鐵丸先生のこんな法務じゃ会社がつぶれる―最新ビジネスロー問題を5分で解決 (鐵丸先生の“明快答”で、どんな法務トラブルも一発解決!)鐵丸先生のこんな法務じゃ会社がつぶれる―最新ビジネスロー問題を5分で解決 (鐵丸先生の“明快答”で、どんな法務トラブルも一発解決!)
(2010/09/27)
畑中 鐵丸

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第一法規さんから頂きました。ありがとうございます。


さて、本書のターゲットは企業法務担当者というよりはむしろ、中小企業の経営者や、ある程度大きな企業の管理職以上といったところでしょうか。

「世の中、コンプライアンス、コンプライアンスってうるさいけど、ウチは大丈夫なのか?」

というような、自社のコンプライアンス体制に若干の懸念を持っていらっしゃる中小企業の経営者の方などが、割と手軽に企業法務全般のトピックに触れることのできる一冊ではないかと思います。

「はじめに」で、


・企業法務をおろそかにする会社が潰れる時代
・これからの企業のトップは、法律オンチでは務まらない
・経営トップに対するリアルな法務指南の現場を公開



という項目が立てられているところからも、そのようなターゲット像が読み取れます。


とはいえ、もちろん私たち法務担当者にとっても、「へぇ~」と今更ながら知るようなことも多くあって、なかなか面白い読み物に仕上がっています。


まずは、例によって目次を引用します。


序章  企業法務課題の合理的整理法
第1章 企業組織運営・M&A・事業承継にまつわるトラブル
第2章 「ヒト」を使う際のトラブル
第3章 「モノ」の調達・製造・販売のトラブル
第4章 「カネ(信用・債権)」にまつわるトラブル
第5章 「チエ(技術・情報・ブランド)」に関するトラブル
第6章 営業にまつわるトラブル その1・企業間営業活動(BtoB)
第7章 営業にまつわるトラブル その2・消費者向け営業活動(BtoC)
第8章 国際法務に関するトラブル
第9章 その他の企業法務課題



目次をご覧頂けばわかるように本書のキモは、「企業法務」というものを「各企業法務活動を企業が展開するビジネス活動に沿って俯瞰する形で整理して」いるという点にあります。
この点、「企業法務課題の合理的整理法」という章をはじめに置いて、本書の構成を説明しているあたりからも、この「整理法」に対する自信とこだわりが窺われます。
確かに、「予防法務」や「戦略法務」という切り口や、「契約法務」や「コーポレート法務」という切り口より、一般的にはスッキリとしていてわかり易いのではないかと思います。

ところで著者の畑中鐵丸先生は、会社法務A2Z(”エートゥーゼット”ではなく、”エートゥーズィー”と読むということを最近知りました)にて、「鐵丸先生の生兵法務は大怪我のもと!」を連載されているので、ご存知の方も多いのではないかと思います。
パチンコ玉を想起させるようなインパクトのあるお名前も、一度聞いたら忘れられません。


さて肝心の中身ですが、1章あたり4項目前後の具体的な「相談」に対して、解説がなされ、最後にまとめとして鐵丸先生が「回答」をする、という体裁が繰り返されます。
「相談」はちょっとしたストーリー形式になっており、「ナニワ金融道」や「カバチタレ」のような、ちょっとドロっとしたテーマが多いように感じましたが、関西の言葉が使われているからそう感じただけかも知れません。
この構成についてはdtkさんが、


その一方で、著者の回答部分は比較的分り易いものの、その前の解説部分は、法務の人にとっては特に読みにくくはないけれど、この本で読者として想定されていると思われる、その他の皆さんにとっては、読みにくいかもしれない。もう少しボリュームを増やしてでも、さらに噛み砕いた解説にしたほうが親切かもしれない。さもなくば、解説部分は、思い切りよく、省略した方が良かったのかもしれない。



とおっしゃっているように、私たち法務担当者にとっては、解説部分が最も興味深い部分である反面、法務に関する素養があまりない方にはちょっと難しく感じるかも知れません。

このあたりのレベル感は、「ITエンジニアのための『契約入門』」を書いた際に、私たちも喧々諤々の議論をしたところで、ターゲットがはっきりしていないとバランスが難しいものです。

あとになって見返してみましたが、私が線を引いてdog-earをしているのも、ほとんどが解説部分でした。
というのも、解説部分には、「回答」の前提となる根拠法令や裁判例がきちんと掲載されているので、「この程度のことは全部知ってるぜ!」という法務担当者を除けば、「ほほぅ」と勉強になることも多くあるかと思います。

およそ260ページ、そして952円(税別)というお手軽な価格。法務担当者であれば、「ほほぅ」とか「へぇ~」とか言いながら2時間もかからず読み終えることができると思います。
というわけで、通勤のお供にいかがでしょうか。


ところで次回作は、「こんな会社じゃ法務がつぶれる」でお願いしたいと思います。