エンゼルバンク公式副読本 「売れ残る時代」の転職術──あなたの価値は「相場」で決まるエンゼルバンク公式副読本 「売れ残る時代」の転職術──あなたの価値は「相場」で決まる
(2009/12/18)
モーニング編集部三田 紀房

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転職を考えているわけではありません(笑)


本書の著者の作品である、「ドラゴン桜」も「エンゼルバンク」も読んだことがないのですが、「面白い!」との噂はかねがね聞いております。
近所の三省堂で平積みされていた本書を何気なく手に取ってパラパラ眺めていたところ、ベンチャー企業に関する著者の考え方が書いてあるページが目に入ったので、早速購入しました。


おそらくこの本のターゲットは20代の、転職経験のない(或いは少ない)会社員だと思います。
なので30半ばで転職を何度も経験している私のような者からすると「そうだよね」と、経験や知識としてわかっていることが多いものではありました。

しかしこのBlogを訪問して下さっている方には若い方も多いということが最近わかってきたので、本書の紹介と併せて、私の思うところを書いてみようと思います。

以下、本書の章立てです。


第1章 間違いだらけの転職の常識
第2章 仕事の前に「自分」を見つけろ!
第3章 転職先の正体を見極めろ!
第4章 履歴書・職務経歴書を甘く見るな!
第5章 面接官を逆面接しろ!
第6章 本当の「転職」は内定後に動き始める
第7章 幸せの青い鳥はどこにいる?



これを見て頂ければわかるように、「転職とは何ぞや」から始まって、自己分析・会社分析の方法や考え方、履歴書や職務経歴書の考え方(書き方ではありません)、面接に望む姿勢、内定後の動き方、そしてまとめ、という流れになっています。

著者のスタイルとして断定形や命令形の物言いが多いのが気になりますが、書いてある内容は単なる理想論や当たり障りのない転職指南書とは一線を画すものです。

ただ1点、これは違うと思う点を最初に指摘させて頂きたいと思います。本書に一貫して流れるメッセージでもあり、非常に重要な点だけに。


ビジネスマンとしてのあなたの価値、ひいてはあなたという人間の価値は、誰がどうやって決めるのだろう?
もし、「自分の価値は自分で決める」「自分を評価するのは自分自身だ」なんて話を鵜呑みにしているとしたら、一刻も早く考えを改めることだ。
あなたの価値を決めるのは、あなたではない。すべては「相場」によって決まるのである。



これが哲学的な話として、「あなたという人間の価値は相対的なものだ」というのであれば、必ずしも間違いとは言い切れない気もしますが、「あなたという人間の価値を決めるのは『相場』だ」というのは、明らかに言い過ぎでしょう。
ただし、転職をする際には確かに「ビジネスマンとしての市場価値の相場」に直面することになります。
この点は間違いのない事実かと思います。


さて、私自身思い当たるところもあり、非常に有益なアドバイスだと思うところを引用します。


転職を考える人の多くは、とかくこれまでと違った環境、違った仕事、違った自分を求めがちだ。おかげで、せっかく積み上げてきたキャリアを帳消しにして、文字通りゼロからの再出発を強いられる。
再出発といえば聞こえはいいが、ゲームでいうならレベル1からのやり直し。素手で雑魚キャラと闘う日々の始まりである。
自分の元金はどこにあるのか。現在どれくらい貯まっているのか。どうすればその元金を活かしつつ、新たなフィールドに立てるのか。転職を考える前に、もう一度自分に問いかけてみよう。自分では気づいていないかも知れないが、あなたはすでに多くの貯金を手にしているはずなのだ。
その貯金をあっさりドブに捨てるのか、それともたっぷり利息を受け取るのか。すべては、キャリアの継続にかかっている。



「キャリアの継続性」
これは確かに大切です。

私自身「法律に深く関わる仕事ではない仕事」に移りたいと考えたこともありますし、一時的にそのような仕事をしたこともあります。
でもやはり結果的には、30歳を過ぎて未経験の仕事に取り組むのは、「ゼロからの再出発」とまでは言いませんが、なかなか持てる力を発揮できないものだと思います。

私の知る範囲でも、経理→会計事務所→主婦→経理、と環境や必要に応じて転職をしている子持ちの女性がいます。彼女もやはり、「キャリアの継続性」を保っているからこそ、40歳を過ぎて米系上場企業の経理部マネージャーという職に転職することができたのだと思います。(もちろん普段から非常な努力をしていますが)


私のように転職を何度も経験し、ようやく自分のやりたい事や力を発揮できる場所を見つけるというような方法は決して他人にはおすすめできません。それはとてもリスキーだからです。
ただ、できれば20代のうちにいろいろな仕事に関わってみて、自分が力を発揮できるものをみつけておくことは大事だと思います。

そのような意味で、実際に転職するかどうかは別にして「転職の可能性を常に意識していること」は、ビジネスマンの姿勢として必要なのではないでしょうか。
そうすることによって、自分自身のビジネスマンとしての市場価値を知ることができ、また、自分自身のビジネス社会におけるアピールポイントを認識することができるかと思います。


最後に、私がこの本を購入するきっかけとなった、著者のベンチャー企業に対する考え方をいくつか引用して紹介したいと思います。


大手で働くことは、たとえるなら超豪華客船の乗組員になるようなものだ。船が沈没する心配は少ないけれど、自分で行き先を決めることはできないし、船長の顔すらよくわからない。そして自分の努力に関係なく、船は一定のスピードで進んでいく。あなたがいなくても会社は回っていく。それが大手のシステムだ。
一方、ベンチャーは小型ボートのようなものだ。いつ沈むかわからないし、実際に沈んでしまうボートもたくさんある。よくも悪くもスリル満点である。
そして、ベンチャーという小船が沈むかどうかは、ある意味、あなたの努力に左右される。船の行き先を決めるのも、実際に船を動かすのもそうだ。また、船長やほかの乗組員の顔をよく見えるし、「仕事ってなんだろう」「僕の存在ってなんだろう」なんて悠長なことを考えるヒマなど、どこにもない。



私は大手企業とベンチャー企業で実際に働いてみて、この違いを実感しています。



(ベンチャーでは)当然、重大な責任を負わされるわけだが、責任を伴わないところに「やりがい」などない。そしてここで身につけた力は、どんな業界に行っても通用する一生モノの力だ。



村上龍の「無趣味のすすめ」でも、仕事というものについて同じような主張がされていましたが、けだし名言です。

そしてベンチャー企業の魅力は、以下の言葉からも伝わりますし、私自身日々実感しているところです。


とくに株式公開・上場に至るプロセス(上場準備室の設置や証券会社との交渉など)を間近で観察できるとすれば、それはどんなスクールでもセミナーでも学べない貴重な財産である。
ベンチャーに身を置くことは、ほとんど経営に参画するようなものだ。最前線での経営スキルを学びたければ、ベンチャーほど魅力的なフィールドはないだろう。そこでの成功体験も失敗体験も、すべてあなたの将来を築く財産となるはずである。



もちろんベンチャー企業といっても、経営者の能力や一緒に働く仲間によって環境は大きく違うし、ベンチャー企業に入ったからといって誰もが「経営に参画するような」経験をできるとは思えないのですが、そのチャンスはたくさんころがっているのは間違いのない事実でしょう。

ただ1点、あまりはっきりと言う人がいないのでここに書いておきたいと思うのですが、成長しているベンチャー企業では、能力とマインドに欠ける人は排除されてしまいます。
大企業のように余剰人員を抱えることができない以上当然のことですが、この点を認識せず安易にベンチャー企業に入ると辛い思いをすることになってしまいますので、注意が必要です。