風にころがる企業ホーマー(入居作業中)

企業法務や経営に関することについて、情報発信していきまーす!

2010年10月

企業倒産を招く法務トラブル35企業倒産を招く法務トラブル35
(2010/09/22)
弁護士法人中村綜合法律事務所

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東京都千代田区にある中村綜合法律事務所という弁護士法人名義で出版された一冊で、「中小企業経営者のための法務リスク管理の本」(帯から引用)とのことです。

何はともあれ、目次から章だけ抜粋してみます。


はじめに
第1章 ヒトのトラブル
     社内ルールを整備してこそ、会社は発展する
第2章 情報管理(チエ)のトラブル
     情報・権利は会社の財産と思え
第3章 BtoB(取引先)のトラブル
     取引先とのリスク管理は事前準備で9割決まる
第4章 BtoC(消費者)のトラブル
     消費者との無用なトラブルを避け、会社の信用を守れ
第5章 会社存続に関するトラブル
     会社の存続を決めるのは、経営者の正しい法律知識
おわりに



各章それぞれ、4から15コの具体的な事例がストーリー仕立てで紹介されています。そしてそのストーリーに含まれる法的問題点を抽出したうえで解説を行うというのが、本書のスタイルです。
先日ご紹介した「こんな法務じゃ会社がつぶれる」と同様のスタイルで、ターゲットとしている読者層もかなり近いのではないかと思います。
そういえば、「ITエンジニアのための『契約入門』」も、半分は同じスタイルでした(ちょっと宣伝)。

とはいえ「こんな法務じゃ会社がつぶれる」が第一法規さんから出版されているのに対し、本書は幻冬舎メディアコンサルティングという会社が発行していることからも、弁護士法人の広告宣伝の要素が強い一冊ではないかと思います。

このあたりは、35コの事例の解説に必ず、
「弁護士に相談することをお勧めします」
「顧問弁護士などに事前に相談するようにしましょう」
というような言葉が登場することからも推察できるところです。


採用の基準を事前に決めておく場合には、自社の顧問弁護士に相談してみるのもひとつの手です。顧問弁護士は日ごろの相談を通じて顧問先企業の人的ニーズについて少なからず把握しているでしょうし、またそれまで処理してきた多くの事件を通じて様々な人間に接しているので、人材選びの方法についてその経験を踏まえた有益な示唆を得られるかもしれません。


人材採用に関してここまで言われると、さすがに言葉を失ってしまいますが・・・
いっそのこと「顧問弁護士のススメ」というようなストレートなタイトルでもよかったのではないかと思ってしまうほどです。

この「弁護士に相談しましょう」があまりにクドいのが本書の最大の難点ではないかと思います。その意味では宣伝広告の効果は「いまひとつ」なのかもしれません。
とはいえ、内容自体は中小企業(特にドメスティックな中小企業)の経営者の興味を惹きそうなトラブル事例が多く取り上げられていて、「企業法務に関する読み物」としては面白い一冊に仕上がっているのではないかと思います。

もちろん上記の目次をご覧頂けばわかるように、必ずしも中小企業が遭遇するトラブルが網羅されているわけではないのですが、「あー、確かにそこは気になるよな」というようなテーマが中心に取り上げられています。

例えば第1章「ヒトのトラブル」の中の、「辞めた従業員の行動まで拘束することができない?」というテーマでは、従業員が退職後に自社と競業する事業を営むことを防げるのか、ということについて解説がされています。
このあたりはまさに、属人的な業務の多い中小企業経営者にとってはとても気になるところでしょう。

また第3章「BtoB(取引先)のトラブル」の中の、「時効を"中断"すれば債権は消滅しない?」では、ともすれば「ひたすら請求書を送り、電話をかけ、さらには訪問して支払いを要請するだけ」となってしまいがちな債権回収方法を行ってきた方に、「それじゃイカンのね」と気付かせてくれるでしょう。

これらは、私たち企業法務担当者にとっては「知ってて当然」の部類に入ることかも知れませんが、中小企業経営者の方や、これまで法務に関わる機会があまりなかったビジネスパーソンの方々にとっては、「ほう」と感じることも多いのではないかと思います。
(もちろん中小企業経営者の皆さんが法務知識に欠ける、と言っているわけではありません。念のため。)


さて、このBlogをお読みくださっている方の大半を占めると考えられる企業法務担当者の方にとって、本書はオススメかどうか、という点について触れておこうかと思います。
上に書いたように、本書に書かれていることは、私たち企業法務担当者にとっては「知ってて当然」の部類に入ることが多いのは確かでしょう。
とはいえ、解説が非常にコンパクトにまとめられているので、それぞれのテーマについて知識を確認したり、自分のあまり得意でない分野のざっくりとした知識を得るには有益ではないかと思います。さらにいえば、187ページという薄い本ですので、2時間もあれば読めてしまうでしょう。

一方、本書のターゲットとして明確に示されている中小企業経営者の方にとってはどうでしょう。
私が思うに、そのような方々にとっても本書は確かに面白い読み物でしょう。とはいえ執筆担当弁護士が18名もいらっしゃるためか、テーマによる難度のバラつきが目につきます。
全体的には非常にわかり易い解説がなされているのですが、例えば、


もっとも、民事再生手続では、未払の税金や従業員の給与等は、再生債権ではなく共益債権あるいは一般優先債権として随時弁済していかなくてはなりません。
また、銀行等の金融機関は、債務者(申立会社)の不動産を担保にとっていることが多いと思われますが、この担保権は、別除権といい、再生手続に拘束されることなく、その実行が可能です。ゆえに、当該不動産が事業の継続に必要な場合は、担保権者と個別に交渉していわゆる別除権協定を結び、別途、弁済を行っていくことになります。
さらに、再生手続開始決定後に、日々の取引によって生じた債権は、共益債権として、随時弁済を行う必要があります(略)。


などというくだりは、法務知識のない方を対象にしているにしては、若干眠くなる解説のように思います。
このあたりは少し残念ですね。


以上、いろいろと好き勝手なことを書いてきましたが、「企業法務に関する読み物」としては面白く仕上がっていますし、1,300円+税というお手頃価格であることから、読んで損はない一冊ではないでしょうか。
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起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと
(2010/09/30)
磯崎 哲也

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ご存知「isologue」の磯崎哲也さんの著書です。

もう既にあちらこちらのBlogで書評がなされていて、今さら私ごときがウダウダ書く意味はない気もしています。
しかしサブタイトルに「ベンチャーにとって一番大切なこと」とあり、私自身ベンチャー企業で、非常に経営に近いところで法務の仕事をしていることから、少し感想程度のものを書いてもいいのかな、と思った次第です。


さて、本書の一番の特徴、それは「類書がない」というところではないでしょうか。
「なんじゃ、そりゃ」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、これ、結構重要です。

何はともあれ、まずは目次をご覧ください(章のみ抜粋しています)。


序章  なぜ今「ベンチャー」なのか?
第1章 ベンチャーファイナンスの全体像
第2章 会社の始め方
第3章 事業計画の作り方
第4章 企業価値とは何か
第5章 ストックオプションを活用する
第6章 資本政策の作り方
第7章 投資契約と投資家との交渉
第8章 種類株式のすすめ
おわりに



「会社のつくり方」とか「事業計画の作り方」などというお手軽な本は、本屋に行けばヤマとあります。
一方、「企業価値」「ストックオプション」「資本政策」などに関する分厚い本も、本屋に行けばいくつか見つけることができるでしょう。

本書はこれら、ベンチャー企業の経営に関わる方であれば知っておくべきトピックを、「ベンチャー企業のファイナンス」という切り口で、ブスっと横串で刺したうえで、非常にわかりやすく説明してくれています。

この切り口、このレベル感、このわかりやすさ。
少なくとも私は類書を知りません。
この本があと2年早く手許にあればずいぶん助かっただろうな、と思います。

というのも、リンクを貼るのも恥ずかしいのですが、1年半ほど前のエントリーで私は、ストックオプションの組立てに関して、


弁護士の知識と会計士の知識を併せ持っていて、司法書士ばりの手続きに関する知識を持っているスーパーマンがいればいいのにな、とないものねだりをしている今日この頃です。


と書いて、「企業法務について」のkataさんに、「じゃあ、お前がそうなれや!」とチクリとコメントされたことがあるのですね。

上記リンク先のエントリーは、ストックオプションに関して書いたものですが、ベンチャー企業で法務をやっていると、(もちろん会社にもよるとは思いますが)ファイナンスに関わる機会というものが非常に多いんですね。
そういう意味において、「類書がない」本書のありがたみというものが、身に沁みてわかるのです。

ちなみに本書「第5章 ストックオプションを活用する」には、以下のような記載があります。


このため、ストックオプションの発行というのは、(略)法律、会計、税務など、いろいろな技を使う必要がある「総合格闘技」的なものになっています。


さらに、税制適格ストックオプションに関しては以下のように述べられています。


企業価値や税務などがからんで大変ややこしい話ですので、他の条件ともども専門家にご相談されることをお勧めします。



まさにこの点で私は弁護士と公認会計士と司法書士と(あと税理士や社労士などもですね)の知識・経験を兼ね備えたスーパーマンを求めていたわけです。
この点、磯崎さんもおっしゃっているように、最終的にはそれぞれの専門家に相談しておく必要があるのでしょうが、少なくとも本書を読んでおけば、そこにどのような問題があって、どの専門家に相談する必要があるかという感覚はつかめて、致命的なポカはなくなるはずです。


以上、例としてストックオプションを挙げさせてもらいましたが、もちろんストックオプションに限らず、このようにベンチャー企業が遭遇するファイナンスにまつわる問題を、本書は全般的に網羅してくれています。
そのため、ベンチャー経営に1ミリでも関わりのある方は、一読しておくことを強くお勧めします。


ところで、「おわりに」で磯崎さんはベンチャー企業を以下のように定義されています。


ベンチャー企業とは、誰もわからない未来にチャレンジする企業のことです。


以前引用したような気もするのですが、村上龍氏も「無趣味のすすめ」の中で、


小規模で孤独な環境から出発し、多数派に加入する誘惑を断固として拒絶すること、それがヴェンチャーの原則である。


と述べられています。
そしてせっかくの機会なので最後に、私のお気に入りの言葉をご紹介しておきたいと思います。
それは早稲田大学の松田修一教授の「ベンチャー企業」 (日経文庫―経営学入門シリーズ)という本で引用されているアメリカのDean Alfangeという政治家の言葉です。


   起業家宣言
私は平凡な人間にはなりたくない。
自らの権利として限りなく非凡でありたい。
私が求めるものは、保証ではなくチャンスなのだ。
国家に扶養され、自尊心と活力を失った人間にはなりたくない。
私はギリギリまで計算しつくしたリスクに挑戦したい。
つねにロマンを追いかけ、この手で実現したい。
失敗し、成功し・・・七転八倒こそ、私の望むところだ。
意味のない仕事から暮らしの糧を得るのはお断りだ。
ぬくぬくと保証された生活よりも、チャレンジに富むいきいきとした人生を選びたい。
ユートピアの静寂よりも、スリルに満ちた行動のほうがいい。
私は自由と引き換えに、恩恵を手に入れたいとは思わない。
人間の尊厳を失ってまでも施しを受けようとは思わない。
どんな権力者が現れようとも、決して萎縮せず
どんな脅威に対しても決して屈伏しない。
まっすぐ前を向き、背筋を伸ばし、誇りをもち、恐れず、自ら考え、行動し、創造しその利益を享受しよう。
勇気をもってビジネスの世界に敢然と立ち向かおう。


※強調部分は私によるものです。

上記引用のうち、強調表示した部分、
「私はギリギリまで計算しつくしたリスクに挑戦したい」
この、「ギリギリまで計算しつくしたリスクに挑戦」するのに、磯崎さんがおっしゃる「ファイナンスの世界は『こうすると後々こうなる』という因果が強く働く世界ですので、一定の『常識』を持つことが、将来の事業の発展を助けるのではないか」という考え方がピタリと合うように思います。


とはいえ、私も雇われの身ですので、あまり偉そうなことは言えないのですけどね。
ただ、大企業ではとても味わえなかった面白みを日々感じていることは確かです。

何はともあれ、「起業のファイナンス」は非常にお薦めの一冊ですので、このBlogの右端の「オススメコーナー」に追加しておきたいと思います。
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残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法
(2010/09/28)
橘玲

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この本を紹介するにはまず、「はじめに」にある次の言葉を引用したいと思います。


自己啓発の伝道師たちは、「やればできる」とぼくたちを鼓舞する。でもこの本でぼくは、能力は開発できないと主張している。なぜなら、やってもできないから。
人格改造のさまざまなセミナーやプログラムが宣伝されている。でも、これらはたいてい役には立たない。なぜなら、「わたし」は変えられないから。
でも、奇跡が起きないからといって絶望することはない。ありのままの「わたし」でも成功を手にする方法(哲学)がある。
残酷な世界を生き延びるための成功哲学は、たった二行に要約できる。

伽藍を捨ててバザールに向かえ。
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。


なんのことかわからない?そのヒミツを知りたいのなら、これからぼくといっしょに進化と幸福をめぐる風変わりな旅に出発しよう。
最初に登場するのは、"自己啓発の女王"だ。



この"自己啓発の女王"というのが勝間和代さんであることは間違いないでしょう、というか、本文の1行目にはっきりとそう書いてあります。
とはいえ、著者は勝間和代さんを一方的に非難したりしているわけではありません。

ここのところとみに高まってきている、「自己啓発」に対する懐疑的な空気を捉え、「自分を変える」とか「能力を向上させる」とかいうことの虚しさを唱え、より実践的な「幸福になる方法」を紹介しているのが本書の本質ではないでしょうか。

そしてその「幸福になる方法」を要約すると、

伽藍を捨ててバザールに向かえ。
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。


この二つの言葉になるのです。


伽藍を捨ててバザールに向かえ。
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。


この二つの言葉を解説することは簡単ですが、言葉の意味を知ることよりも、この言葉に辿りつくまでの思考のプロセスが重要ですので、あえてここでは説明するようなヤボなことはしません。
ただ、「伽藍」=会社、「バザール」=参加と撤退が自由な市場、と付け加えれば、勘の良い方であれば全てピンとくるかと思います。


さて結局のところ、本書は上記二つの言葉に全て要約できてしまうのですが、その結論を導くために、数々の事例や理論が紹介されます。
そしてその中心となるキーワードは「進化心理学」と「遺伝」です。

「進化心理学」とは、著者の説明を引用すると以下のようなものです。


ところがいま、精神分析に代わる新たな"こころの原理"が登場してきた。ダーウィンの進化論を、遺伝学や生物学、動物行動学、脳科学などの最新の成果を踏まえて検証し、発展させようとするもので、進化心理学(進化生物学、社会生物学)と呼ばれている。



このような「進化心理学」や「遺伝」によるプログラムが能力や性格に及ぼしている影響はあまりに大きく、人はまず変われない。
変われないことを前提として、どのようにして幸福を追求すればよいのか、というのが本書の大枠でしょう。


私の経験からすると、いわゆる「自己啓発書」というものにも、売れている売れていないにかかわらず、(当然のことではありますが)内容の優れたものとそうでないものがあるかと思います。
そして全ての「自己啓発書」が胡散臭いわけでも、信用ならないわけでもないと思います。
相性や手にしたタイミングなど、様々な要因はあるかも知れませんが、「自己啓発書」から学んだことも多くあります。

ただ、問題は3つ。
一つ目は、あまりにくだらない内容のものが多数本屋に並んでいること。玉石混交で、ある程度量を読まないと、内容の良し悪しが判断できないかも知れません。
二つ目は、いつまでも「自己啓発書」ばかり読んでしまうこと。「自己啓発書」はカンフル剤のような側面も大きいので、効果が薄れると新しい「自己啓発書」を求めて似たような本ばかり読んでしまうことになりかねません。
そして三つ目は、「自己啓発書」を読んで実際にうまくいくかどうかは、センス(本書ではこのセンスを「能力」と呼んでいるのかも知れません)としか言いようのないものに大きく左右されること。

私のいうセンスというものと、著者のいう能力というものが同じようなものであれば、確かに「自己啓発書」を読んでみんなが「成功」するなどということは、ないでしょう。(ちなみに私は「成功」という言葉を曖昧に使うことがあまり好きではありません)

そして著者の言うように、

伽藍を捨ててバザールに向かえ。
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。


という方法は、きっと正しいのでしょう。
そしてこの考え方は、センス(或いは能力)に何ら欠けることのない方々にとっても非常に有益な考え方だと思います。

国や地方、そして会社にも頼ることができないことがはっきりとしてきた今日、本書や、同じく橘玲さんが書かれた「貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する」は、私たちに大きな示唆を与えてくれるものです。

ただ惜しむらくは、論理の飛躍や議論のすり替え、極端な決め付けなどが若干目についてしまうことです。
そのため非常に興味深い話題が多く出てくるものの、部分部分で説得力に欠けるところがありました。

とはいえ、読んでおいて決して損のない一冊だと思います。


---------------(以下、10月16日追記)

著者はアメリカの心理学者の研究を紹介し、


①知能の大半は遺伝であり、努力してもたいして変わらない。
②性格の半分は環境の影響を受けるが、親の子育てとは無関係で、いったん身についた性格は変わらない。
もしこれがほんとうだとしたら、努力することにいったいなんの意味があるのだろう。


という。
そしてこの後、「知能」という言葉と「能力」という言葉を明確に区別することなく、「能力」開発の無意味さを説いている。

僕は、「知能」というものは確かに遺伝的要素が非常に大きいものだと思っている。
しかし「能力」というものは「知能」とは全く違う概念で、開発というと大袈裟な気もするが、努力によって伸ばすことのできるものだとも考えている。(もちろん人によって伸びにくい分野もあるとは思う)
その意味において、能力開発の虚しさを唱える著者の主張は、「違う」と思う。

なぜなら僕たちは「知能」を高めるために努力しているのではなく、知識や知恵を得るために努力しているのであって、知識や知恵を得ることによって、能力はかなりの程度向上すると思うからだ。


以上、「ビジネスブックマラソン」の書評(現時点では本書の書評はアーカイブされていないようです)を読んで、書き忘れていたことを思い出したので追記しました。

プラットフォーム戦略プラットフォーム戦略
(2010/07/30)
平野 敦士 カール  アンドレイ・ハギウ

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先日、某社が主催する、本書の著者である平野敦士カール氏のセミナーに参加する予定でした。
そしてお金もきっちり振り込んでいたのですが、当日どうしても都合がつかず参加できませんでした。

本書はセミナーに参加できなかったことを非常に悔やんでしまうほど、著者の「プラットフォーム戦略」に関する高い識見や、「プラットフォーム戦略」の有意性に触れることのできる一冊です。


ここ数年、「プラットフォーム戦略」という言葉を耳にしたり口にしたりということが増えてきているように思います。
私も、おそらくはこれを読んでくださっている皆さんのビジネスにおいても、「プラットフォーム戦略」は非常に有意なものであるのではないかと思います。
そして自社の「プラットフォーム戦略」について思いを巡らせながら本書を読むと、あまりに興味深いテーマの数々につい引き込まれてしまうことでしょう。

企業法務パーソンである私たちも、自社が何らかのプラットフォームを提供しているとき、或いは、プラットフォームに参加するとき、長期的な視点から自社に不利な契約となってしまわないよう、本書の内容を知っておくことが必要になるのではないかと思います。
なぜなら、今やほとんどのビジネスは何らかのプラットフォームを提供したり、何らかのプラットフォームに参加したりしなくては成り立たなくなってきているからです。

例えば「はじめに」で著者が例として挙げているだけでも、以下のようなプラットフォームがあります。


たとえば商店街、婚活カフェ、クレジットカード、ショッピングモール、病院、雑誌や新聞、おサイフケータイ、iモード、Wii、プレイステーション、ビジネス・スクールなどの教育機関、証券取引所、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やツイッター、築地市場、六本木ヒルズなどでも使われています。



これらの例をみると、「考えようによってはウチのあのサービスもプラットフォームだなあ」と思われる方も多いのではないでしょうか。


本書では「プラットフォーム戦略」の定義といえるようなものが3回登場しますが、


多くの関係するグループを「場」(プラットフォーム)に乗せることによって外部ネットワーク効果を創造し、新しい事業のエコシステム(生態系)を構築する戦略


という定義が、ここで紹介するには最もシンプルかつわかりやすいかと思います。


さて、例によって目次を引用します。


1.世界最先端のプラットフォーム戦略とは?
2.ケースで学ぶ 勝つプラットフォーム構築のための9つのフレームワーク
  ①事業ドメインを決定する
  ②ターゲットとなるグループを特定する
  ③プラットフォーム上のグループが活発に交流する仕組みを作る
  ④キラーコンテンツ、バンドリングサービスを用意する
  ⑤価格戦略、ビジネスモデルを構築する
  ⑥価格以外の魅力をグループに提供する
  ⑦プラットフォーム上のルールを制定し、管理する
  ⑧独占禁止法などの政府の規制・指導、特許侵害などに注意を払う
  ⑨つねに「進化」するための戦略を作る
3.プラットフォームの横暴にどう対処するべきか
4.フリー、オープン化という「負けない」戦略
5.日本企業復活への処方箋
※Chapter2以外は、小項目を省略させて頂きました。



話は少し逸れますが、ずいぶん前に土井英司さんが出版に関して、「売れる著者であれば自分で出版社を持った方が間違いなく儲かる。しかしそうすると他の出版社が敵になる。そこで(紙の出版に限らず)どのメディアが最も効果的に読者を集められるかを見極めながら、優良なコンテンツを提供し続けるという選択をする考え方もある」という趣旨のお話をされていたことがあります。(正確に再現できていないかも知れませんがご容赦を)

一方、一般的な法律雑誌などでは、弁護士や学者そして官僚や大企業の法務部課長クラスでないと、法律に関係することについて表現する機会を得ることは難しいのが現状ではないかと思います。
私はずいぶん前からこの状況に疑問を感じていて、何の「権威」もない私のような人間の拙い論考などを発表する場を作りたいなあ、などとぼんやり考えていました。つまり法務系同人誌のようなものですね。(私の場合は「権威」だけでなく「内容」もないのですが)
もちろんBlogという場で発表することは、いつでも誰でもできるのですが、「権威」に対するアンチテーゼの意味も込めて、「出版」という形が望ましいと考えていました。

これは「ITエンジニアのための『契約入門』」という形で、気がついたら実現していました(「権威」に対するアンチテーゼという意識や意味合いは全くありませんでしたが)。

つまり、Appleの提供するプラットフォームに乗ることによって、「出版」という表現の場を持つことができたわけです。
そしてApple、amazonやGoogleなどは、いかに自分たちの提供するプラットフォームにお客を集めるか、ということに、今まさに凌ぎを削っている真っ只中です。
これはmixi、GREE、モバゲーという日本のSNSでも同様です。

このようにして「プラットフォーム戦略」は、気がつくと身の回りに溢れていて、いろいろな企業がより魅力的なプラットフォームを構築しようと励んでいるんですね。
そこに参加するにも、プラットフォームを提供するにも、「プラットフォーム戦略」の考え方を知っておくことは、もはや避けて通れないのではないでしょうか。


さて、著者は本書で、プラットフォームには5つの機能があるといいます。
それは以下のとおり。
①マッチング機能
②コスト削減機能
③検索コストの低減機能(ブランディング・集客機能)
④コミュニティ形成による外部ネットワーク効果・機能
⑤三角プリズム機能

そして「勝てるプラットフォーム」を作る際の重要なポイントとして以下の3つを挙げます。
①自らの存在価値を創出すること(検索コストと取引コストを下げる)
②対象となるグループ間の交流を刺激すること(情報と検索)
③統治すること(ルールと規範を作りクオリティをコントロールすること)

③の「統治すること」というのは意外かも知れません。
しかし、「そのプラットフォームがもつ特徴と、集まっているグループのクオリティが一定であることを維持、進化させていくことが大切」ということで、例えば時に"検閲"とまでいわれるAppStoreの品質維持の取組みを正しい戦略であると評価しています。


さらに、「プラットフォーム構築の9つのフレームワーク」として、プラットフォームを構築するまでの9つのステップが紹介されており、上記目次「2.」のとおりの項目が挙げられています。
この部分は本書のキモとなる部分でしょうが、一つ一つ紹介していればキリがないほど、有益な情報や考え方が詰まっているので、是非直接読んでみて頂きたいところです。
一ヶ所だけ引用すると、


この際によくいわれるのが「にわとりと卵の議論」です。つまりにわとりがいるから卵が生まれたのか、卵があるからにわとりが生まれたのかという比喩のように、よいコンテンツがあるから人が集まるのか、人がいるからよいコンテンツが集まるのか、という問題です。べつの言い方をすればポジティブ・フィードバックの1回転目をいかにして起こすかという問題です。


この最後の一文は示唆に富んでいて、私に貴重な「モノの考え方」を教えてくれました。


そして著者は、こうしてできあがたプラットフォームは、「プラットフォームの横暴」と呼ばれる3つのパターンの道を辿る傾向があるといいます。
それは、
①利用料の値上げリスク
②プラットフォーマーによる垂直統合リスク
③プラットフォーマーが顧客との関係を弱体化させるリスク
の3つです。
特に①の「利用料の値上げリスク」は、私たち法務担当者としてもプラットフォームに参加する時点から、自社の担当者と情報をよく交換したうえでリスクを想定し、契約書に反映させておく必要のある部分ではないかと思います。(プラットフォームを提供する場合も同様です)

著者も、楽天市場を例に挙げて以下のように言っています。


参加している店舗側の交渉力はきわめて小さくなってきているのが現実です。後にお話するように、本来はこうした事態を予測し、契約書などで自社のビジネスを守る対策を加入時にとるべきだったのです。



また、有名なトイザらスとアマゾンの訴訟の話についても以下のように評価しています。


このケースにおけるトイザらスの戦略の失敗はどこにあったのでしょうか。
2000年の契約前においては、玩具販売小売全米トップのトイザらスはアマゾンよりも圧倒的に優位な立場にあったはずです。つまり、契約上の甘さがあったといえるでしょう。
(略)
ではこの場合、トイザらスはどのような契約交渉をすべきだったでしょうか。
たとえばですが、独占契約条項とともに、それに違反した場合の損害額をあらかじめ明記すること、あるいは競合のほかの小売店からあがる売上の一部からもレベニューシェアを得るような、玩具部門におけるプラットフォーム・オン・プラットフォームの可能性を交渉すべきだったといえます。まだアマゾンがそれほど大きなプラットフォームになっていなかった段階であれば、十分に交渉の余地はあったのではないかと思うのです。



このように、プラットフォームというものの重要性が増してきている今日、法務担当者である私たちも「プラットフォーム戦略」の概要は理解しておく必要があるのではないかと思います。
そして自社がプラットフォームを提供するとき、プラットフォームに参加するとき、目先の利益に飛びついてしまうことのないよう注意する必要があります。
そして長期的な視点から、不利な契約を締結してしまうことのないよう、プラットフォームというビジネスの本質を見る「目」を鍛えておきたいものです。
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