朝日新聞の12月16日付の記事によると、ミスタードーナツをフランチャイズ方式で運営する株式会社ダスキンに対して、株主代表訴訟の勝訴株主が訴訟を提起することになるようです。
これは、いわゆる「ダスキン事件」において株主代表訴訟(会社法上は「責任追及等の訴え」)により、当時のダスキンの取締役らに対して約53億円もの巨額の賠償が命じられた有名な裁判の「その後」の話であったのですが、思わぬ広がりを見せることになっています。

そもそも「ダスキン事件」とはどんな事件であったのか、概要を記したいと思います。

ミスタードーナツが2000年頃から販売していた肉まんに、食品衛生法で使用が禁止されているTBHQという酸化防止剤(極微量であり健康被害は考えにくい。またアメリカ等では使用が禁止されているものではない)が混入していたという事実が2002年に新聞等で報道され、それによってミスタードーナツの売上が大幅に低下しました。フランチャイザーであるダスキンは、フランチャイジーである各加盟店に対し、売上減に対する補償等を行い、多額の出費を余儀なくされました。
酸化防止剤の混入は、ある業者からの通報によってダスキン側に知らされたのですが、当時のダスキンの取締役らは、この業者に対して口止め料を支払い、また、積極的に事実を公表する等の措置を取りませんでした。
この取締役らの作為・不作為によって生じた損害について、株主代表訴訟が提起され、2008年2月、約53億円の支払いを命じる判決が確定しました。

この判決では取締役の作為義務が問題となり、注目を集めたのですが、ここではあえて触れません。あくまで「その後」の話をしたいと思います。

ここでは、ダスキン、ダスキンの当時の取締役ら、株主代表訴訟を提起した株主、株主の代理人弁護士の4者が登場します。
株主は53億円もの賠償を命じる判決を得ましたが、現在までのところ実際に当時の取締役らから回収できた金額は6億9,000万円といわれています。このお金はダスキンに入ります。
一方、株主は訴訟を弁護士に委任しており、「経済的利益」を基準として算出された弁護士報酬は、「経済的利益」を53億円とすると4億円。「経済的利益」を6億9,000万円とすると5,500万円と計算されています。
もちろん弁護士としては前者を「経済的利益」と主張し、4億円を請求します。一方ダスキンとしては後者を「経済的利益」と主張し、5,500万円の支払義務しかないと反論します。
(会社法第852条第1項により、弁護士報酬は会社が負担することになっています)
そこで弁護士がダスキンに対し、「4億円払え」と訴えを提起しようとしているのが今回のニュースです。

この問題、もしかすると構造的な問題を孕んでいるかも知れません。
株主代表訴訟については、訴額にかかわらず印紙代は1万3,000円です。これが株主代表訴訟でなければ、53億円の訴額に対して11,320、000円の印紙代がかかることになります。さすがに1,000万円以上の印紙代がかかるとなると、「勝訴しても53億円の回収は見込めないから10億円を請求しよう」という意識が働くかもしれません。特に今回のような株主代表訴訟においては、請求先は取締役ら個人ですので、53億円の支払いは非常に難しいかと思います。
しかし株主代表訴訟は1万3,000円の印紙代ですので、「請求できるだけ請求しよう」という発想になっても不思議ではありません(今回の事件がそのような発想によるものなのかはわかりませんが)。

こうなると会社側としては、弁護士報酬を算出する基準となる「経済的利益」は、実際に回収できた額(今回でいえば6億9,000万円)にして欲しいと考えるでしょうし、弁護士としてはそれでは割が合わないので、「株主代表訴訟はやりたくない」ということになるかも知れません。
このような事態を避けるためには、「経済的利益」に一定のパーセンテージをかけたものを弁護士報酬とする契約ではなく、確定額を弁護士報酬とする契約を締結しておくべきだったのかも知れませんね。
しかし高額の賠償金を命じる判決が出てきている昨今、構造的にこのような問題を解決する方法を考える必要もあるかと思います。
今回の訴訟の経過が非常に気になるところです。


この問題は「ビジネス法務の部屋」さんでも触れられています。