知的財産法入門 (岩波新書)知的財産法入門 (岩波新書)
(2010/09/18)
小泉 直樹

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この本は、「知的財産法入門」というタイトルが示すとおり、知的財産にまつわる法律全般の入門書として、非常にスグレモノだと思います。
非常に淡々と、しかしわかりやすく、知的財産に関係する法律や裁判例、それから現状についても教えてくれる一冊です。

「実は知財はさっぱりわからんのよね・・・」というような方にとっては、知的財産の世界の全体像をざっくり掴むのにお役立ちかと思います。
また、ある程度の知識を持っていらっしゃる方、例えば「消尽って何ですか?」と聞かれて「あぁ、それはね・・・」と冷静に答えられるような方にとっても、記憶の再確認や知識の整理に役立つのではないかと思います。


しかし逆にいえば、「主張しない本」でもあります。
「著者の考えを知りたいのだ」というような方は、間違いなく肩透かしをくらいます。
著者の小泉先生は、あくまで淡々と、かつニュートラルに、「知的財産法」について語られます。
ある意味当然のことですが、考えるのは読者の役目で、著者は、読者が考えるために必要となる最低限の知識を与えてくれるに過ぎません。

「教科書ではなく、「考えるときに使える本」を」

という編集長からのアドバイスがあったと、あとがきに書いてありましたが、まさにそのとおりに仕上がっています。
つまり、質の良い食材を与えられた読者が、自分自身で料理をすることに本書の意義があるのですね。

そしてここでさらに親切設計。
料理に「一味加えたい」と思う読者向けに、「文献案内」が巻末についています。これは、「さらに詳しいことをお知りになりたい方」向けのお薦め図書の紹介です。
それだけではなく、「参考文献」として非常に多数の書籍がきちんと一つ一つ丁寧に挙げられており、その中には裁判例も並べられています。
「文献案内」や「参考文献」でお薦めされている書籍は大部のものが多いので、「入門」からいきなりそっちに行くと挫折しそうですが、何はともあれ親切設計であることは間違いありません。
個人的な感覚としては、知的財産管理技能検定3級などを受験する方が、本書を事前に読んでおくと、スムーズに理解が進むのではないかと思います。


ところでちょうど先日読み終えたばかりの「インビジブル・エッジ」では、知的財産権、特に特許権や著作権の生まれた時代の海外事情が割と丁寧に書かれていました。
本書は日本においてそれらの権利がどのように取り入れられていったかの記述から始まっており、これまた興味深いところです。


「蔵版の免許」すなわち著作権について、「福澤屋諭吉」という屋号で出版業を営んでいた福澤は、無断出版行為対策を政府に訴えた経験がありました。



「福翁自伝」の中で、福澤諭吉さんが他人の書籍を複製しまくっていたことを述懐していただけに、少し興味深いところです。

最後に目次のうち大項目と中項目のみを抜粋しておきたいと思います。

はじめに
第1章 知的財産法のコンセプト
1 福澤諭吉と高橋是清
2 テクノロジー、ブランド、デザイン、エンタテインメントの法
3 国境を越える知的財産と各国の利害
第2章 保護されるものとされないもの
1 特許と営業秘密
2 ブランドとドメイン名
3 意匠、あるいは著作物としてのデザイン
4「個性的な表現」が必要な著作物
第3章 誰が権利を持っているのか
1 社員が発明した場合
2 ブランドが侵害された場合
3 デザインが無断コピーされた場合
4 著作物が生み出された場合
第4章 どのような場合に侵害となるのか
1 特許の心臓部分はどこか
2 紛らわしいブランド
3 デザインの類似
4 著作権の範囲はどこまでか
第5章 知的財産を活用する
1 テクノロジーの利用
2 ブランド名の使用
3 著作権のルール
終章 知的財産法をどう変えていくか
あとがき
文献案内
参考文献