていの本では、このようなときに引き合いに出されるのは、欧米+BRICsの話題がせいぜいなのですが、大前さんの場合はウクライナやマレーシアといった、他のビジネス書ではそう多く紹介されないような国についての現状も書かれているところがミソです。
エネルギッシュに海外に出かけていかれる大前さんならではでしょうか。
今回も「相変わらず」、ロシアとの良好な経済関係を構築しろ、中国との付き合いを大切にしろ、韓国人を見習え、といったお約束の話題も出てきます。
しかし興味深かったのは、「韓国はあと10年」という話。
日本以上に少子高齢化が進み、国内で積み重ねてきたものも多くないだけに、韓国の勢いはそう長く続かないだろう、というような話でした。
そしてエピローグでは、第5章までで語ってきた、日本と世界の政治や経済状況の下、「個人がどう生きるか」について述べられています。
この部分は、大前さんの他の著書などをよく読まれている方にとって、特に新鮮な話題はないのですが、「為政者がダメな以上、クーデターを起こすしかない」という記述があり、少し驚きました。
読んでみるともちろん「武力によるクーデター」を推奨しているわけではありませんでしたが、私たち日本国民が個人でできる「クーデター」について、3つの方法が紹介されています。
そのうちの一つが、ハイパーインフレに備えて現金をモノに換えておき、長期固定金利で借金をしておけ、というものです。同様のことは随分前から藤巻健史さんもおっしゃってますね。
藤巻さんの場合は「ゆるやかなインフレが起きる」というような言い方だったように記憶していますが、やはりそれに備えておく必要性を主張していらっしゃいました。
(最近出版された『日本破綻 「株・債券・円」のトリプル安が襲う』は買ったまま読んでいないのですが、おそらく主張内容の根幹は変わってないものと思います)
というわけで、大前研一さんのこの手の本は、定期的に出版され、定期的に読まれる、というのがちょうどよく、私にとってもほどよいお付き合いの仕方だと思っています。