弁護士葉玉匡美先生の講演を聞いてきました。
テーマは「インサイダー取引」

葉玉先生といえば、法務省民事局において会社法の起草に携わったり、ブログ「会社法であそぼ。」などから、「会社法の専門家」という印象が強かったのですが、そのキャリアの半分は検事として築き上げていらっしゃいます。
そんな葉玉先生がインサイダー取引をテーマに、東京地検特捜部の捜査秘話などを交えて2時間お話しして下さいました。

私はこれまでインサイダー取引というものに、そう強い興味はなかったのですが、葉玉先生の話は非常に面白く、インサイダー取引に関する理解も随分深まりました。
中でも興味深かったのが、従業員持株会による自社株の取得が、インサイダー取引になってしまうというリスクに関する話です。
従業員持株会を運営している上場企業の例えば総務部長が、いつも通りに自社株を買い付けたような場合に、たまたま「重要事実」を知っていたら、インサイダー取引に該当するとして、処罰されることもあり得るのだそうです。この場合に処罰されるのは総務部長個人です。何気なく日々の仕事をこなしていて、ある日突然犯罪者になってしまうというのは、恐ろしい話です。

このように、インサイダー取引というのは思った以上に身近な存在なようで、葉玉先生の経験上、上場企業の役員はかなり高い確率で、「うっかりインサイダー取引」をしてしまっているそうです。
「オレは大きな株式の売買をしないから大丈夫」というような方も注意が必要です。2008年に課徴金納付命令が下された人の取引最低額は4万円だったそうです。

さて、インサイダー取引をすると、証券取引等監視委員会(SESC)が調査に来るそうなのですが、ここでさらに告発されて検察庁が動くのかどうか、というのはそのインサイダー取引が悪質なものかどうか、というのも大きなポイントになるそうです。
例えば借名。他人の名前を使ってインサイダー取引をしていた場合。このような場合はたいてい検察庁が動き、刑事罰を頂戴することになるそうです。逆に正々堂々と自己の名前で取引をしていたような場合というのは、「うっかりインサイダー」である場合が多く、課徴金で済むことが多いそうです。
さらにこの借名なのですが、誰の名前を使おうともすぐにバレるとのこと。
昔、ある弁護士事務所の先生にインサイダーの疑いがかかったそうです。検事が弁護士事務所に乗り込んで来て、真っ先に向かったのが、別の先生の秘書の席。この秘書の机をゴソゴソやっているので、事務所の人は不思議に思っていたそうなのですが、後に理由を聞いて納得。疑いをかけられた弁護士と、この秘書は深い仲であったとのこと。検事は全てを知っていたのです(!)

このような例は稀なのかも知れませんが、上場企業にお勤めの方や取引先に上場企業が多い方は、くれぐれも「うっかりインサイダー」には気をつけて下さい。「重要事実」が公表されると、その前に怪しい取引がなかったか、証券取引等監視委員会は常に目を光らせているそうです。