風にころがる企業ホーマー

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2010年11月

小さき者へ・生れ出ずる悩み (岩波文庫)小さき者へ・生れ出ずる悩み (岩波文庫)
(2004/08)
有島 武郎

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この本は高校生の頃に、一度読んだように記憶しています。
その当時の私は学校の授業をマトモに受けることはあまりなく、居眠りをするか本を読むか、ひどい時にはクラスメイトと「UNO」をして遊んだりしていました。

私は学校の授業を熱心に受ける学生ではなかったのですが、本はよく読んでいました。
その頃に何となく手に取った一冊だと思うのですが、今になって読み直してみて初めて、この作品の温かさが心に沁みます。

「小さき者へ」はたった18ページしかない、短い話です。
小説でもエッセーでもなく、いうなれば「わが子に宛てた手紙」のような作品です。
幼い子どもたち3人を遺して死んでしまった妻のことを回想しつつ、わが子への思いを真っ直ぐに表現しているこの作品は、同じく幼い子どもを持つ父親として、強く胸を打たれます。

解説によればこの作品は、「大正6年12月7日の朝から原稿紙に向かい、その夜ふけの2時ごろまでに、一気に書きあげた」ものだそうです。
そのためか、落ち着いた文体の中にも、わが子や妻への溢れんばかりの思いが詰め込まれた作品に仕上がっています。
安っぽい喩えですが、夜中に書いた手紙を翌朝になって読み返し、恥しい気持ちになるような感覚とでも言えばいいのでしょうか。

この作品の解説をすることは、私などにはとてもできるようなことではありません。
ただ、私と同年代のお父さんには(過去に読んだことがあるよ、という方も含めて)是非読んで頂きたいという思いから、少々長いのですが冒頭の段落を引用しておきたいと思います。


お前たちが大きくなって、一人前の人間に育ち上がった時、―-その時までお前たちのパパは生きているかいないか、それは分らない事だが ―-父の書き残したものを繰拡げて見る機会があるだろうと思う。その時この小さな書き物もお前たちの眼の前に現れ出るだろう。時はどんどん移って行く。お前たちの父なる私がその時お前たちにどう映るか、それは想像もできない事だ。恐らく私が今ここで、過ぎ去ろうとする時代を嗤い憐れんでいるように、お前たちも私の古臭い心持を嗤い憐れむのかもしれない。私はお前たちのためにそうあらん事を祈っている。お前たちは遠慮なく私を踏台にして、高い遠い所に私を乗越えて進まなければ間違っているのだ。しかしながらお前たちをどんなに深く愛したものがこの世にいるか、あるいはいたかという事実は、永久にお前たちに必要なものだと私は思うのだ。お前たちがこの書き物を読んで、私の思想の未熟で頑固なのを嗤う間にも、私たちの愛はお前たちを暖め、慰め、励まし、人生の可能性をお前たちの心に味覚させずにおかないと私は思っている。だからこの書き物を私はお前たちにあてて書く。


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金融庁が公開している「資金移動業社一覧」(平成22年10月末現在)を見て少々驚きました。
というのも、資金移動業者として登録されているのは、以下に掲げるたった6社だけのようだからです。

トラベレックスジャパン株式会社
楽天株式会社
株式会社ジェイティービー
株式会社ウニードス
Western Union Payment Services UK Limited
ジャパンマネーエクスプレス株式会社
(なお、登録業者については渡邉雅之先生のBlogで既に簡単にまとめられていましたので、併せてご覧頂ければと思います)

今年の4月1日に施行された「資金決済に関する法律」(資金決済法)ですが、施行から半年が経過した時点では、資金移動業への参入企業はまだまだ少ない状況にあるようです。


私は今年2月のエントリーで、コンビニの収納代行や、宅配便業者の代引きサービスについて、「一応の解決を見た」と書きました。
なお、上記エントリーには若干の誤解もあり、のちに金融庁が公表した「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」のうちNo.148のコメントにあるように、収納代行や代引きについては「性急に制度整備を図ることなく、将来の課題とすることが適当」として、当面は登録せずとも業務を継続することに問題がないとされているようです。

しかしいずれにしても、大企業がこぞって参入することを予想していた私としては、登録業者の少なさに少々驚いたわけです。


さて、中央大学ビジネススクールの杉浦宣彦教授と、杉浦教授を中心とした「決済研究プロジェクトチーム」名で今年の6月に出版された下記の書籍。
発売時に買って満足していたのですが、最近ようやく読むことができました。

決済サービスのイノベーション―資金決済法で変わるビジネス・生まれるビジネス決済サービスのイノベーション―資金決済法で変わるビジネス・生まれるビジネス
(2010/06/11)
決済研究プロジェクトチーム杉浦 宣彦

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プロジェクトチームのメンバーが全員NTTデータ経営研究所の方で、「協力」として名前が並んでいる方々も全員NTTデータの方であることが少し気になりますが、資金決済法の概要や創出されることが予想されるビジネスに関する考察は、非常に興味深いものでした。

本書によれば資金移動業者として登録を受けると予測される業種について、以下のように述べられています。


では、誰がこの資金移動業者として名乗りを上げるのだろうか。本書ではまず携帯電話キャリア、コンビニエンスストア、ECサイトを挙げてみた。この三者が自らの有する既存の経営資源を使って、新しいマーケットを牽引していくのではないかと考えられるからだ。



上記3業種のうち、既に登録を受けているのは楽天1社のみですが、携帯電話キャリアが遠からず参入してくることは、ほぼ確実ではないかと思います。


また本書は、資金移動ビジネスのマーケットが拡大していく過程を以下のように3つのステップに分けて論じています。


資金決済サービス市場がどのように拡大していくか。ここでは、その拡大ステップについて考えていく。資金移動ビジネス市場は、草創期、成長期、普及期の3つのステップを経て成長していくと予想される。


この3つのステップ自体は特に目新しいものではありませんが、それぞれのステップにおいて、どのような業者がどのような形で参入してくるか予想されている点が、本書の興味深い点です。

ごく大雑把にいうと、「草創期」においては大企業がデファクトスタンダードになることを狙い参入し、「成長期」においては中小企業事業者が、大企業が扱えないサイズのニッチのマーケットに参入し、「普及期」には資金移動業者間をまたがる資金決済に対応する機関が登場する、というところでしょうか。
確かに大企業の持つ経営資源でもって、ある程度の基盤ができあがってからでないと、中小企業の参入は若干難しいのではないかと思います。
それは以下の2つが、中小企業にとって大きな参入障壁になると予想するからです。

①未送金金額の100%を供託する必要がある
②マネーロンダリング規制がある


①については最低でも1,000万円のキャッシュを準備する必要があり、②については「電子的にデータを取り、取引モニタリングを行い、その利用者の利用状況にどのような傾向があるかを監視し、いわゆる疑わしい取引などを抽出して金融庁に報告しなければならない」というものです。
いずれも資金決済ビジネスの規模を大きくしようと目論むと、先行投資も大きくせざるを得ません。
そのため中小企業としては大企業のシステムに乗っかるか、中小企業同士でアライアンスを組むかという方法でないと、「草創期」に参入することは難しいのではないかと予想しています。
とはいえニッチなビジネスで、本業の付加価値として提供するサービスとしてであれば、上記の参入障壁はさほど問題にはならないかも知れません。
このあたりは、本書においても以下のように説明されています。


(略)本業でしっかりとした収益を上げられ、既存の経営資源をもって付随的に資金決済サービスを提供することができるような事業者であろう。資金決済サービスそのもので収益をあげられないとしても、サービスを提供することで本業の利益に寄与できればいいのだ。このような事業者が現れれば、手数料が限りなくゼロに近づくという状況が、近い将来に起こりうる。



いずれにしても、これまで銀行にしか取り扱えなかった業務の一部が、一般の事業会社に開放されたことは画期的なことです。
今後さまざまな企業が資金移動業に参入し、ユニークなサービスを競い合い、さらに補完し合う関係を構築していけば、大きなイノベーションが起きるのではないかと思います。
また、「ウチの会社には関係ない」と考える方もいらっしゃるかと思いますが、「どうやってウチのビジネスに活かせるか」という視点で考えてみると面白いのではないかと思います。


<おまけ>
ちなみに、「そもそも資金決済法とは何ぞや?」ということを知りたい方は、以下のリンク先をご覧頂ければ、概要をご理解頂けるのではないかと思います。
  
 「新たな資金決済サービス」金融庁

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