風にころがる企業ホーマー

企業法務や経営に関する話題を中心に、気ままに情報発信してます。

2011/06

D1-Law nano 判例20000 2011 Edition (重要判例20,000件超を収録したUSBメモリー!)D1-Law nano 判例20000 2011 Edition (重要判例20,000件超を収録したUSBメモリー!)
(2011/04/01)
不明

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何ともありがたいことに、この商品を第一法規さんから頂きました。
第一法規の皆様にはこの場を借りてお礼申しあげます。ありがとうございます。

さて既に、この商品については「企業法務マンサバイバル」のtacさんや、「dtk's blog」のdtkさんなどが詳しく紹介されているので、私ごときがコメントする意味はあまりないようにも思いますが、あえてそのようなことはお構いなしで感想など書いてみたいと思います。


そもそもこのUSB判例データベース、2010年に発売されたときに、私は個人的に購入しようかどうか迷っていました。
というのも、ASP型の判例データベースを提供されている会社はいくつかありますが、いずれもいかんせん"高い"というのが正直な感想。
弁護士事務所や学者さんであれば、コストに見合うだけの利用をされるのかも知れませんが、私のように小規模な法務部門で働く人間がそこまでバンバン使うこともないだろうと考え、判例データベースの導入は見送っていました。

そのような経緯もあり、判例データベースについては裁判所の判例検索システムを必要であれば利用するという程度に留めていたわけです。
さてそんな折、USBの判例データベースが第一法規さんから発売されたことを知って、「これなら自腹で買ってもいいかな」と考えていたわけです。
しかしそうはいっても21,000円します。
買ってみてから「使えないなあ」と簡単に放り出すには少々痛い金額です。
また「重要判例20,000件超を収録」と言われても、20,000件がどの程度のものなのか、つまり実務上裁判例にあたってみるときに事足りる件数なのかどうか、今ひとつピンときませんでした。
そしてそうこうしているうちに、2011年版が発売されたわけです。


ところで少し話は変わりますが、「経営戦略―論理性・創造性・社会性の追求」 という本に、以下のような一節があります。


ベンチャー企業の特徴は、その成長過程において、リスクを冒しながら、なおかつそのリスクを減少させようとするという「リスク・パラドックス」に常に直面していることである。そのリスクをいかにマネジメントしていくのかは、ベンチャー企業の成長にとって本質的な問題と言える。



決してベンチャー企業だけに限られる話ではないでしょうが、全く新しい事業や取組みを行うにあたり、この、「リスク・パラドックス」は、個人的にまさしく日々直面している問題でもあります。
そしてそのような事業や取組みのスキームを作る段階から、法令違反がないか、或いはどのような手当てをしておく必要があるかなど、いろいろな文献にあたって調べることが、案外日常的にあります。
もちろんそのようなときには顧問弁護士の意見を聞いたりもするのですが、保守的な回答しか得られないこともよくあります。
特に多いのが、「このようなリスクがあるのでこのような対応をしておくことが望ましい」というような回答。そしてその、「このような対応」をした方が安全なのはわかるけど、それができないから頭を使っているのです、という状況になることも珍しくありません。
そんなとき、「この本にこんなことが書いてある」とか「こんな裁判例がある」ということを調べたうえで、スキームを検討し直して再度相談したり、関係するお役所に問題ないかを確認に行ったりする、ということもあります。


だいぶ話が逸れてしまいましたが、時間とお金がふんだんにあるわけでもないベンチャー企業の法務担当者にとって、毎月チャリンチャリンとお金を払う方式ではなく、USBメモリーに入ったデータをバサッと買い取ってしまうこの商品は、非常に魅力的に見えたわけです。
(あとまあやはり個人的にも、「どんなもんじゃろか!?」と、興味は湧きますよね)

ちなみにこの商品の詳細は、本家のHPに記載されていますので、スペックなどの概要はそちらをご覧頂いたほうが早いかと思います。

さて何だかウダウダと書いてきましたが、結局私たち法務担当者にとって一番の問題は、
本当に使えるのか?
という一点にかかってくるものと思います。

そしてこればかりは実際に使ってみないことには、何とも言えないところですが、幸い第一法規さんから頂戴したおかげで、実際に使ってみることができました。

感想。
これ、とてもいいです。

何といっても検索性がいい。
ネット環境がなくても、そしてもちろん回線速度などに関わりなく、ズバっと一瞬で「検索ワード」に関連する裁判例が表示されます。
そして「20,000件ってどうなの!?」という不安もすぐに打ち消されます。最高裁判例はもちろん、下級審の裁判例についても結構な数がヒットしますから。
当然、あらゆる裁判例が網羅されているわけではありませんが、企業法務担当者として「欲しいレベル」は軽々と超えているのではないでしょうか。

例えば「株価」などというテキトーな言葉で検索してみると、以下のように210件がヒットします。

46fbc85a.jpg


検索結果にはもちろん、ここ数年話題となった、レックス・ホールディングス社、サイバードホールディングス社、サンスター社などの価格決定申立て事件に関する、地裁・高裁・最高裁の決定なども表示されています。

そこで試しにサンスター社の価格決定申立て事件の要旨を見てみましょう。

8f68c64e.jpg


キャプチャーでは若干見づらいかも知れませんが、決定の要旨だけでなく、裁判官の名前やこの決定に関する評釈が掲載された雑誌の号数などまで表示されます。
そして画面右端にはこの決定に関係する法令(ここでは会社法第172条)が表示され、ここをクリックするとtacさんが「芋づる式」と表現されているとおり、この規定に関連する裁判例をズラズラと引きずり出すことができます。
この「芋づる」は、非公開会社の価格決定申立て事件など、ややマニア心をくすぐられるものにもつながっているので、「ほほう」などとつぶやきながら、楽しく読んでしまったりします。

さていよいよ本文を見てみましょう。
スクリーンショットの赤で囲った部分をクリックすると、本文が表示されます。

fff402d2.jpg


そしてさらに、「解説」をクリック。

edf2652a.jpg


なんと判例タイムズ社の解説を読むことができます。
この、判例タイムズの解説は全ての裁判例等についているわけではありませんが、第一法規さんが「最重要判例」と判断したものにはついているとのことです。
私がちょっと見てみた限りでは、収録されている解説の件数や割合はわかりませんでしたが、感覚としては「結構掲載されているなあ」という印象を受けました。とはいえ、この印象には当然個人差もあるでしょうから、おまけ程度に考えていたほうがいいかも知れません。


「興味はあるけど使えるものなのかどうか不安だ」という方も結構いらっしゃるものと個人的にニラんでいるこの商品。
理想をいえば一度試しに使って確認したいところだと思いますが、私としては「買って損はない」というか、「是非持っていたい」と感じました。
実際、いつも持ち歩いているPCのインナーケースには、この商品を入れています。

ただ「会社のセキュリティ上USBはノー」という方や、「もっとお手軽に調べたいんじゃ」などという方のためにも、スマホやタブレット向けのアプリとして発売されると歓迎されるのではないかとも思います。

以上、思いつくまま気の向くまま、感想をツラツラと書いてみました。
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法務担当者のためのもう一度学ぶ民法(契約編)法務担当者のためのもう一度学ぶ民法(契約編)
(2009/09)
田路 至弘

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「いまさら紹介してどうすんの?」
という声が聞こえてきそうですが、「いいものはいい」ので、今さらと言われようがきっちり紹介させて頂きます。
田路先生の「民法再入門の本」です。

「企業法務について」の kata さんが、2年近く前のエントリーで、
"法務に配属されたら何をおいても最初に読むべき一冊"
と紹介されていたことをご記憶の方もいらっっしゃるかと思います。

そしてご記憶の方は奇特な方であると認定させて頂きたいのですが、「民法の入門書として最適な一冊選手権」暫定チャンピオンというエントリーで、やはり2年ほど前に私も、以下のように本書について少し触れていました。


「企業法務について」のkataさんを初め、数々の法務系ブロガーに絶賛されている、「法務担当者のためのもう一度学ぶ民法(契約編)」が鳴り物入りでどーんと現れたのですが、僕はまだ読んでいないので、残念ながらコメントできません。
   (中略)
(「民法概説」を)民法入門書のチャンピオンに認定したいところですが、上記「法務担当者のためのもう一度学ぶ民法(契約編)」の評判があまりによいので、そことの決着がつくまでは「暫定チャンピオン」ということにしておきます。
この戦いについては、いずれケリをつけたいと思います。



というわけで、2年越しでケリをつけるときがきました。
実はこの田路(とうじ)先生の本は発売当時(シャレではありません)、買っていたのですが、なかなか目を通す機会がありませんでした。
しかし今年に入ってからわが法務部門に2名の新人さんが加入したため、「ここらできっちり読んでおいて、本当によかったら新人さんにプレゼントしよう」と考えたわけです。

そして今回一読し、迷わずプレゼントすることに決定しました。
ただ、新人さんのうちの一人は他社での法務経験があり、本書も既に読んでいたということが発覚したので、他部署から異動してきた1名様に1冊プレゼントすることにしました。

ちなみにもはや今さらどうでもいいことですが、「民法の入門書として最適な一冊選手権」は、そもそも成立しないことが2年越しでわかりました。
この本は、「もう一度学ぶ」とタイトルにあることからもわかるように、決して単なる「入門書」ではありません。

表紙の食欲を増進させるようなオレンジ色。どことなく親しげな印象を与えるゴシック体のタイトル。そして図表や挿絵(P133の挿絵がシュール)などから、非常に手に取りやすい一冊という印象を受けます。
また、構成、文体、説明のどれをとっても非常にわかり易い。
しかし甘くみてはいけません。
この本に書かれている内容は、「一度民法を学んだ人」でないと、すんなり理解しながら読み進めることはできないのではないでしょうか。

もちろん、法務担当者のための民事訴訟対応マニュアルを書かれた田路先生の本です。
わかり易さという点においては非常に工夫されています。
ですから「一度民法を学んだことのある人」にとっては、民法(商法も一部含みます)が契約や契約書においてどのように使われているのか、とてもよく理解できることと思います。

このあたりは目的がはっきりしていて、大学や資格試験予備校などである程度民法を学習した経験のある法務担当者が、知識を再確認したり、そのような知識を契約実務においてどのように活用するのかを知る、という点に砕身されたものと思います。


ということで、例によって目次を抜粋したいと思います。


第1章 企業法の体系と民法
第2章 契約締結前の法律関係(信義誠実の原則の問題)
第3章 契約の締結ー意思表示と代理(民法総則の問題)
第4章 契約の解釈(契約総論の問題)
第5章 債権の効力と消滅(債権総論の問題)
第6章 取引の終了
第7章 契約を巡る紛争解決(裁判と執行の問題)



このように、「契約の締結段階から契約が終了するまで」の一連の流れを通して、法務担当者が知っておくべき条文・裁判例・契約書作成の方法などをおさらいすることができる構成となっています。
換言すると、学校などで学んだアカデミックな知識と企業法務実務との架け橋として最適な一冊と言ってもいいのではないでしょうか。

各章とも、「設問→大きな話→小さな話」という流れが徹底されていて、また、必要な箇所で必要な条文が記載されています。
そして学説などには踏み込まず、裁判例をわかり易く採り上げるというスタイルが徹底されています。
記述のレベルも、「この程度の知識は持っておいてほしい」という意味でまさに「絶妙」です。


私の働いている会社では時間の都合から、「買ってあげるからきっちり読んでおいて」という方法になってしまいますが、できることなら、この本を使って研修をしたいものです。
必要に応じて口頭で補足していけば、この一冊でかなり充実した研修ができるのではないかと思います。


そのようなわけで、是非読んで頂きたいオススメの一冊です。
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