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カテゴリ: 書籍(経営その他)

コーポレート・ガバナンスの経営学 -- 会社統治の新しいパラダイムコーポレート・ガバナンスの経営学 -- 会社統治の新しいパラダイム
(2010/03/31)
加護野 忠男、砂川 伸幸 他

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コーポレート・ガバナンスについては、このBlogでも過去に何度か本を紹介してきました。
今回ご紹介する一冊は、そのコーポレート・ガバナンスの「はじめの一冊」としてとてもよいのではないかと思います。
ただし第11章を除いて、という留保付きですが。


さて、例によって章立てから。


序章 経営学から論ずるコーポレート・ガバナンス論/会社統治論
第1章 株式会社と会社統治論
第2章 株式会社の仕組みと会社統治
第3章 アングロサクソン型の会社統治 ―米国を中心に
第4章 ライン型の会社統治 ―日本を中心に
第5章 日本の会社統治の過去
第6章 日本の会社統治の現在 ―日本が間違った時代
第7章 コーポレート・ガバナンスと資本コスト
第8章 コーポレート・ガバナンスと事業投資
第9章 コーポレート・ガバナンスと資本政策
第10章 日本企業の会社統治のもう一つの姿 ―プレイヤーとしての従業員、親会社
第11章 内部統制と会社統治



ご覧のように、コーポレート・ガバナンスの全体像から入り、アメリカを中心とした「アングロサクソン型」のコーポレート・ガバナンス、日本を中心とした「ライン型」のコーポレート・ガバナンス、そしてその日本のコーポレート・ガバナンスについて、過去から現在に至るまでの流れを俯瞰できるという点が、上述したように「はじめの一冊」として適当なのではないかと思う理由です。
これらの点をおさえておけば、昨今のコーポレート・ガバナンスに関する議論の理解がずいぶん促進されるのではないかと思います。


ちなみに第7章から第9章はやや毛色が異なり、ファイナンスとコーポレート・ガバナンスの話題が中心となりますが、コーポレート・ガバナンスを根本的な部分から考えるには、最低限の財務知識はやはり必要だということでしょう。


そして第10章では、最近とみに話題にされることの多くなった、ドイツの共同決定法を中心とした従業員による経営者への牽制や、親会社による経営者への牽制に関しても触れられています。この部分についても本書は、とても丁寧にわかりやすく説明してくれているので参考になるものと思います。
ところで個人的には第6章で採り上げられている、フランスのコーポレート・ガバナンスに関する話が、目新しく、また興味深いところでしたので、少し引用したいと思います。


このように他国同様、1990年代になって会社統治(管理者注:本書ではコーポレート・ガバナンスを「会社統治」と訳しています)改革の必要性に迫られたフランス企業であったが、改革を現実に進展させるにあたっては、統治改革それ自体はフランス経済全体の成長・競争力向上を後押しするための道具に過ぎず、あくまでもフランスに根づいている価値観を基盤として、これと整合的な仕組みを導入することなくして意味のある改革はなしえないとの認識が共有されていた。それゆえ、弱点とされた経営を監視する仕組みの形骸化については、いわゆる「米国流」の改革例を一部模範とすることで仕組みの強化を図りつつ、あくまでも、フランスにあった会社統治に関わる基本的な価値観、たとえば国家経済全体の中長期的な成長・競争力向上や、利害関係者総体としての利益重視、これらを自国の長所とみなして、それらは以前どおりに保持したままでの改革であった。
企業不祥事の頻発や英米の機関投資家による「発言」がフランス企業にも押し寄せていたのは、日本企業と同様であった。しかし日本などと同様に「唯一絶対」の姿を想定することはなく、自国の実態にある優劣を分析したうえで統治改革を進めていったのである。




日本が「唯一絶対」の姿を想定しているかどうかは異論もあるかと思います。しかしコーポレート・ガバナンスというと、社外取締役や独立役員といったアメリカの発想を採り入れる話に直結したり、最近ではドイツの発想を採り入れて従業員代表(選任)監査役を導入しようという話になったりという話になりがちです。
この点は、以前の記事でも触れたように、「主権論」をもう少し考えてみる必要のあるところだと思います。

その「以前の記事」でご紹介した伊丹敬之教授は、「日本型コーポレートガバナンス」において、以下のように主張されています。


主権論とは、企業の主権は誰が担うのがもっとも適切か、という議論である。そして、資本を提供する株主と働く人々の両方が企業には共に重要であることを考えれば、それはその二つのグループの間でどのように主権を分かちあうか、という問題になる。カネもヒトも企業活動に必須である以上、主権をどちらかが排他的に持つのであれば、それは問題をはらむことになることは容易に想像される。したがって、主権論とは排他的議論ではなく、株主がメインになるのか、従業員がメインになるのか、あるいはまったく対等で行くべきか、といったことが議論の対象になるような問題領域である。
会社法の世界では、株主主権をあらかじめ想定してしまっているが、それだけでいいのか、という議論が必要なのである。
(太字部分は管理人によるものです)



最後の太字部分については、今回ご紹介している加護野忠男教授も同じ問題意識をもっていらっしゃるようです。
現状として、私たち企業法務担当者は、現に存在する会社法を前提として日々の業務を行っていかざるを得ないのですが、会社法の見直しがなされようとしている今この時期においては、少し立ち止まって「主権論」から考えてみることも有益なのではないでしょうか。
少なくとも私たちは会社法を、当事者として実際に日々利用しているわけですから、自社にとって或いは日本企業にとってどのようなコーポレート・ガバナンスがよりよい姿、より自社にフィットする姿であるのかを考えることが必要だと思います。


さて、この記事の冒頭で私は、「ただし第11章を除いて」、「はじめの一冊として適当なのでは」と書きました。
この点について少々補足しておきたいと思います。
第11章は「内部統制と会社統治」というタイトルで、これでもかと言わんばかりに内部統制のマイナスの側面について書かれています。
これは、本書が出版されたのが2010年3月30日と、まさに日本の上場企業が内部統制システムの構築に振り回された直後であった影響も大きいのではないかと思います。
例えば以下のようなものです。


実務家の間には、内部統制の制度は本当に必要かという疑念を抱く人々が多い。われわれも、法律に定められているような内部統制は必要のない制度だと考えている。それだけでなく、企業経営に害を及ぼす可能性すらあると憂えている。



内部統制への対応コストは平均1億6,000万円、そして小規模な会社ほど負担するコストは高くなっているとの調査も提出されている。



このように、いわゆる"J-SOX"導入初年度の情報やデータをもって、内部統制を否定的に捉えています。
この点に関して最近では、内部統制のレベル感も徐々に共通の認識として一定のところで落ち着いてきているように感じていますので、必ずしも負の側面ばかりが目につく状況ではなくなっているのではないかと思います。
確かに加護野教授がおっしゃるように、


会社統治制度それ自体には意味はない。統治によって経営をよりよくし、企業価値を高めることが目的である。統治のために実際に発生する金銭的なコストのみならず、制度を運営する過程で発生する時間や人材の無駄遣い、それによって奪われてしまう事業機会も、コストと考えるべきである。また、リスクに挑戦しないことほど、よりよい経営の妨げとなるものはない。よい経営を実現させるために必要なことの多くにはリスクがともなうためである。
内部統制、コンプライアンスの問題を経営学の視点から考えていくためには、こうした点への目配りも重要である。


という点には同意するのですが、「はじめの一冊」として本書を手にされた方にとって、内部統制に対する上記のような主張は、ミスリードの危険があるのではないかと思います。
これは私が勝手に「はじめの一冊」と言っているだけではなく、本書の冒頭においても、「本書は(略)学部生・院生諸君を読者対象としている」と書かれているので、内部統制への偏った見方が植えつけられることに若干の懸念があるわけです。


しかしながら本書を全体として捉えるとやはり、網羅性や説明のわかりやすさといった内容面、また、注釈、参考文献一覧、親切な索引といった形式面においても、コーポレート・ガバナンスの「はじめの一冊」としてお薦めしたい一冊です。
というわけで、このBlog の右端に「オススメ」として登録決定。
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株式会社ミスミグループ本社のCEOである三枝匡会長(2011年7月時点)は、ボストン・コンサルティング・グループ出身で、「V字回復の経営」などの著書でも有名ですが、今回ご紹介する本の著者である一橋大学大学院教授の沼上幹先生もやはり、株式会社ミスミグループ本社の非常勤取締役を務められています。

経営戦略の思考法経営戦略の思考法
(2009/09/26)
沼上 幹

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この本を読んで最初に感じたのは、「この内容でこの価格は値付けがおかしいのではないか」という、余計なお世話でした。
というのも、1,900円+税で、これだけ充実した内容の本を読めるというのは、ちょっとした驚きだったからです。

さて本書は全体が3部構成になっており、それぞれが割と独立性の高い構成となっていて、どこを読んでも興味深いのですが、どのように分けられているのか、少し長いのですが著者の言葉を引用してみたいと思います。


まず第Ⅰ部では、これまでの経営戦略の考え方について、過去の経営戦略論を振り返り、相互の位置関係を明らかにする作業を展開する。経営戦略論の領域に関して、いわゆる「学説史」を、ややラフにではあるが、それでも全体がある程度見通せるように記述している。
この学説史の整理を通じて、近年の経営戦略論の領域では、時間展開・相互作用・ダイナミクスを解明する思考法が重要であることが指摘される。とりわけ典型的な日本企業に関して言えば、市場での競争的な相互作用とともに、組織内の相互作用まで含んだダイナミックな議論が研究上魅力的な領域であると思われる。このように考えて、この種の「時間展開・相互作用・ダイナミクス」を読み解くための思考法を、まさに思考法そのものに注目して記述するのが第Ⅱ部である。
この思考法を実際に用いて、日本企業にとって意味のあると思われる経営戦略と経営組織の相互作用の問題を議論するのが第Ⅲ部である。顧客・競争・シナジー・選択と集中・組織暴走などを主要なテーマとして議論していく。最後に、実践を積み重ねつつ時々理詰めの座学を学ぶことの意義を主張して本書が締めくくられる。



第Ⅲ部に軽く触れておくと、実際のケースを通じて、「イノベーションのジレンマ」「差別化」「競争回避」「ネットワーク外部性」「シナジー」「選択と集中」「組織暴走」などのテーマについての考察がなされており、読み物としても大変面白いものとなっています。
しかも単純にそれらのテーマがどのようなものであるのか、ということの説明だけに留まらず、その問題点や「ではどうすればその問題点を乗り越えられるのか」といった部分にまで言及されているところが非常に興味深いところです。

第Ⅱ部は「思考法」についての記述ですが、本書のタイトルが「経営戦略の思考法」と付けられていることからも、本書の重要な部分であることが伺われます。
実際には、第Ⅰ部における経営戦略論と第Ⅲ部におけるケースや種々のテーマの橋渡し的な役割を担っているように思います。
一部引用すると、


第Ⅱ部では、経営戦略の思考法、あるいはより広く社会科学の思考法そのものに焦点を当てて解説を加えていくことにしたい。まず第8章では、経営戦略論(社会科学・社会的な言説)に登場する基本的な思考法を3つに分類し、それぞれの特徴を解説する。カテゴリー適用法・要因列挙法・メカニズム解明法という3つの理念型的な思考法を提示し、基本的にはメカニズム解明法が最も妥当な思考法であり、その他の2つはメカニズム解明法的な思考のための準備として、あるいは大規模な組織内で基本方針を伝達するためのコミュニケーションの型としての効用があることが指摘される。



個人的には、メカニズム解明法と名づけられた思考法も、その前提としていわゆる「クリティカルシンキング」と呼ばれる、ものごとに対する考え方が必要とだと思うので、過去にも何度かお薦めしている「クリティカルシンキング (入門篇)」はやはり読んでおくべき一冊だな、と再確認しました。


さて、何だかんだ言っていますが、私にとって最も興味深かったのは第Ⅰ部です。
ここでは既存の経営戦略論を大きく5つに分類し、それぞれについて詳細な説明がなされています。
本書でも言及されていますが、ヘンリー・ミンツバーグの「戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック」では、これらの経営戦略論が10個に分類されていたのですが、本書はさらにそれを5つにまで「ざっくりと」分類しています。
具体的には以下の5つ。

1.戦略計画学派
2.創発戦略学派
3.ポジショニング・ビュー
4.リソース・ベースト・ビュー
5.ゲーム論的アプローチ

そして上記の5つに戦略論を分類したうえで、本書のサブタイトルにもある「時間展開・相互作用・ダイナミクス」という視点から、再度それらを整理し直しています。
この点に関する説明を引用したいと思います。


学説の整理を行う際に、基本的には5つの経営戦略観に分類して議論を進めていく。すなわち、①アンソフに代表される戦略計画学派、②ミンツバーグに代表される創発戦略学派、③ポーターに代表されるポジショニング・ビュー、④バーニーやプラハラードとハメル、伊丹に代表されるリソース・ベースト・ビュー、⑤ブランデンバーガーとネイルバフに代表されるゲーム論的アプローチの5つである。
これら5つの戦略観を代表する人々の業績を中心に紹介しながら、経営戦略論に出現する主要な概念を解説した上で、それら相互の関係について3つの次元を用いて整理を行う。3つの次元とは、①事前の合理的設計重視VS事後の創発重視、②市場ポジションの重視VS経営資源の重視、③安定的構造重視VS時間展開・相互作用・ダイナミクス重視である。



ご覧頂けばおわかりになるとおり、経営戦略をざっくりと理解するにはほどよい分類方法なのではないかと思います。
そしてこの分類は、おおまかに1960年代からの経営戦略論を時系列に沿って理解するうえでも有効なように思います。
具体的には1965年以降の戦略計画学派、そのアンチテーゼとして1973年頃登場した創発戦略学派、そして1980年のポーターを中心とするポジショニング・ビュー、1984年頃からのリソース・ベースト・ビュー、そして1996年あたりから本格的に論じられるようになったゲーム論的アプローチ。
この一連の流れを読むと、何だかこう、すっきりと頭の中が整理された気がします。


以上、本書からいくつかの箇所を引用しつつご紹介してきましたが、「お薦めですよ~」というくらいしか、私ごときが言えることはありません。
ただ1点、法務担当者の視点として興味深かったのが、ゲーム論的アプローチについて書かれている第Ⅱ部6章のうち、「取引条件の分析」なるところ。


ゲーム論的なアプローチは、ゲームのルールなどが明確になる場面で有効性を発揮するので、具体的な取引契約の分析などに興味深い知見を生み出している。



として、ラスト・ルック条項(last-look clause)、競争対応条項(meet-the-competition clause)、また、ベスト・プライス条項(best-price clause)、最優遇条項(most-favored-customer clause)といった契約条項についての具体的な事例が述べられています。

引用すると長くなるのでやめておきますが、メーカーの法務担当者の方などにとっては参考になる考え方なのではないでしょうか。


とても気に入ったので、このBlogの右側にあるウィジェットに登録決定。
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金融庁が公開している「資金移動業社一覧」(平成22年10月末現在)を見て少々驚きました。
というのも、資金移動業者として登録されているのは、以下に掲げるたった6社だけのようだからです。

トラベレックスジャパン株式会社
楽天株式会社
株式会社ジェイティービー
株式会社ウニードス
Western Union Payment Services UK Limited
ジャパンマネーエクスプレス株式会社
(なお、登録業者については渡邉雅之先生のBlogで既に簡単にまとめられていましたので、併せてご覧頂ければと思います)

今年の4月1日に施行された「資金決済に関する法律」(資金決済法)ですが、施行から半年が経過した時点では、資金移動業への参入企業はまだまだ少ない状況にあるようです。


私は今年2月のエントリーで、コンビニの収納代行や、宅配便業者の代引きサービスについて、「一応の解決を見た」と書きました。
なお、上記エントリーには若干の誤解もあり、のちに金融庁が公表した「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」のうちNo.148のコメントにあるように、収納代行や代引きについては「性急に制度整備を図ることなく、将来の課題とすることが適当」として、当面は登録せずとも業務を継続することに問題がないとされているようです。

しかしいずれにしても、大企業がこぞって参入することを予想していた私としては、登録業者の少なさに少々驚いたわけです。


さて、中央大学ビジネススクールの杉浦宣彦教授と、杉浦教授を中心とした「決済研究プロジェクトチーム」名で今年の6月に出版された下記の書籍。
発売時に買って満足していたのですが、最近ようやく読むことができました。

決済サービスのイノベーション―資金決済法で変わるビジネス・生まれるビジネス決済サービスのイノベーション―資金決済法で変わるビジネス・生まれるビジネス
(2010/06/11)
決済研究プロジェクトチーム杉浦 宣彦

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プロジェクトチームのメンバーが全員NTTデータ経営研究所の方で、「協力」として名前が並んでいる方々も全員NTTデータの方であることが少し気になりますが、資金決済法の概要や創出されることが予想されるビジネスに関する考察は、非常に興味深いものでした。

本書によれば資金移動業者として登録を受けると予測される業種について、以下のように述べられています。


では、誰がこの資金移動業者として名乗りを上げるのだろうか。本書ではまず携帯電話キャリア、コンビニエンスストア、ECサイトを挙げてみた。この三者が自らの有する既存の経営資源を使って、新しいマーケットを牽引していくのではないかと考えられるからだ。



上記3業種のうち、既に登録を受けているのは楽天1社のみですが、携帯電話キャリアが遠からず参入してくることは、ほぼ確実ではないかと思います。


また本書は、資金移動ビジネスのマーケットが拡大していく過程を以下のように3つのステップに分けて論じています。


資金決済サービス市場がどのように拡大していくか。ここでは、その拡大ステップについて考えていく。資金移動ビジネス市場は、草創期、成長期、普及期の3つのステップを経て成長していくと予想される。


この3つのステップ自体は特に目新しいものではありませんが、それぞれのステップにおいて、どのような業者がどのような形で参入してくるか予想されている点が、本書の興味深い点です。

ごく大雑把にいうと、「草創期」においては大企業がデファクトスタンダードになることを狙い参入し、「成長期」においては中小企業事業者が、大企業が扱えないサイズのニッチのマーケットに参入し、「普及期」には資金移動業者間をまたがる資金決済に対応する機関が登場する、というところでしょうか。
確かに大企業の持つ経営資源でもって、ある程度の基盤ができあがってからでないと、中小企業の参入は若干難しいのではないかと思います。
それは以下の2つが、中小企業にとって大きな参入障壁になると予想するからです。

①未送金金額の100%を供託する必要がある
②マネーロンダリング規制がある


①については最低でも1,000万円のキャッシュを準備する必要があり、②については「電子的にデータを取り、取引モニタリングを行い、その利用者の利用状況にどのような傾向があるかを監視し、いわゆる疑わしい取引などを抽出して金融庁に報告しなければならない」というものです。
いずれも資金決済ビジネスの規模を大きくしようと目論むと、先行投資も大きくせざるを得ません。
そのため中小企業としては大企業のシステムに乗っかるか、中小企業同士でアライアンスを組むかという方法でないと、「草創期」に参入することは難しいのではないかと予想しています。
とはいえニッチなビジネスで、本業の付加価値として提供するサービスとしてであれば、上記の参入障壁はさほど問題にはならないかも知れません。
このあたりは、本書においても以下のように説明されています。


(略)本業でしっかりとした収益を上げられ、既存の経営資源をもって付随的に資金決済サービスを提供することができるような事業者であろう。資金決済サービスそのもので収益をあげられないとしても、サービスを提供することで本業の利益に寄与できればいいのだ。このような事業者が現れれば、手数料が限りなくゼロに近づくという状況が、近い将来に起こりうる。



いずれにしても、これまで銀行にしか取り扱えなかった業務の一部が、一般の事業会社に開放されたことは画期的なことです。
今後さまざまな企業が資金移動業に参入し、ユニークなサービスを競い合い、さらに補完し合う関係を構築していけば、大きなイノベーションが起きるのではないかと思います。
また、「ウチの会社には関係ない」と考える方もいらっしゃるかと思いますが、「どうやってウチのビジネスに活かせるか」という視点で考えてみると面白いのではないかと思います。


<おまけ>
ちなみに、「そもそも資金決済法とは何ぞや?」ということを知りたい方は、以下のリンク先をご覧頂ければ、概要をご理解頂けるのではないかと思います。
  
 「新たな資金決済サービス」金融庁

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起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと
(2010/09/30)
磯崎 哲也

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ご存知「isologue」の磯崎哲也さんの著書です。

もう既にあちらこちらのBlogで書評がなされていて、今さら私ごときがウダウダ書く意味はない気もしています。
しかしサブタイトルに「ベンチャーにとって一番大切なこと」とあり、私自身ベンチャー企業で、経営にとても近いところで法務の仕事をしていることから、少し感想程度のものを書いてもいいのかな、と思った次第です。


さて、本書の一番の特徴、それは「類書がない」というところではないでしょうか。
「なんじゃ、そりゃ」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、これ、結構重要です。

何はともあれ、まずは目次をご覧ください(章のみ抜粋しています)。


序章  なぜ今「ベンチャー」なのか?
第1章 ベンチャーファイナンスの全体像
第2章 会社の始め方
第3章 事業計画の作り方
第4章 企業価値とは何か
第5章 ストックオプションを活用する
第6章 資本政策の作り方
第7章 投資契約と投資家との交渉
第8章 種類株式のすすめ
おわりに



「会社のつくり方」とか「事業計画の作り方」などというお手軽な本は、本屋に行けばヤマとあります。
一方、「企業価値」「ストックオプション」「資本政策」などに関する分厚い本も、本屋に行けばいくつか見つけることができるでしょう。

本書はこれら、ベンチャー企業の経営に関わる方であれば知っておくべきトピックを、「ベンチャー企業のファイナンス」という切り口で、ブスっと横串で刺したうえで、非常にわかりやすく説明してくれています。

この切り口、このレベル感、このわかりやすさ。
少なくとも私は類書を知りません。
この本があと2年早く手許にあればずいぶん助かっただろうな、と思います。

というのも、リンクを貼るのも恥ずかしいのですが、1年半ほど前のエントリーで私は、ストックオプションの組立てに関して、


弁護士の知識と会計士の知識を併せ持っていて、司法書士ばりの手続きに関する知識を持っているスーパーマンがいればいいのにな、とないものねだりをしている今日この頃です。


と書いて、「企業法務について」のkataさんに、「じゃあ、お前がそうなれや!」とチクリとコメントされたことがあるのですね。

上記リンク先のエントリーは、ストックオプションに関して書いたものですが、ベンチャー企業で法務をやっていると、(もちろん会社にもよるとは思いますが)ファイナンスに関わる機会というものが非常に多いんですね。
そういう意味において、「類書がない」本書のありがたみというものが、身に沁みてわかるのです。

ちなみに本書「第5章 ストックオプションを活用する」には、以下のような記載があります。


このため、ストックオプションの発行というのは、(略)法律、会計、税務など、いろいろな技を使う必要がある「総合格闘技」的なものになっています。


さらに、税制適格ストックオプションに関しては以下のように述べられています。


企業価値や税務などがからんで大変ややこしい話ですので、他の条件ともども専門家にご相談されることをお勧めします。



まさにこの点で私は弁護士と公認会計士と司法書士(あと税理士もですね)の知識・経験を兼ね備えたスーパーマンを求めていたわけです。
この点、磯崎さんもおっしゃっているように、最終的にはそれぞれの専門家に相談しておく必要があるのでしょうが、少なくとも本書を読んでおけば、そこにどのような問題があって、どの専門家に相談する必要があるかという感覚はつかめて、致命的なポカはなくなるはずです。


以上、例としてストックオプションを挙げさせてもらいましたが、もちろんストックオプションに限らず、このようにベンチャー企業が遭遇するファイナンスにまつわる問題を、本書は全般的に網羅してくれています。
そのため、ベンチャー経営に1ミリでも関わりのある方は、一読しておくことを強くお勧めします。


ところで、「おわりに」で磯崎さんはベンチャー企業を以下のように定義されています。


ベンチャー企業とは、誰もわからない未来にチャレンジする企業のことです。


以前引用したような気もするのですが、村上龍氏も「無趣味のすすめ」の中で、


小規模で孤独な環境から出発し、多数派に加入する誘惑を断固として拒絶すること、それがヴェンチャーの原則である。


と述べられています。
そしてせっかくの機会なので最後に、私のお気に入りの言葉をご紹介しておきたいと思います。
それは早稲田大学の松田修一教授の「ベンチャー企業」 (日経文庫―経営学入門シリーズ)という本で引用されているアメリカのDean Alfangeという政治家の言葉です。


   起業家宣言
私は平凡な人間にはなりたくない。
自らの権利として限りなく非凡でありたい。
私が求めるものは、保証ではなくチャンスなのだ。
国家に扶養され、自尊心と活力を失った人間にはなりたくない。
私はギリギリまで計算しつくしたリスクに挑戦したい。
つねにロマンを追いかけ、この手で実現したい。
失敗し、成功し・・・七転八倒こそ、私の望むところだ。
意味のない仕事から暮らしの糧を得るのはお断りだ。
ぬくぬくと保証された生活よりも、チャレンジに富むいきいきとした人生を選びたい。
ユートピアの静寂よりも、スリルに満ちた行動のほうがいい。
私は自由と引き換えに、恩恵を手に入れたいとは思わない。
人間の尊厳を失ってまでも施しを受けようとは思わない。
どんな権力者が現れようとも、決して萎縮せず
どんな脅威に対しても決して屈伏しない。
まっすぐ前を向き、背筋を伸ばし、誇りをもち、恐れず、自ら考え、行動し、創造しその利益を享受しよう。
勇気をもってビジネスの世界に敢然と立ち向かおう。


※強調部分は私によるものです。

上記引用のうち、強調表示した部分、
「私はギリギリまで計算しつくしたリスクに挑戦したい」
この、「ギリギリまで計算しつくしたリスクに挑戦」するのに、磯崎さんがおっしゃる「ファイナンスの世界は『こうすると後々こうなる』という因果が強く働く世界ですので、一定の『常識』を持つことが、将来の事業の発展を助けるのではないか」という考え方がピタリと合うように思います。


とはいえ、私も雇われの身ですので、あまり偉そうなことは言えないのですけどね。
ただ、大企業ではとても味わえなかった面白みを日々感じていることは確かです。

何はともあれ、「起業のファイナンス」は非常にお薦めの一冊ですので、このBlogの右端の「オススメコーナー」に追加しておきたいと思います。
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プラットフォーム戦略プラットフォーム戦略
(2010/07/30)
平野 敦士 カール  アンドレイ・ハギウ

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先日、某社が主催する、本書の著者である平野敦士カール氏のセミナーに参加する予定でした。
そしてお金もきっちり振り込んでいたのですが、当日どうしても都合がつかず参加できませんでした。

本書はセミナーに参加できなかったことを非常に悔やんでしまうほど、著者の「プラットフォーム戦略」に関する高い識見や、「プラットフォーム戦略」の有意性に触れることのできる一冊です。


ここ数年、「プラットフォーム戦略」という言葉を耳にしたり口にしたりということが増えてきているように思います。
私も、おそらくはこれを読んでくださっている皆さんのビジネスにおいても、「プラットフォーム戦略」は非常に有意なものであるのではないかと思います。
そして自社の「プラットフォーム戦略」について思いを巡らせながら本書を読むと、あまりに興味深いテーマの数々につい引き込まれてしまうことでしょう。

企業法務パーソンである私たちも、自社が何らかのプラットフォームを提供しているとき、或いは、プラットフォームに参加するとき、長期的な視点から自社に不利な契約となってしまわないよう、本書の内容を知っておくことが必要になるのではないかと思います。
なぜなら、今やほとんどのビジネスは何らかのプラットフォームを提供したり、何らかのプラットフォームに参加したりしなくては成り立たなくなってきているからです。

例えば「はじめに」で著者が例として挙げているだけでも、以下のようなプラットフォームがあります。


たとえば商店街、婚活カフェ、クレジットカード、ショッピングモール、病院、雑誌や新聞、おサイフケータイ、iモード、Wii、プレイステーション、ビジネス・スクールなどの教育機関、証券取引所、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やツイッター、築地市場、六本木ヒルズなどでも使われています。



これらの例をみると、「考えようによってはウチのあのサービスもプラットフォームだなあ」と思われる方も多いのではないでしょうか。


本書では「プラットフォーム戦略」の定義といえるようなものが3回登場しますが、


多くの関係するグループを「場」(プラットフォーム)に乗せることによって外部ネットワーク効果を創造し、新しい事業のエコシステム(生態系)を構築する戦略


という定義が、ここで紹介するには最もシンプルかつわかりやすいかと思います。


さて、例によって目次を引用します。


1.世界最先端のプラットフォーム戦略とは?
2.ケースで学ぶ 勝つプラットフォーム構築のための9つのフレームワーク
  ①事業ドメインを決定する
  ②ターゲットとなるグループを特定する
  ③プラットフォーム上のグループが活発に交流する仕組みを作る
  ④キラーコンテンツ、バンドリングサービスを用意する
  ⑤価格戦略、ビジネスモデルを構築する
  ⑥価格以外の魅力をグループに提供する
  ⑦プラットフォーム上のルールを制定し、管理する
  ⑧独占禁止法などの政府の規制・指導、特許侵害などに注意を払う
  ⑨つねに「進化」するための戦略を作る
3.プラットフォームの横暴にどう対処するべきか
4.フリー、オープン化という「負けない」戦略
5.日本企業復活への処方箋
※Chapter2以外は、小項目を省略させて頂きました。



話は少し逸れますが、ずいぶん前に土井英司さんが出版に関して、「売れる著者であれば自分で出版社を持った方が間違いなく儲かる。しかしそうすると他の出版社が敵になる。そこで(紙の出版に限らず)どのメディアが最も効果的に読者を集められるかを見極めながら、優良なコンテンツを提供し続けるという選択をする考え方もある」という趣旨のお話をされていたことがあります。(正確に再現できていないかも知れませんがご容赦を)

一方、一般的な法律雑誌などでは、弁護士や学者そして官僚や大企業の法務部課長クラスでないと、法律に関係することについて表現する機会を得ることは難しいのが現状ではないかと思います。
私はずいぶん前からこの状況に疑問を感じていて、何の「権威」もない私のような人間の拙い論考などを発表する場を作りたいなあ、などとぼんやり考えていました。つまり法務系同人誌のようなものですね。(私の場合は「権威」だけでなく「内容」もないのですが)
もちろんBlogという場で発表することは、いつでも誰でもできるのですが、「権威」に対するアンチテーゼの意味も込めて、「出版」という形が望ましいと考えていました。

これは「ITエンジニアのための『契約入門』」という形で、気がついたら実現していました(「権威」に対するアンチテーゼという意識や意味合いは全くありませんでしたが)。

つまり、Appleの提供するプラットフォームに乗ることによって、「出版」という表現の場を持つことができたわけです。
そしてApple、amazonやGoogleなどは、いかに自分たちの提供するプラットフォームにお客を集めるか、ということに、今まさに凌ぎを削っている真っ只中です。
これはmixi、GREE、モバゲーという日本のSNSでも同様です。

このようにして「プラットフォーム戦略」は、気がつくと身の回りに溢れていて、いろいろな企業がより魅力的なプラットフォームを構築しようと励んでいるんですね。
そこに参加するにも、プラットフォームを提供するにも、「プラットフォーム戦略」の考え方を知っておくことは、もはや避けて通れないのではないでしょうか。


さて、著者は本書で、プラットフォームには5つの機能があるといいます。
それは以下のとおり。
①マッチング機能
②コスト削減機能
③検索コストの低減機能(ブランディング・集客機能)
④コミュニティ形成による外部ネットワーク効果・機能
⑤三角プリズム機能

そして「勝てるプラットフォーム」を作る際の重要なポイントとして以下の3つを挙げます。
①自らの存在価値を創出すること(検索コストと取引コストを下げる)
②対象となるグループ間の交流を刺激すること(情報と検索)
③統治すること(ルールと規範を作りクオリティをコントロールすること)

③の「統治すること」というのは意外かも知れません。
しかし、「そのプラットフォームがもつ特徴と、集まっているグループのクオリティが一定であることを維持、進化させていくことが大切」ということで、例えば時に"検閲"とまでいわれるAppStoreの品質維持の取組みを正しい戦略であると評価しています。


さらに、「プラットフォーム構築の9つのフレームワーク」として、プラットフォームを構築するまでの9つのステップが紹介されており、上記目次「2.」のとおりの項目が挙げられています。
この部分は本書のキモとなる部分ですが、一つ一つ紹介していればキリがないほど、有益な情報や考え方が詰まっているので、是非本書を手に取って読んで頂きたいところです。
1ヶ所だけ引用すると、


この際によくいわれるのが「にわとりと卵の議論」です。つまりにわとりがいるから卵が生まれたのか、卵があるからにわとりが生まれたのかという比喩のように、よいコンテンツがあるから人が集まるのか、人がいるからよいコンテンツが集まるのか、という問題です。べつの言い方をすればポジティブ・フィードバックの1回転目をいかにして起こすかという問題です。


この最後の一文は示唆に富んでいて、私に貴重な「モノの考え方」を教えてくれました。


そして著者は、こうしてできあがたプラットフォームは、「プラットフォームの横暴」と呼ばれる3つのパターンの道を辿る傾向があるといいます。
それは、
①利用料の値上げリスク
②プラットフォーマーによる垂直統合リスク
③プラットフォーマーが顧客との関係を弱体化させるリスク
の3つです。
特に①の「利用料の値上げリスク」は、私たち法務担当者としてもプラットフォームに参加する時点から、自社の担当者と情報をよく交換したうえでリスクを想定し、契約書に反映させておく必要のある部分ではないかと思います。(プラットフォームを提供する場合も同様です)

著者も、楽天市場を例に挙げて以下のように言っています。


参加している店舗側の交渉力はきわめて小さくなってきているのが現実です。後にお話するように、本来はこうした事態を予測し、契約書などで自社のビジネスを守る対策を加入時にとるべきだったのです。



また、有名なトイザらスとアマゾンの訴訟の話についても以下のように評価しています。


このケースにおけるトイザらスの戦略の失敗はどこにあったのでしょうか。
2000年の契約前においては、玩具販売小売全米トップのトイザらスはアマゾンよりも圧倒的に優位な立場にあったはずです。つまり、契約上の甘さがあったといえるでしょう。
(略)
ではこの場合、トイザらスはどのような契約交渉をすべきだったでしょうか。
たとえばですが、独占契約条項とともに、それに違反した場合の損害額をあらかじめ明記すること、あるいは競合のほかの小売店からあがる売上の一部からもレベニューシェアを得るような、玩具部門におけるプラットフォーム・オン・プラットフォームの可能性を交渉すべきだったといえます。まだアマゾンがそれほど大きなプラットフォームになっていなかった段階であれば、十分に交渉の余地はあったのではないかと思うのです。



このように、プラットフォームというものの重要性が増してきている今日、法務担当者である私たちも「プラットフォーム戦略」の概要は理解しておく必要があるのではないかと思います。
そして自社がプラットフォームを提供するとき、プラットフォームに参加するとき、目先の利益に飛びついてしまうことのないよう注意する必要があります。
そして長期的な視点から、不利な契約を締結してしまうことのないよう、プラットフォームというビジネスの本質を見る「目」を鍛えておきたいものです。
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