「暴力団排除条項について考えてみた。(前半戦)」
「暴力団排除条項について考えてみた。(後半戦)」

と、過去2回にわたって、いわゆる「暴排条項」についてダラダラと書いてきました。
続くんだか、もう終ったんだかさえもよくわからなくなっているこのシリーズですが、「延長戦」として、実は続くのです。

とはいえ、何を目的として書いているのか自分でもよくわかっていないような状況なので、全くもってまとまりのないシリーズとなってしまっています。
ここで頑張って大きく舵を切り直し、それらしくまとめることもできるかも知れませんが、あえてそのまま行くことにしました。
いろいろと情報をくださった上に応援までしてくれている@unza_unzaさんには申し訳ないのですが、読むに値しないまま終るかも知れません。


例によって前置きが長くなってしまいました。
さて、前回までに何を書いたのか正確に覚えておらず、またそれを確認することさえも放棄したまま、「延長戦」に突入したいと思います。

そうです。「暴排条項」です。
いくつかの文献にあたってみたのですが、NBL921号の「暴力団排除条項(上)」という、平野兼弁護士と藤内健吉弁護士による論稿の前半部分が、端的かつ実践的な内容にまとまっているので、これを読んでもらえればこのBlogを読んでもらう必要は全くないように思います。以上。

・・・で終わるのはあまりに失礼な話なので、実務の話を交えて少し思うところなどを書いてみたいと思います。


「前半戦」で書いたように記憶しているのですが、「暴排条項」は属性要件と行為要件で定められているものが現在の一般的な記載方法かと思います。
なぜなら属性要件、つまり例えば取引先が反社会的勢力に該当するのではないかということがわかったとします。その場合であっても、反社会的勢力に該当するという事実を立証することは、「役員に指定暴力団の構成員がいる」という場合でもない限り、なかなか難しいというのが現状だからです。
※この点、大手金融機関などはおそろしい程のデータベースを持っていますが、「このヒトが反社です!」とはなかなか教えてくれません。

そのため、行為要件を定めておいて、「脅迫をしたりしたら契約を解除しますよ」ということを定めておくわけです。

しかし、「脅迫をしたりしたら解除しますよ」というようなものは、一般的な解除条項に盛り込んでおくことでも対処できるでしょうし、現在の社会の風潮からすると、脅迫まがいのことをされる以前に、そもそも「反社会的勢力と取引をしている」という事実があるだけで、問題になってしまうことが予想されます。

そこで、
「属性要件に該当していることが判明した時点で、いかにして契約を解除するか」
ということが、かなり実践的に検討されているのが、NBL921号の「暴力団排除条項(上)」のありがたい点だと思います。



今回の論稿ではまず、「暴排条項」の機能が以下の3つに分けられています。
①事前予防機能
取引基本契約書等に「暴排条項」を盛り込んでおくことにより、反社会的勢力のほうが取引を避けるという機能。
②拒絶根拠機能
取引の相手方が反社会的勢力であることが判明した場合に、取引を開始しないことや取引を解消するための根拠となる機能。
③裁判規範機能
訴訟となった場合に、取引解消が法的に有効と認められるための根拠となる機能。

そして、

暴力団排除条項は、(中略)その規定の仕方において、単に取引先等が暴力団等と関係を有する場合に解除できると定める解除条項の形式(解除条項型)と、現在または将来において自己が暴力団等と関係を有するものではない旨を表明して保証し、それに反した場合に解除することができる旨を定める表明保証条項の形式(表明保証型)の2つが見受けられる。



とし、(どちらかというと多数派ではないかと個人的には思う)「解除条項型」ではなく、「表明保証型」の暴排条項が提案されています。

この点、表明保証(いわゆるレプワラ)の法的性質に若干の争いはあるものの、債務不履行責任と解するのが妥当であるとしたうえで、具体的な暴排条項の条項案が紹介されます。


条項案をここに引用することはしませんが、概ね以下のような構造になっています。
第●条
1.取引の相手方が反社会的勢力でない、ということが取引の重要な要素であることを確認する。
2.反社会的勢力でないということについて相互に表明保証する。
3.反社会的勢力であるとの疑いが生じたときには、きちんと説明する義務を相互に負う。
4.反社会的勢力であった場合に相手方は契約の無催告解除をすることができる。

表明保証条項としては、第3項がやや目新しい気がします。
しかしこの第3項がこの後で肝になります。

そしてここからが、この論稿の最も斬新かつアバンギャルドな提案部分です。

(前略)暴力団等の該当性に関する信用性のある証拠を収集することは一般に困難であり、暴力団等との関係を有することの立証は困難となることは明らかである。この困難を克服するためには、十分な立証手段をそろえる方法を検討することも重要であるが、暴力団排除条項中に立証の困難を緩和するための条項を規定することも検討すべきである。



つまり、表明保証してもらっても、やっぱり立証するのは難しいじゃないか。
何か立証を簡単にする方法はないか、ということですね。
確かに一番の悩みどころだと思います。

そこで登場するのが「証拠契約」

あまり耳慣れない言葉かも知れませんので、説明を引用します。


証拠契約とは、特定の訴訟における事実の確定方法に関する当事者間の合意であり、具体的には証拠制限契約や自白契約、証明責任に関する契約などがある。証拠契約は訴訟契約の1つであり、その法的性質に関しては訴訟契約一般の対立が当てはまるが、その有効性に関しては、民事訴訟法上、証拠の収集と提出は当事者の権能であるとする弁論主義が採用されている以上、弁論主義の範囲内においては基本的には有効であると解するのが通説である。
(中略)
裁判例においては、証拠制限契約について、無効と判断するものも存するが、現在の学説においては、その要件は別として、無効と考えるものはほとんど存在しないことから、証拠契約は基本的に有効と考えられる。



上記引用中「裁判例」として、3つの地裁判決が紹介されていますが、
「当事者の自由処分が許される事項に限り、裁判所の自由心証主義に抵触しない範囲で」あれば、証拠契約は有効だと裁判所は考えているようです。

これらを踏まえ、さきほど構造をご紹介した条項案の続きとして、以下のような第5項・第6項が提案されています。


5.甲及び乙が相手方に対し第3項に基づき報告を求めたにもかかわらず、相手方が当該報告書を提出せず又は合理的な内容の報告書を提出せず、甲及び乙の間で訴訟が係属した場合、報告を求めた事項について裁判上の自白が成立し、当該事実の不存在を争うことができない。
6.甲乙間の訴訟において、第2項に定める表明及び保証の違反が問題となる場合、表明及び保証した者が立証責任を追い、表明及び保証の事実について真偽不明の場合には、表明及び保証の違反に関する事実が存在するものとする。




どの程度のものをもって「合理的な内容の報告書」というのか、「真偽不明の場合には、表明及び保証の違反に関する事実が存在するものとする」というのが実際にどこまで通用するのか、やや不安ではあります。

つまり、「あなたは反社会的勢力とかかわりがありますね。これがその証拠です」と言ったときに、その証拠に対して、「いやいやそれはガセネタですよ」と相手が反論することは可能かも知れません。
しかし「あなたは反社会的勢力とかかわりがありますね。そうでないのであれば、そうでないことを証明する報告書を提出してください」と言ったとしたら、相手としても反社会的勢力でないことの証明をすることは極めて難しいのではないかと思うわけです。
いわゆる「悪魔の証明」というやつですね。
それで「真偽不明→反社と判断する」というのは、やや強引な気がしてしまいます。

このあたりは裁判官の心証にどの程度の影響を与えるか、という話にもなるのかも知れませんが、いかんせん私にはそこまで踏み込んで書くだけの経験と知識がありません。


いずれにせよ、反社会的勢力との関係をもつこと自体が、会社の存亡にすらかかわる一大事となっている昨今、法務担当者としては、どのような方法で反社会的勢力とのかかわりを持ってしまわないようにするか、また、持ってしまった場合にかかわりを断ち切るか、ということを真剣に考えなくてはいけない状況になっています。

審査部門との連係も重要となってくるでしょうが、暴排条項でもって反社会的勢力との関係遮断を図ることは必須でしょう。
今回ご紹介したような条項案がどの程度の力を発揮するのか、今後のさらなる研究や裁判例の動向などを注意深く見ていきたいと思います。

でもあらためて考えてみると、冒頭述べた「暴排条項の機能」のうち③裁判規範機能を追及していくうちに、「そこまでやるか」という意味で①事前予防機能にもつながるような気がしてきました。

つまり「ウチは絶対に何としてでも、反社会的勢力はお断りだかんね!」というアピールになるのではないかと思います。

今回の論稿にもありましたが、①事前予防機能と②拒絶根拠機能は、(実際にそれを発動させるかは別として)できる限り範囲を広げておいたうえで、③裁判規範機能は現実的に適用可能なものにする、ということを前提に考えれば、
「反社会的勢力お断り」を強くアピールすること自体が、非常に大きな意味を持つことになるのでしょう。
その一手段として、練りに練られた「暴排条項」というものが威力を発揮するのではないか、ということで何となくまとめさせてもらいたいと思います。