日経ネットの記事によれば、株式会社等の法人登記簿の代表者住所を非公開にしようという政府の動きがあるようです。

この記事は私がいつも拝読している「ビジネス法務の部屋」さんでも紹介されています。

さて、ビジネス法務の部屋には、

そこそこ大きな会社であれば本店住所と代表者住所は別々でありますが、日本のほとんどの株式会社は代表者の住所を本店住所として登記しているはずです。


との記述がありますが、数千社の商業登記簿を見てきた私の経験からすると、それは言い過ぎかなとも思います。

「本店」は事務所を構えているところを登記するのが通常ですので、自宅を事務所にしていない限り、代表者の住所と「本店」は別々になります。したがって、小さな会社であっても、たいていの場合は自宅外に事務所を借りていることが殆どなので、「本店」と代表者の住所は別になっています。
なお、「本店」とカギカッコで記載しているのにもわけがあって、厳密に言うと、「本店住所」とは言いません。住所は自然人に対して使うもので、株式会社であれば「本店」となります。さらに細かいことをいうと、「本店所在地」というと最小行政区画までの話となり、何丁目何番何号まで書いてある場合は、「本店所在場所」といいます。
(本店移転の際に、株主総会で「本店所在地」を定め、取締役会で「本店所在場所」を定める、などというのは、ここの理解がないと、意味不明になるかと思います。)
ちなみに住所以外に生活しているところは「居所」といいます。

さて、話がそれてしまいましたが、先日の厚生事務次官襲撃事件等をきっかけに、個人情報保護の観点からも、商業登記簿に記載されている、代表者の住所を非公開にしてしまおうという話のようです。
現状として、たいていの会社の代表者は、確かに登記簿に記載されている住所に「住んで」います。しかしこれが大企業になると、話が違ってきます。
代表者の住所が登記簿に記載される際には、印鑑証明書を添付しているので、住民票にはその住所が記載されていることは間違いありません。しかし、大企業の社長や例えば芸能人などはそもそも住民票に記載されている住所には住んでいないことが往々にしてあるのです。その場合には当然、登記簿に載っている住所と実際に住んでいるところは異なってきます。
まあ、そうはいっても殆どの会社の代表者の住所は、登記簿と一致していますので、自宅にセールスがきたりということもよくあることです。

そもそも、何故商業登記簿は公開されているのか。
それはこれからその会社と取引をしようと考えている相手などが、本当にその会社が実在していて、契約書に捺印する相手が代表権を本当に持っているのか、等々を知るため(もちろんそれだけではありませんが)です。
そのような場合に、代表者の住所まで知る必要があるのか。
私はないと思います。さらに言えば、上述したように、大企業の社長さんや、有名人は「住所」と違うところに住んだりしています。
法務局として、代表者の住所を把握している必要はあるかと思いますが、公開の必要はないのではないかと思います。
商業登記簿で代表者の自宅を調べると、代表者の自宅が持ち家であれば、不動産登記簿を取ることによって、その代表者の銀行からの借入状況までわかってしまうのです。これはやはり気持ちが悪いですよね。
さらに、役所に虚偽の申請をしたり、弁護士等の「職務上請求書」を使えば、住所から本籍を割り出し、戸籍まで取れてしまいます。
これはさらに気持ち悪いですよね。

そんなわけで、非公開化に一票。