風にころがる企業ホーマー

企業法務や経営に関する話題を中心に、気ままに情報発信してます。

カテゴリ: 書籍(法務)

法務系 Advent Calendarのバトンを、法務ライフスタイルのアーリーさんから受け取りました。

6年ぶりの参加です。そして3年ぶりのBlog更新です。
ドキドキしますね。1時間でどこまで書けるのでしょうか。

さて、あまりに久しぶりの更新なので「そもそも管理画面にログインできるのか?」という不安もあったのですが、賢いもんです。Google Chromeが、ちゃんとIDとPWを覚えていてくれました。

これを機に、またちょいちょいBlogを更新していきたいと思います。
とはいえこのBlogを昔からご存知の方は、「まあ、そう言ってまた放置すんでしょ?」くらいに受け取ったことでしょう。
わかります、その疑念。

そこで今回は少し工夫してみました。タイトルをよく見てください。
「第1回」と書いてありますね。
そうです、続くのです。
続かないと僕としても落ち着かないのです。

人間には「欠如していると補充したくなる本能がある」といわれています。
つまり、もし仮に僕が人間であるならば、きっと第2回を書かずにはいられないわけです。
行動経済学でいうところのナッジですね。素晴らしい。

(それで思い出したのですが、昔むかし、今は亡きGeorge Michaelが、「Listen Without Prejudice Vol.1」というアルバムを発表したのですが、待てど暮らせど結局「Vol.2」が発表されることはありませんでした)

さて、相変わらず前置きが長いですね。
残り30分で本題を書ききる必要がでてきました。


そう、今日は広告審査法務の入門書をご紹介したいと思います。
広告審査法務なんていうと長いので、広告審査といったり広告法務といったりするかも知れませんが、そこはまあ気にしないでください。

「なぜ今広告審査法務の入門書なのか」ということはおいおい書いていくとして、おそらく法務担当者をやっていると、広告審査をやる機会も一度や二度じゃなくあるのではないかと思います。

そのようなときにお役立ちな一冊を、今日はご紹介したいと思います。


広告表示の法的規制と実務対応Q&A
結城 哲彦 編著
中央経済社
2019-06-12



それがこちら。
7月に同じような厚さの入門書がほかにも出ており、これはこれで良書なのであらためて紹介したいと思っているのですが、まずはこの「広告表示の法的規制と実務対応Q&A」から。

この本の何がいいって、「参照すべき公的基準等」と「お勧め参考文献」の充実っぷりがすごい。

IMG_4550


幅広く体系的に広告法務全般をカバーしているのですが、Q&Aごとに「公的基準等」「自主的基準」「参考文献」「参考判例」が掲げられているので、より詳しく確認する必要がある場合は、そちらにあたればいいのです。
(ちなみに巻末に参考文献のまとめが2ページにわたって記されており、索引もきめ細かく8ページあります)

そう、広告審査をやっていて悩ましいのは、「はしがき」にも書かれているとおり、「不可解」なほど「錯綜した複雑な体系」になっている広告法の世界で迷子になりがちなこと。




広告表示に関する規制の体系が、何重にも錯綜した複雑な構造になっています。このため、この錯綜した複雑な体系を把握・理解することは、広告業界の関係者、特に消費者にとっては「難解」というよりは、むしろ「不可解」に近いと思われます。


しかしこの一冊をハブにして、各業法や政省令、公正競争規約に業界の純然たる自主規制 etc.とのあいだを自由に行き来すれば、もうこの「錯綜した複雑な体系」の広告法の世界で迷子になることはないといっても過言ではないでしょう。


最後に、参考までに目次の概要だけ書いておきます。
2部構成になっていますが、第Ⅰ部は約30ページと全体の8分の1程度のボリュームで、総論的な話ですね。



第Ⅰ部 広告表示の法的規制【基礎編】
 1 マーケティングと広告
 2 広告表示の規制
 3 景品表示法による規制
 4 公正競争規約および主務官庁の解釈基準・通達等
 5 業界団体による自主規制基準
 6 広告の種類
 7 広告責任
 8 海外主要国における広告規制
第Ⅱ部 広告表示の法的規制【Q&A】
 §1 消費者保護
    医薬品・医療機器等の分野
    食品関連の分野
 §2 公正競争・景品表示等の分野
 §3 知的財産権の保護
 §4 特定業種・分野における規制
 §5 情報化社会への対応


ということで、期限を30分オーバーしてしまいましたが、「翌日の朝までが今日だ」というブラック企業的な発想でいけばセーフですね。

無事にhibiさんにバトンタッチ!
このエントリーをはてなブックマークに追加

はい!皆さんこんにちは!

いま、日本全国老若男女を問わず話題沸騰中の法務系Tips Advent Calendarのバトンを、企業法務マンサバイバルのはっしーさんから受け取りました。

はっしーさんからは、

というわけで、@caracalooさんから引き継いだ法務系Tips Advent Calendarバトンを、伝説の法務系ダブルボケ漫才コンビ「カタアンドヒロ」のヒロこと @hiro_oceanにお渡しします。

と、身に余るような言葉でご紹介頂いており恐縮していますが、ひとつだけ誤解のないように言っておくと、ボケているのは@kataxさんだけです。僕は正気です。

さて、あまりに久しぶりのBlog更新なので「引用ってどうやるんだっけ?」「リンクはどうすんだっけ?」などといちいち操作に戸惑いながら書いてます。リハビリみたいなものなので内容は二の次です。もともと内容は二の次ですが、そこは無視してください。

ということで本題に入りまーす!

ここ半年ほど、訳あって著作権に関するセミナー講師をする機会に多く恵まれています。
対象は、「著作権という言葉を知っている程度」という方から「仕事で必要に迫られて断片的に知識を身につけた」というような方が中心です。

その中で何度か、「もう少し著作権のことを勉強したいのだけど、おすすめの本はありますか?」というような質問を受けてきました。

僕自身、著作権に関して特別熱心に勉強してきたというわけでもなく、個人的な興味で本を読んだり、仕事で必要な範囲+α(Blogのおかげで「+α」を人より大きくしようというモチベーションが大きかったとは思います)を身につけてきたという程度のものでした。
そんなわけでこの半年ちょっとのあいだ、かなりの量の著作権に関する本を買いあさって目をとおしてきました。

で、「あ〜、これは入門書としてなかなかいいんでないの!?」と思うような本にも出会ってきました。
異論も多くあるかと思いますが、この本はその一冊。

クリエイターのための著作権入門講座[改訂第2版]クリエイターのための著作権入門講座[改訂第2版]
(2013/08/10)
一般社団法人 コンピュータソフトウェア著作権協会

商品詳細を見る


法務系Tips Advent Calendarに参加されている皆さんからすると、簡単すぎて退屈な部類に入るかも知れませんが、「法務担当者だけど、実は今ひとつ著作権のことわかってないんだよね」というような方に是非お薦めしたい一冊です。

お薦めのポイントは、まず何といっても理解しやすい文章で書かれていること。とはいえ、ほどよい幅と深さのある内容なので全体像を把握しつつ最低限の知識が得られること請け合い。そして2013年8月に改訂されたばかり!
待てど暮らせど改訂されない某判例集にも見習ってほしいものです。

ということで「これからちょいと勉強しようかな」という向きにお薦めするなら、今はこの本かなと思っています。
ちなみに改訂前のものが本文159ページで改訂後が同170ページ。値段は変わらず1,900円+税とお財布にもやさしい。
法務担当者などでこの手の本を読みなれている方であれば、それこそあっという間に読める程度の厚さです。


TPPでの議論も盛り上がってきたこの時期、法務系Tips Advent Calendarのカウントダウンに合わせて年末までにコソ勉するのにいかがでしょうか。

以上、何となくお茶を濁しました何となくうまくまとまりました!
これが「Tips」と言えるかは微妙ですが、まぁいいではないですか!
明日は@jun_k00さんですね。
バトンをお渡ししまーす!

(これを機会にBlogの更新もがんばります)
このエントリーをはてなブックマークに追加

Lexis Nexis さんから頂戴しました。ありがとうございます。


暴力団排除条例ガイドブック (BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS)暴力団排除条例ガイドブック (BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS)
(2011/12/22)
大井哲也、黒川浩一 他

商品詳細を見る


タイトルこそ、「暴力団排除条例ガイドブック」となっていますが、本の帯(amazon のイメージにないのが残念)にあるコピー、"反社会的勢力排除のバイブル"という言葉がピッタリの、まさにバイブル的な一冊です。


私は当初、業務上の必要から暴排条項(反社条項)を検討するため、反社会的勢力排除に関する書籍や論考に目を通していたのですが、いつの間にか個人的な興味からBlog記事を多く書いていました。
(ご興味のある方は、本エントリの末尾にリンクをまとめておいたのでご笑覧ください)

そして気づくと自室の本棚には10冊を超える類書が…(笑)
しかし本書は、東京都暴力団排除条例が施行された後に発売された数少ない反社排除に関する本であるとともに、これまでに世に出ている類書のうち最も実践的な一冊と言えるのではないかと思います。
この本を頂いたのは発売されて間もなくだったので、取り急ぎ感想を書こうと思っていたのですが、あまりに面白い内容だったのできっちり読みこんでいるうちに、感想を書くのがすっかり遅くなってしまいました。


さて、例によって目次の一部を抜粋します。


第1章 反社会的勢力の侵入手口と企業の対応
Ⅰ 最近の反社会的勢力排除の動向
Ⅱ 企業への反社会的勢力の侵入(関与)事例
Ⅲ 反社会的勢力排除の内部統制システム

第2章 反社会的勢力のチェック方法
Ⅰ どこまでを反社会的勢力とするのか
Ⅱ 反社チェックのポイント

第3章 暴排条項の導入
Ⅰ なぜ暴排条項が必要なのか
Ⅱ 暴排条項導入の留意点
Ⅲ 暴排条項のバリエーション

第4章 契約の拒絶・解除の実務
Ⅰ 契約締結前の取引拒絶
Ⅱ 契約締結後の解除の法的リスク
Ⅲ 既存取引先との関係解消の実務

第5章 海外の反社会的勢力
Ⅰ グローバルな要請に関する最近の動向
Ⅱ 海外反社排除の取り組み方
Ⅲ 海外反社対応のための英文版誓約書・暴排条項

第6章 雇用関係等からの反社会的勢力排除
Ⅰ 従業員に対する属性確認義務
Ⅱ 従業員が反社会的勢力に該当する場合の対応
Ⅲ 業務委託スタッフの場合

第7章 上場審査の実務及び出資者・株主への対応
Ⅰ 上場審査を受ける場合
Ⅱ 反社会的勢力との関係発覚による上場廃止
Ⅲ 出資者・株主への対応

第8章 暴力団排除条例の解説
Ⅰ 条例制定の背景と経緯
Ⅱ 条例の主な規定
Ⅲ 条例制定の狙い
Ⅳ 暴力団に対する利益供与の禁止規定の解説
Ⅴ 暴力団に対する名義貸しの禁止
Ⅵ 暴力団との密接交際
Ⅶ 公共事業からの暴力団排除
Ⅷ 民間事業からの暴力団排除
Ⅸ 不動産取引からの暴力団排除
Ⅹ 暴力団の威力利用そのものの禁止
Ⅺ 福岡県条例の改正
Ⅻ まとめ

資料
各都道府県の暴力団排除条例における特徴的な規定



第2章のうち「反社チェックのポイント」には実に62ページが割かれています。
ここには「最低限必要な取組み」といったことから、反社チェックの深度に応じた調査項目の例、さらにはチェックリストから取引先管理台帳のサンプルまで、これでもかといわんばかりに現場で役立つ情報が紹介されています。
そしてこの「サンプルをバンバン出す」というスタンスは、最後まで貫かれています。

次に第3章の「暴排条項のバリエーション」も、あるべき論に留まらないところがお役立ちです。
最高水準の暴排条項~一般的水準の暴排条項~簡易版の暴排条項、さらに取組みが進んでいる業界の暴排条項例などのサンプルが提示されているので、自社の業種やスタンス、或いは取引の相手方との関係を考慮しながら、自社に最適な暴排条項を考えてみる素材として最適だと思います。
実際に私も自社の暴排条項を、このサンプルを参考に少し修正しました。

さらに第5章、海外の反社会的勢力。ここは私がとても興味をもっているところでもあり、英文版の暴排条項など、他ではなかなかお目にかかれないような書式を見ることができます。
少なくとも私が英文契約書に暴排条項を入れ始めた頃は、日本語の暴排条項を単純に英訳した程度のものしか作れなかったので、「あのときにこんなサンプルがあったらなぁ…」と思わずにはいられません。
もちろんこのサンプルを参考に、早速英文契約書の暴排条項も修正しました。

そして圧巻は、「企業法務戦士の雑感」さんでも触れられていた、巻末資料「各都道府県の暴力団排除条例における特徴的な規定」という、全都道府県の暴排条例の一覧。
単純に資料として興味深いのはもちろん、全国規模で事業を展開されている会社(まぁ、まずほとんどの会社さんが該当するのではないかと思います)の法務担当者としては、都道府県によってそう大きな違いはないとはいえ、特徴のある条例(例えば福岡県)については、概要を知っておく必要があるものと思います。
先日、埼玉県の会社が東京都暴力団排除条例の適用を受けていましたが、つまり「ウチの会社は東京だから東京都の条例だけ見とく」では、ちょっと認識が甘いと言わざるを得ないわけです。


その他にもいろいろと紹介したいところはあるのですが、長くなり過ぎるのでこの辺で。
何はともあれ、現時点で最も実践的な内容の「反社本」として自信を持ってお薦めします。


最後にこれは私見ですが、ある程度の規模の会社であれば何かしらの対応は既にされているものと思います(されていなければ、急ぎ対応する必要があります)。しかしながら会社によっては法務担当者がおらず、総務担当者が片手間に契約書を見ていたりしていて、「暴排条例が施行されたって聞いたけど、何をすればいいのかよくわからない」というケースも多いのではないかと思います。
本書は、そのような方にとっても「バイブル」として十分に活用できる親切な作りになっていると思うので、是非一度手に取って頂ければと思います。


ちなみに本書は、「dtk's blog」さん、「企業法務マンサバイバル」でも紹介されているので、違う切り口の書評も参考にしてみてください。


遅ればせながら、今年もよろしくお願いします。



【過去記事】
暴力団排除条項について考えてみた。(前半戦)
暴力団排除条項について考えてみた。(後半戦)
暴力団排除条項について考えてみた。(延長戦)
反社会的勢力対応のいま ―金融法務事情1901号より
東京都暴力団排除条例の施行と暴排条項 前半戦
東京都暴力団排除条例の施行と暴排条項 後半戦

【おまけ】
府中市暴力団排除条例
第12条が府中市ならではです。
このエントリーをはてなブックマークに追加

「企業法務マンサバイバル」のtac さんが10月21日に紹介されて、「dtk's blog」のdtk さんが10月25日に紹介されて、さらに11月1日には「企業法務について」のkata さんが紹介されていたこの本。


クラウドと法 (KINZAIバリュー叢書)クラウドと法 (KINZAIバリュー叢書)
(2011/10)
近藤 浩、松本 慶 他

商品詳細を見る


今さら何なのですが、コソっと私も感想など書いてみようと思います。
とはいえ既にお三方がそれぞれの視点からレビューされているので、私の感想を読んだからといって何か新しい発見があるわけでもないでしょう。
また、斬新な切り口でブッタ切る、というようなことも私にはできません。
ただ、「面白かったからやっぱ感想を書いとこ」というだけのことです。すみません。


さて、例によって目次の紹介です。
「そんなん、Amazon で見ればいいんじゃね?」という向きもあるかも知れませんが、あえてこの場で「私が紹介したいように」引用するのです。


第1章 はじめに
1 クラウドとは何ですか
2 クラウドの歴史・背景
3 クラウドにはどのような種類がありますか
4 クラウドのメリット・デメリット
5 最近の動き
6 東日本大震災を受けて

第2章 クラウド導入のモデルケース
(略)

第3章 情報セキュリティ
1 情報セキュリティ上、どのような問題がありますか
2 経済産業省のガイドライン
3 事故があったら、クラウドのサービス事業者にどのような責任が発生しますか
4 自己があったら、クラウドサービスを利用する事業者にはどのような責任が発生しますか
5 情報セキュリティ事故の際の取締役の責任

第4章 個人情報保護法等
1 個人情報保護法とはどのような法律でしょうか
(略)

第5章 コーポレートガバナンスとの関係
1 担当者や取締役はどのようなことに気をつければよいでしょうか
(略)
3 クラウドの導入と取締役の責任
4 e文書について

第6章 クラウドの国際性と法
1 外国の公権力によるデータの取得、差止命令など
  (1)米国愛国者法
(2) EUデータ保護指令
2 管轄や準拠法の問題
3 クラウドとeディスカバリ

第7章 知的財産権
1 著作権の問題
2 知的財産権の侵害に基づく差止めの問題
3 いわゆるオープンソースソフトウェア
4 クラウドと営業秘密

第8章 クラウドのサービス事業者との契約
1 クラウドのサービス事業者との契約では、どのようなことに注意すべきでしょうか
2 契約の内容ではどこに注意すればよいでしょうか
(1) SLA
  (2) クラウドのサービス事業者の責任制限
  (3) 情報セキュリティ、秘密保持、プライバシー
  (4) 再委託
  (5) サービス停止時の対応
  (6) 契約終了時のデータの取扱い
  (7) 準拠法
  (8) 管轄
  (9) その他
  (10) 参考となる資料等

第9章 クラウドのサービス事業者のリスクや責任
1 クラウドのサービス事業者に対する規制
  (1) 電気通信事業法
(2) 個人情報保護法
(3) 建築関係
2 クラウドサービスの利用者に対する責任
3 第三者に対する責任
(略)
(3) プロバイダー責任制限法

第10章 大震災とクラウド
(略)

第11章 クラウドの推進へ向かって



思いのほか長くなってしまいました。

しかし上記の目次を眺めてみて、あらためて感じるのはその網羅性の高さ。
tac さんが仰っている、


「~法務パーソンが気付きにくい・忘れがちなリスクがもっとあるんじゃないの?」という不安を抱えている状態だと思います。この本は、その「セキュリティ以外のクラウドリスクいろいろ」に対する不安をもきれいに解消してくれる本なのです。


という指摘に私も同感なのですが、本書を読むことを通じて、自社がクラウドサービスを提供している/提供されている場合に、どのようなことが問題となり得るのか、網羅的に確認することができるのではないかと思います。

そして確認して気になる点があれば、その方面のもう少し詳しい書籍にあたってみる、という利用の仕方が最適なのではないかと思います。

つまり法務担当者にとっては、法務業務とクラウドの関わりについての入門書として最適ですし、経営者やシステム担当の方などにとっては、クラウドに関する法律を概観するために最適な一冊といえるのではないでしょうか。


ところで先日ご紹介した本田直之さんの本においても、「クラウドの有効活用法」というべきものにかなり紙幅がとられていましたが、どうも「クラウド」という言葉の輪郭がぼんやりしていて、個人レベルで利用するメールサービスから会社の業務フローシステムまでをまとめて論じられることにちょっとした違和感を感じていました。

この点に関して本書は、ターゲットが企業(法務)ということが明確ですので、そのような違和感はあまり感じずに済みました。
著者が弁護士ということもあり、第1章で「クラウド」の定義をいくつか紹介したうえで、


共有化されたコンピュータリソース(サーバ、ストレージ、アプリケーション等)について、利用者の要求に応じて適宜・適切に配分し、ネットワークを通じて提供することを可能とする情報処理形態


という経済産業省の定義を採用することがはじめに宣言されています。
やはりこのあたりを押さえておいてもらえると安心しますね。

とはいえやはり、まだまだ「クラウド」というと、kata さんが指摘されるように、


クラウドは、海外のデータセンターに情報を預けることとイコールではないし、(略)海外のデータセンターに情報を預けることで発生するリスクを「クラウドのリスク」ということには強烈な違和感を覚える


というような点で、やはり輪郭がぼんやりしてしまう点は見受けられます。
また、


クラウドのサービス事業者は、IT業界の大手で、技術力も高いと考えられます。


という本文の記載からも、「日本の小さなクラウドサービス事業者は想定していないのか?」とちょっと戸惑ったりもしました。

とはいえ、クラウドサービスを提供する企業/提供される企業それぞれにとって、この一冊を取っ掛かりに「どのようなリスクが考えられるのか」を見直してみることは、とても有用だと思います。

さらに契約を締結する段階で確認・検討すべき事項もある程度の網羅性をもって記されているので、一度はここにも目を通しておきたいところです。


そのようなわけで、予告通り何ら新しい視点はないのですが、感想を書いてみました。
このエントリーをはてなブックマークに追加

「企業法務マンサバイバル」のtacさんが紹介されていたこの本。

会社法施行5年 理論と実務の現状と課題 (ジュリスト増刊)会社法施行5年 理論と実務の現状と課題 (ジュリスト増刊)
(2011/05/26)
不明

商品詳細を見る



この5年間で発生した会社法の時事ネタのうち、特に重要なものが論点ごとにまとめられている本なわけです。教科書を最初から最後まで通読する学習では絶対挫折する会社法も、このアプローチだとリアリティがぐっと増すからでしょうか、途端に面白い法律に見えるから不思議です。



と紹介されていて、もはや私ごときがウダウダとご紹介する意味もないと思っていた次第です。
そこで今回は、思いのほか話題になっておらず、またリアル書店での取扱いも少し冷たいのではないかという印象を受ける類書をご紹介したいと思います。

会社法新判例 50 (ジュリストブックス)会社法新判例 50 (ジュリストブックス)
(2011/07/27)
弥永 真生

商品詳細を見る


ご存知、弥永真生先生の判例解説です。
ほぼ時期を同じくして有斐閣さんから出版されているのですが、いくつかのリアル書店をまわってみたところ、都心の大規模書店でも売切れているのか置いていないのか、なかなか見当たりませんでした。
「さすがにここにはないだろう」と思いながら寄ってみた近所の本屋に並んでいて、驚きつつ即買いしました。

さて、上記「会社法施行5年 理論と実務の現状と課題」(長いので以下「ムックのほう」といいます)が、有斐閣のHPをご覧頂けばわかるように、

Ⅰ コーポレート・ガバナンス
Ⅱ 資金調達
Ⅲ M&A,組織再編
Ⅳ 株券電子化と会社法
Ⅴ 会計制度と会社法

と、テーマをいくつかに分けたうえで、25個の裁判例を弁護士や学者の先生方がそれぞれ分担して解説されているのに対し、「会社法 新判例50」(紛らわしいので以下「弥永先生のほう」といいます)は、そのような明確な区分をせず、50個の裁判例の全てを(当然ですが)弥永先生が解説されているところが大きな違いです。


本書は、平成20年7月(1359号)から平成22年にかけて、ジュリストに「会社法判例速報」として連載させていただいたものの中から50件の裁判例を選択し、若干の加筆を加え、とりわけ、その後の帰趨をフォローしたものです。



とはしがきにあるように、「ムックのほう」よりカバーしている期間は2年程度短いものの、そのぶん「おっ!」と思うような裁判例が掲載されていたりします。
この点は「ムックのほう」が、会社法が施行されて5年経ったところで、実務的な視点からここらでいったん振り返ってみよう、というスタンス(だと思う)に対して、「弥永先生のほう」は、淡々と連載されてきたものの中から重要性の高いものをピックアップするというスタンス(だと思う)の違いだと思います。

そのため一見すると、「似たような本が同じ時期に出て、どっちを読もうか迷ってしまいます」ということになってしまうかも知れません。
しかしtacさんの、


世の中を騒がせた会社法関連事件を後からまとめて俯瞰できる文献というのもそうそうなく、そういう意味でも価値ある本



というご指摘のとおり、この5年間の会社法にまつわる事件を総ざらいするには「ムックのほう」が適当かと思います。
しかしながら、「もう少し踏み込んだところまでカバーしたい」「商事法務を読むとワクワクする」というような方には「弥永先生のほう」をお薦めしたいと思います。
とはいえ、そのような方はおそらく両方買うのでしょうね。

ちなみに個人的には、このBlogでも何度か触れていますように、私は弥永先生の切り口が好きなので、「弥永先生のほう」もハズせません。
amazonの解説では物足りないと思いますので、ご興味のある方は有斐閣のHP(コチラ)をご覧ください。
このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ