風にころがる企業ホーマー

企業法務や経営に関する話題を中心に、気ままに情報発信してます。

カテゴリ: 書籍(ビジネス)


ホウレンソウはいらない!―ガラパゴス上司にならないための10の法則ホウレンソウはいらない!―ガラパゴス上司にならないための10の法則
(2011/11/10)
本田 直之

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何だか久しぶりに本田直之さんの本を読んだように思います。
相変わらず「スー」っと読めてしまう、読みやすい文体・リズムで書かれているので、ついつい「スー」っと読み飛ばしてしまいそうになります。

ここ数年、「仕事術」といった類の本は全く読まなくなっていたのですが、「あっ、本田直之さんの本が出てる」と、本屋で何気なく手に取ってパラパラと眺めていたところ、

契約書管理

という項目が目にとまり、「法務担当者としては読まざるを得ないだろう」と思い、買ってみた次第です。


さて、例によって目次の一部を抜粋したいと思います。


CHAPTER1 ガラパゴスマネージャーになるな!
コミュニケーションギャップ
ITの進化

CHAPTER2 変化の時代―マネージャーのサバイバル・スキル
1 非クリエイティブ仕事術
2 コミュニケーション術
3 IT活用術

CHAPTER3 フレームワーク仕事術への進化

CHAPTER4 フレームワーク仕事術のメリット
1 チームマネジメント力がアップする
2 進捗管理(フレームワーク化)が簡単になる
3 ノウハウ蓄積が容易にできる
4 効率化が進む

CHAPTER5 クラウドでフレームワークを実践する
1 クレーム処理
2 商談進捗管理
3 契約書管理
4 チームでの制作物作成
5 イベントのToDoリスト
6 問題解決データベース

本書で挙げた仕事の問題を解決するためのソフトウェア&システム
ガラパゴス上司になるための10の法則



本書の特色は、「CHAPTER5 クラウドでフレームワークを実践する」にあるかと思いますし、CHAPTER4までの記述もそこに行きつくための布石であるように見受けられます。

そのCHAPTER5では、6つの「仕事の問題」が挙げられていて、それを解決するための「クラウドサービスの活用例」といったものが紹介されています。
しかしこの部分は、人によって、あるいは状況によっては何らかのヒントが得られるかも知れませんが、かなり唐突な印象を受けました。
「そんな活用例を挙げられても、業務フローの変更を伴うクラウドサービスの導入を、たいていの会社ではそう簡単に決められないぞ」という、違和感のようなものです。
またCHAPTER5の後に続く、「本書で挙げた仕事の問題を解決するためのソフトウェア&システム」というところで、いくつかのソフトウェアが紹介されているので、「ああ、ちゃんと親切に紹介してくれているんだな」と、ちょっと安心するのですが、実際に紹介されているのはプロジェクト管理のためのソフトウェアやサイボウズといったグループウェアばかりで、ある程度の規模の会社になると、気軽にスイッチするわけにもいかないのではないかと思います。

また、6つの問題を解決するためのクラウドサービスの活用例は、それぞれ自社にとって使いやすいようにカスタマイズされたものが前提になっているようですが、それであれば紹介されているようなソフトウェアではなく、何かしら開発作業の発生するソフトウェアが必要になってくるのではないかと思い、「いっそのことAccessで作っちゃったほうが安くて早いんではないだろうか」と思ったりします。
(もちろん考え方や利用法は十分参考になるとは思います)

そのようなわけで、契約書管理の項目も、残念ながら法務担当者の視点からすると「うーん」と首をかしげざるを得ない内容でした。(残念!)


しかし、

そこは本田直之さん。
CHAPTER5のおかげで、本書のターゲットが今一つよくわからないことになってしまっているものの、そこに至るまでの内容はやはりなかなか面白いものです。

30代から40代のプレイングマネージャー(私もそう)が、いかに効率的にチームを動かし、よりクリエイティブな仕事に取り組む時間を確保するか、ということについて、ITの活用という切り口から述べられています。
この点は私も「いかにして考える時間を確保するか」ということを常に意識しているだけに、とても興味深いものでした。
さらには、ほんの数年前までは効率的なITの活用法として認識されていたものが、既に陳腐化しているのだよ、ということを教えてくれています。
このような記述をヒントに、自分でしっかり考えたり試したりしていくことが必要なのだと思います。

そういえば、
なぜか、「仕事がうまくいく人」の習慣 4.0
では、
「仕事の効率を上げるための仕事に取り組もう」
と、定期的に自分の仕事のやり方を改善する時間を設けることの必要性が提唱されていましたが、やはり「これでOK」と安心しきることなく、個人レベルでも組織レベルでも、不断の業務改善を続けていくことがいかに重要であるか、ということを再認識した次第です。
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コーポレート・ガバナンスの経営学 -- 会社統治の新しいパラダイムコーポレート・ガバナンスの経営学 -- 会社統治の新しいパラダイム
(2010/03/31)
加護野 忠男、砂川 伸幸 他

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コーポレート・ガバナンスについては、このBlogでも過去に何度か本を紹介してきました。
今回ご紹介する一冊は、そのコーポレート・ガバナンスの「はじめの一冊」としてとてもよいのではないかと思います。
ただし第11章を除いて、という留保付きですが。


さて、例によって章立てから。


序章 経営学から論ずるコーポレート・ガバナンス論/会社統治論
第1章 株式会社と会社統治論
第2章 株式会社の仕組みと会社統治
第3章 アングロサクソン型の会社統治 ―米国を中心に
第4章 ライン型の会社統治 ―日本を中心に
第5章 日本の会社統治の過去
第6章 日本の会社統治の現在 ―日本が間違った時代
第7章 コーポレート・ガバナンスと資本コスト
第8章 コーポレート・ガバナンスと事業投資
第9章 コーポレート・ガバナンスと資本政策
第10章 日本企業の会社統治のもう一つの姿 ―プレイヤーとしての従業員、親会社
第11章 内部統制と会社統治



ご覧のように、コーポレート・ガバナンスの全体像から入り、アメリカを中心とした「アングロサクソン型」のコーポレート・ガバナンス、日本を中心とした「ライン型」のコーポレート・ガバナンス、そしてその日本のコーポレート・ガバナンスについて、過去から現在に至るまでの流れを俯瞰できるという点が、上述したように「はじめの一冊」として適当なのではないかと思う理由です。
これらの点をおさえておけば、昨今のコーポレート・ガバナンスに関する議論の理解がずいぶん促進されるのではないかと思います。


ちなみに第7章から第9章はやや毛色が異なり、ファイナンスとコーポレート・ガバナンスの話題が中心となりますが、コーポレート・ガバナンスを根本的な部分から考えるには、最低限のファイナンス知識はやはり必要だということでしょう。


そして第10章では、最近とみに話題にされることの多くなった、ドイツの共同決定法を中心とした従業員による経営者への牽制や、親会社による経営者への牽制に関しても触れられています。この部分についても本書は、とても丁寧にわかりやすく説明してくれているので参考になるものと思います。
ところで個人的には第6章で採り上げられている、フランスのコーポレート・ガバナンスに関する話が目新しく、また興味深いところでしたので、少し引用したいと思います。


このように他国同様、1990年代になって会社統治(管理者注:本書ではコーポレート・ガバナンスを「会社統治」と訳しています)改革の必要性に迫られたフランス企業であったが、改革を現実に進展させるにあたっては、統治改革それ自体はフランス経済全体の成長・競争力向上を後押しするための道具に過ぎず、あくまでもフランスに根づいている価値観を基盤として、これと整合的な仕組みを導入することなくして意味のある改革はなしえないとの認識が共有されていた。それゆえ、弱点とされた経営を監視する仕組みの形骸化については、いわゆる「米国流」の改革例を一部模範とすることで仕組みの強化を図りつつ、あくまでも、フランスにあった会社統治に関わる基本的な価値観、たとえば国家経済全体の中長期的な成長・競争力向上や、利害関係者総体としての利益重視、これらを自国の長所とみなして、それらは以前どおりに保持したままでの改革であった。
企業不祥事の頻発や英米の機関投資家による「発言」がフランス企業にも押し寄せていたのは、日本企業と同様であった。しかし日本などと同様に「唯一絶対」の姿を想定することはなく、自国の実態にある優劣を分析したうえで統治改革を進めていったのである。




日本が「唯一絶対」の姿を想定しているかどうかは異論もあるかと思います。しかしコーポレート・ガバナンスというと、社外取締役や独立役員といったアメリカの発想を採り入れる話に直結したり、最近ではドイツの発想を採り入れて従業員代表(選任)監査役を導入しようという話になったりという話になりがちです。
この点は、以前の記事でも触れたように、「主権論」をもう少し考えてみる必要のあるところだと思います。

その「以前の記事」でご紹介した伊丹敬之教授は、「日本型コーポレートガバナンス」において、以下のように主張されています。


主権論とは、企業の主権は誰が担うのがもっとも適切か、という議論である。そして、資本を提供する株主と働く人々の両方が企業には共に重要であることを考えれば、それはその二つのグループの間でどのように主権を分かちあうか、という問題になる。カネもヒトも企業活動に必須である以上、主権をどちらかが排他的に持つのであれば、それは問題をはらむことになることは容易に想像される。したがって、主権論とは排他的議論ではなく、株主がメインになるのか、従業員がメインになるのか、あるいはまったく対等で行くべきか、といったことが議論の対象になるような問題領域である。
会社法の世界では、株主主権をあらかじめ想定してしまっているが、それだけでいいのか、という議論が必要なのである。
(太字は管理人による)



最後の太字部分については、今回ご紹介している加護野忠男教授も同じ問題意識をもっていらっしゃるようです。
現状として、私たち企業法務担当者は、現に存在する会社法を前提として日々の業務を行っていかざるを得ないのですが、会社法の見直しがなされようとしている今この時期においては、少し立ち止まって「主権論」から考えてみることも有益なのではないでしょうか。
少なくとも私たちは会社法を、当事者として実際に日々利用しているわけですから、自社にとって或いは日本企業にとってどのようなコーポレート・ガバナンスがよりよい姿、より自社にフィットする姿であるのかを考えることが必要だと思います。


さて、この記事の冒頭で私は、「ただし第11章を除いて」、「はじめの一冊として適当なのでは」と書きました。
この点について少々補足しておきたいと思います。
第11章は「内部統制と会社統治」というタイトルで、これでもかと言わんばかりに内部統制のマイナスの側面について書かれています。
これは、本書が出版されたのが2010年3月30日と、まさに日本の上場企業が内部統制システムの構築に振り回された直後であった影響も大きいのではないかと思います。
例えば以下のようなものです。


実務家の間には、内部統制の制度は本当に必要かという疑念を抱く人々が多い。われわれも、法律に定められているような内部統制は必要のない制度だと考えている。それだけでなく、企業経営に害を及ぼす可能性すらあると憂えている。



内部統制への対応コストは平均1億6,000万円、そして小規模な会社ほど負担するコストは高くなっているとの調査も提出されている。



このように、いわゆる"J-SOX"導入初年度の情報やデータをもって、内部統制を否定的に捉えています。
この点に関して最近では、内部統制のレベル感も徐々に共通の認識として一定のところで落ち着いてきているように感じていますので、必ずしも負の側面ばかりが目につく状況ではなくなっているのではないかと思います。
確かに加護野教授がおっしゃるように、


会社統治制度それ自体には意味はない。統治によって経営をよりよくし、企業価値を高めることが目的である。統治のために実際に発生する金銭的なコストのみならず、制度を運営する過程で発生する時間や人材の無駄遣い、それによって奪われてしまう事業機会も、コストと考えるべきである。また、リスクに挑戦しないことほど、よりよい経営の妨げとなるものはない。よい経営を実現させるために必要なことの多くにはリスクがともなうためである。
内部統制、コンプライアンスの問題を経営学の視点から考えていくためには、こうした点への目配りも重要である。


という点には同意するのですが、「はじめの一冊」として本書を手にされた方にとって、内部統制に対する上記のような主張は、ミスリードの危険があるのではないかと思います。
これは私が勝手に「はじめの一冊」と言っているだけではなく、本書の冒頭においても、「本書は(略)学部生・院生諸君を読者対象としている」と書かれているので、内部統制への偏った見方が植えつけられることに若干の懸念があるわけです。


しかしながら本書を全体として捉えるとやはり、網羅性や説明のわかりやすさといった内容面、また、注釈、参考文献一覧、親切な索引といった形式面においても、コーポレート・ガバナンスの「はじめの一冊」としてお薦めしたい一冊です。
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株式会社ミスミグループ本社のCEOである三枝匡会長(2011年7月時点)は、ボストン・コンサルティング・グループ出身で、「V字回復の経営」などの著書でも有名ですが、今回ご紹介する本の著者である一橋大学大学院教授の沼上幹先生もやはり、株式会社ミスミグループ本社の非常勤取締役を務められています。

経営戦略の思考法経営戦略の思考法
(2009/09/26)
沼上 幹

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この本を読んで最初に感じたのは、「この内容でこの価格は値付けがおかしいのではないか」という、余計なお世話でした。
というのも、1,900円+税で、これだけ充実した内容の本を読めるというのは、ちょっとした驚きだったからです。

さて本書は全体が3部構成になっており、それぞれが割と独立性の高い構成となっていて、どこを読んでも興味深いのですが、どのように分けられているのか、少し長いのですが著者の言葉を引用してみたいと思います。


まず第Ⅰ部では、これまでの経営戦略の考え方について、過去の経営戦略論を振り返り、相互の位置関係を明らかにする作業を展開する。経営戦略論の領域に関して、いわゆる「学説史」を、ややラフにではあるが、それでも全体がある程度見通せるように記述している。
この学説史の整理を通じて、近年の経営戦略論の領域では、時間展開・相互作用・ダイナミクスを解明する思考法が重要であることが指摘される。とりわけ典型的な日本企業に関して言えば、市場での競争的な相互作用とともに、組織内の相互作用まで含んだダイナミックな議論が研究上魅力的な領域であると思われる。このように考えて、この種の「時間展開・相互作用・ダイナミクス」を読み解くための思考法を、まさに思考法そのものに注目して記述するのが第Ⅱ部である。
この思考法を実際に用いて、日本企業にとって意味のあると思われる経営戦略と経営組織の相互作用の問題を議論するのが第Ⅲ部である。顧客・競争・シナジー・選択と集中・組織暴走などを主要なテーマとして議論していく。最後に、実践を積み重ねつつ時々理詰めの座学を学ぶことの意義を主張して本書が締めくくられる。



第Ⅲ部に軽く触れておくと、実際のケースを通じて、「イノベーションのジレンマ」「差別化」「競争回避」「ネットワーク外部性」「シナジー」「選択と集中」「組織暴走」などのテーマについての考察がなされており、読み物としても大変面白いものとなっています。
しかも単純にそれらのテーマがどのようなものであるのか、ということの説明だけに留まらず、その問題点や「ではどうすればその問題点を乗り越えられるのか」といった部分にまで言及されているところが非常に興味深いところです。

第Ⅱ部は「思考法」についての記述ですが、本書のタイトルが「経営戦略の思考法」と付けられていることからも、本書の重要な部分であることが伺われます。
実際には、第Ⅰ部における経営戦略論と第Ⅲ部におけるケースや種々のテーマの橋渡し的な役割を担っているように思います。
一部引用すると、


第Ⅱ部では、経営戦略の思考法、あるいはより広く社会科学の思考法そのものに焦点を当てて解説を加えていくことにしたい。まず第8章では、経営戦略論(社会科学・社会的な言説)に登場する基本的な思考法を3つに分類し、それぞれの特徴を解説する。カテゴリー適用法・要因列挙法・メカニズム解明法という3つの理念型的な思考法を提示し、基本的にはメカニズム解明法が最も妥当な思考法であり、その他の2つはメカニズム解明法的な思考のための準備として、あるいは大規模な組織内で基本方針を伝達するためのコミュニケーションの型としての効用があることが指摘される。



個人的には、メカニズム解明法と名づけられた思考法も、その前提としていわゆる「クリティカルシンキング」と呼ばれる、ものごとの捉え方や考え方が必要とだと思うので、過去にも何度かお薦めしている「クリティカルシンキング (入門篇)」はやはり読んでおくべき一冊だな、と再確認しました。


さて、何だかんだ言っていますが、私にとって最も興味深かったのは第Ⅰ部です。
ここでは既存の経営戦略論を大きく5つに分類し、それぞれについて詳細な説明がなされています。
本書でも言及されていますが、ヘンリー・ミンツバーグの「戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック」では、これらの経営戦略論が10個に分類されていたのですが、本書はさらにそれを5つにまで「ざっくりと」分類しています。
具体的には以下の5つ。

1.戦略計画学派
2.創発戦略学派
3.ポジショニング・ビュー
4.リソース・ベースト・ビュー
5.ゲーム論的アプローチ

そして上記の5つに戦略論を分類したうえで、本書のサブタイトルにもある「時間展開・相互作用・ダイナミクス」という視点から、再度それらを整理し直しています。
この点に関する説明を引用したいと思います。


学説の整理を行う際に、基本的には5つの経営戦略観に分類して議論を進めていく。すなわち、①アンソフに代表される戦略計画学派、②ミンツバーグに代表される創発戦略学派、③ポーターに代表されるポジショニング・ビュー、④バーニーやプラハラードとハメル、伊丹に代表されるリソース・ベースト・ビュー、⑤ブランデンバーガーとネイルバフに代表されるゲーム論的アプローチの5つである。
これら5つの戦略観を代表する人々の業績を中心に紹介しながら、経営戦略論に出現する主要な概念を解説した上で、それら相互の関係について3つの次元を用いて整理を行う。3つの次元とは、①事前の合理的設計重視VS事後の創発重視、②市場ポジションの重視VS経営資源の重視、③安定的構造重視VS時間展開・相互作用・ダイナミクス重視である。



ご覧頂けばおわかりになるとおり、経営戦略をざっくりと理解するにはほどよい分類方法なのではないかと思います。
そしてこの分類は、おおまかに1960年代からの経営戦略論を時系列に沿って理解するうえでも有効なように思います。
具体的には1965年以降の戦略計画学派、そのアンチテーゼとして1973年頃登場した創発戦略学派、そして1980年のポーターを中心とするポジショニング・ビュー、1984年頃からのリソース・ベースト・ビュー、そして1996年あたりから本格的に論じられるようになったゲーム論的アプローチ。
この一連の流れを読むと、何だかこう、すっきりと頭の中が整理された気がします。


以上、本書からいくつかの箇所を引用しつつご紹介してきましたが、「お薦めですよ~」というくらいしか、私ごときが言えることはありません。
ただ1点、法務担当者の視点として興味深かったのが、ゲーム論的アプローチについて書かれている第Ⅱ部6章のうち、「取引条件の分析」なるところ。


ゲーム論的なアプローチは、ゲームのルールなどが明確になる場面で有効性を発揮するので、具体的な取引契約の分析などに興味深い知見を生み出している。



として、ラスト・ルック条項(last-look clause)、競争対応条項(meet-the-competition clause)、また、ベスト・プライス条項(best-price clause)、最優遇条項(most-favored-customer clause)といった契約条項についての具体的な事例が述べられています。

引用すると長くなるのでやめておきますが、メーカーの法務担当者の方などにとっては参考になる考え方なのではないでしょうか。
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この本、「面白い!面白い!」と巷間を賑わしているので、天邪鬼な私は、「今は読まない」と決めていました。
しかし、コソっと立ち読みをしたところ、「これは確かに面白そうだ」と思い購入してしまいました。

街場のメディア論 (光文社新書)街場のメディア論 (光文社新書)
(2010/08/17)
内田 樹

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というのも、本書は神戸女学院大学の学生を対象とした「メディアと知」という授業を本の形にまとめたものだそうなので、まず何より非常にわかりやすい。
しかしその実、「メディア論」という身近な話題を通じて、「書籍や著作権のありよう」について述べられている興味深い内容なのです。

何はともあれ目次を一部抜粋します。


まえがき
第一講 キャリアは他人のためのもの
第二講 マスメディアの嘘と演技
第三講 メディアと「クレイマー」
第四講 「正義」の暴走
第五講 メディアと「変えないほうがよいもの」
第六講 読者はどこにいるのか
第七講 贈与経済と読書
第八講 わけのわからない未来へ
あとがき



目次だけを見てもよくわかりませんが、この本の構成は「いかに講義に興味をもってもらうか」という、工夫に溢れています。

対象となっている学生の中には、今後、メディアの世界で生きていくことを希望している方たちも多く含まれているようです。そのため最初に彼女たちにとって最も興味があるであろう「自分のこと」、つまりここではキャリアについて語られています。
そして第二講から第五講まで、具体的で身近な事例を豊富に盛り込んで、「現代メディアの不調」について、その問題と問題の真因が、著者独自の視点から語られます。
もうこの時点で、学生は(もちろん読者も)話の続きを聞きたくて仕方がない状態になっているはずです。

そしておそらく著者が最も伝えたかったであろうことが第六講、第七講で述べられています。
第五講までは、それを理解するための布石だったように思います。

この、著者が最も伝えたかったであろうことというのが、「書籍や著作権のありよう」だと、私は受け取りました。
著者の著作権に対する考え方が端的に表現されている部分を引用します。


著者が受け取る利益は「著作権料」というかたちをとります。これはある種の財物とみなされています。だから、書き手本人が死んだ後は遺産として家族に継承される。でも、僕は著作権を財物とみなすことには、どうしても強い違和感を覚えるのです。
著作権というのは単体では財物ではありません。「それから快楽を享受した」と思う人がおり、その人が受け取った快楽に対して「感謝と敬意を表したい」と思ったときにはじめて、それは「権利」としての実定的な価値を持つようになる。著作権というものが自存するわけではない。僕はそういうふうに考えています。けれども、これは圧倒的な少数意見です。



このような著者の著作権に対する考え方は、以下のような主張につながります。


中国のような海賊版の横行する国と、アメリカのようなコピーライトが株券のように取引される国は、著作権についてまったく反対の構えを取っているように見えますけれど、どちらもオリジネイターに対する「ありがとう」というイノセントな感謝の言葉を忘れている点では相似的です。



そしてここから、「贈与経済」と読書の関係が述べられ、コミュニケーションの本質にまで話が及んでいきます。
この点が面白く表現されている箇所を引用したいと思います。


僕は自分の書くものを、沈黙交易の場に「ほい」と置かれた「なんだかよくわからないもの」に類するものと思っています。とりあえずそこに置いてある。誰も来なければ、そのまま風雨にさらされて砕け散ったり、どこかに吹き飛ばされてしまう。でも、誰かが気づいて「こりゃ、なんだろう」と不思議に思って手にとってくれたら、そこからコミュニケーションが始まるチャンスがある。それがメッセージというものの本来的なありようではないかと僕は思うのです。



これは、著作権の名の下に、漏れなくかつできるだけ多くの対価を得ようとする現代のメディアに対して、「コミュニケーションとは何ぞや、メッセージとは何ぞや」と、その本質を問いかける言葉ではないかと思います。

ところで著作権法の第1条には、
「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする
と書いてあります。

私は、著者の主張に完全に同意するわけではありません。
しかし文化の発展に寄与するどころか、文化の衰退に寄与するような著作物が、マスメディアやそれを取り巻く業界の方々によってバンバン売られてきたこの数十年のツケが、音楽や出版の世界を中心に表れてきているのではないかと思います。
このあたりはもっと言いたいことがあるのですが、それはまたあらためて。


そのようなわけで、興味深いテーマに思いのほか引きずり込まれた一冊でした。
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金融庁が公開している「資金移動業社一覧」(平成22年10月末現在)を見て少々驚きました。
というのも、資金移動業者として登録されているのは、以下に掲げるたった6社だけのようだからです。

トラベレックスジャパン株式会社
楽天株式会社
株式会社ジェイティービー
株式会社ウニードス
Western Union Payment Services UK Limited
ジャパンマネーエクスプレス株式会社
(なお、登録業者については渡邉雅之先生のBlogで既に簡単にまとめられていましたので、併せてご覧頂ければと思います)

今年の4月1日に施行された「資金決済に関する法律」(資金決済法)ですが、施行から半年が経過した時点では、資金移動業への参入企業はまだまだ少ない状況にあるようです。


私は今年2月のエントリーで、コンビニの収納代行や、宅配便業者の代引きサービスについて、「一応の解決を見た」と書きました。
なお、上記エントリーには若干の誤解もあり、のちに金融庁が公表した「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」のうちNo.148のコメントにあるように、収納代行や代引きについては「性急に制度整備を図ることなく、将来の課題とすることが適当」として、当面は登録せずとも業務を継続することに問題がないとされているようです。

しかしいずれにしても、大企業がこぞって参入することを予想していた私としては、登録業者の少なさに少々驚いたわけです。


さて、中央大学ビジネススクールの杉浦宣彦教授と、杉浦教授を中心とした「決済研究プロジェクトチーム」名で今年の6月に出版された下記の書籍。
発売時に買って満足していたのですが、最近ようやく読むことができました。

決済サービスのイノベーション―資金決済法で変わるビジネス・生まれるビジネス決済サービスのイノベーション―資金決済法で変わるビジネス・生まれるビジネス
(2010/06/11)
決済研究プロジェクトチーム杉浦 宣彦

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プロジェクトチームのメンバーが全員NTTデータ経営研究所の方で、「協力」として名前が並んでいる方々も全員NTTデータの方であることが少し気になりますが、資金決済法の概要や創出されることが予想されるビジネスに関する考察は、非常に興味深いものでした。

本書によれば資金移動業者として登録を受けると予測される業種について、以下のように述べられています。


では、誰がこの資金移動業者として名乗りを上げるのだろうか。本書ではまず携帯電話キャリア、コンビニエンスストア、ECサイトを挙げてみた。この三者が自らの有する既存の経営資源を使って、新しいマーケットを牽引していくのではないかと考えられるからだ。



上記3業種のうち、既に登録を受けているのは楽天1社のみですが、携帯電話キャリアが遠からず参入してくることは、ほぼ確実ではないかと思います。


また本書は、資金移動ビジネスのマーケットが拡大していく過程を以下のように3つのステップに分けて論じています。


資金決済サービス市場がどのように拡大していくか。ここでは、その拡大ステップについて考えていく。資金移動ビジネス市場は、草創期、成長期、普及期の3つのステップを経て成長していくと予想される。


この3つのステップ自体は特に目新しいものではありませんが、それぞれのステップにおいて、どのような業者がどのような形で参入してくるか予想されている点が、本書の興味深い点です。

ごく大雑把にいうと、「草創期」においては大企業がデファクトスタンダードになることを狙い参入し、「成長期」においては中小企業事業者が、大企業が扱えないサイズのニッチのマーケットに参入し、「普及期」には資金移動業者間をまたがる資金決済に対応する機関が登場する、というところでしょうか。
確かに大企業の持つ経営資源でもって、ある程度の基盤ができあがってからでないと、中小企業の参入は若干難しいのではないかと思います。
それは以下の2つが、中小企業にとって大きな参入障壁になると予想するからです。

①未送金金額の100%を供託する必要がある
②マネーロンダリング規制がある


①については最低でも1,000万円のキャッシュを準備する必要があり、②については「電子的にデータを取り、取引モニタリングを行い、その利用者の利用状況にどのような傾向があるかを監視し、いわゆる疑わしい取引などを抽出して金融庁に報告しなければならない」というものです。
いずれも資金決済ビジネスの規模を大きくしようと目論むと、先行投資も大きくせざるを得ません。
そのため中小企業としては大企業のシステムに乗っかるか、中小企業同士でアライアンスを組むかという方法でないと、「草創期」に参入することは難しいのではないかと予想しています。
とはいえニッチなビジネスで、本業の付加価値として提供するサービスとしてであれば、上記の参入障壁はさほど問題にはならないかも知れません。
このあたりは、本書においても以下のように説明されています。


(略)本業でしっかりとした収益を上げられ、既存の経営資源をもって付随的に資金決済サービスを提供することができるような事業者であろう。資金決済サービスそのもので収益をあげられないとしても、サービスを提供することで本業の利益に寄与できればいいのだ。このような事業者が現れれば、手数料が限りなくゼロに近づくという状況が、近い将来に起こりうる。



いずれにしても、これまで銀行にしか取り扱えなかった業務の一部が、一般の事業会社に開放されたことは画期的なことです。
今後さまざまな企業が資金移動業に参入し、ユニークなサービスを競い合い、さらに補完し合う関係を構築していけば、大きなイノベーションが起きるのではないかと思います。
また、「ウチの会社には関係ない」と考える方もいらっしゃるかと思いますが、「どうやってウチのビジネスに活かせるか」という視点で考えてみると面白いのではないかと思います。


<おまけ>
ちなみに、「そもそも資金決済法とは何ぞや?」ということを知りたい方は、以下のリンク先をご覧頂ければ、概要をご理解頂けるのではないかと思います。
  
 「新たな資金決済サービス」金融庁

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