風にころがる企業ホーマー(入居作業中)

企業法務や経営に関することについて、情報発信していきまーす!

2010年08月

民の見えざる手 デフレ不況時代の新・国富論民の見えざる手 デフレ不況時代の新・国富論
(2010/07/14)
大前 研一

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今回も相変わらずの大前節がいかんなく発揮されています。
相変わらずと言えば、相変わらずなのですが、大前研一さんの場合はブレないところが大きな魅力でもあるので、やはり本質的な部分は「相変わらず」であったほうがいいのでしょう。

とはいえ今回俎上に上がっているのは、2010年夏時点の国内外の政治経済です。
「相変わらず」のブレない大前節で、いま現在の政治経済が語られる本書は、読んでおいて損はないでしょう。


一部の経済学者などからは、「経済のことがわかっていない」「決め付けが多い」などと批判されることもある大前研一さんですが、彼はコンサルタントであって学者ではないので、そこはそれ。学術的な緻密さを求める場合は、別の著者の本を読めばいいのではないでしょうか。
少なくとも、
「大前さんはそういうふうに見てるのね」
ということをいつも楽しみにしている私のような人は少なくないはずです。


さて、手許に現物がないのでamazonから目次を引用します。


プロローグ 経済学は、もう未来を語れない
第1章 (現状認識) “縮み志向”ニッポンと「心理経済学」
第2章 (目前にある鉱脈) 拡大する「単身世帯」需要を狙え
第3章 (外なる鉱脈) 「新興国&途上国」市場に打って出る
第4章 (規制撤廃が生む鉱脈) 真の埋蔵金=潜在需要はここにある
第5章  (20年後のグランドデザイン)  「人材力」と「地方分権」で国が変わる
エピローグ そして個人は「グッドライフ」を求めよ



目次に出てくる言葉も、いつもの大前さんですね(笑)
とはいえ「超セレブな」というような表現をされているところもあり、対象としている読者層は20代から30代前半くらいの若手ビジネスパーソンだということが推測できます。

本書では、リーマン・ショックからギリシャ危機、そして日本での政権交代と菅政権の誕生といった、ここ2年ほどの間に起こった事象を踏まえたうえで、国内外の政治と経済が語られています。
たいていの本では、このようなときに引き合いに出されるのは、欧米+BRICsの話題がせいぜいなのですが、大前さんの場合はウクライナやマレーシアといった、他のビジネス書ではそう多く紹介されないような国についての現状も書かれているところがミソです。
エネルギッシュに海外に出かけていかれる大前さんならではでしょうか。

今回も「相変わらず」、ロシアとの良好な経済関係を構築しろ、中国との付き合いを大切にしろ、韓国人を見習え、といったお約束の話題も出てきます。
しかし興味深かったのは、「韓国はあと10年」という話。
日本以上に少子高齢化が進み、国内で積み重ねてきたものも多くないだけに、韓国の勢いはそう長く続かないだろう、というような話であったように記憶しています。

そしてエピローグでは、第5章までで語ってきた、日本と世界の政治や経済状況の中、個人が「どう生きるか」について述べられています。
この部分は、大前さんの他の著書などをよく読まれている方にとって、特に新鮮な話題はなかったように思いますが、「為政者がダメな以上、クーデターを起こすしかない」というような記述があり、少し驚きました。
読んでみるともちろん「武力によるクーデター」を推奨しているわけではありませんでしたが、私たち日本国民が個人でできる「クーデター」について、3つの方法が紹介されています。
そのうちの一つが、ハイパーインフレに備えて現金をモノに換えておき、長期固定金利で借金をしておけ、というものです。同様のことは随分前から藤巻健史さんもおっしゃってますね。
藤巻さんの場合は「ゆるやかなインフレが起きる」というような言い方だったように記憶していますが、やはりそれに備えておく必要性を主張していらっしゃいました。
(最近出版された『日本破綻 「株・債券・円」のトリプル安が襲う』は買ったまま読んでいないのですが、おそらく主張内容は変わってないのではないかと思います)

というわけで、大前研一さんのこの手の本は、定期的に出版され、定期的に読まれる、というのがちょうどよく、私にとってもほどよいお付き合いの仕方だと思っています。

十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。 (新潮文庫)十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。 (新潮文庫)
(2009/08/28)
遠藤 周作

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このタイトル、キャッチフレーズとしても秀逸です。

「十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。」

タイトルからは何の本だかさっぱりわかりませんが、「そこまで言うんだったら買ってみよう」と思わずにはいられない不思議な力のある言葉です。
最近の「タイトルで煽るビジネス書」とは、言葉の切れ味が違います。

さて、かくいう私も1年近く前でしょうか。
書原という、このBlogにもちょくちょく登場する本屋さんで、レジ横に置いてあったこの本のタイトルを見て、2秒後には「あっ、これも下さい」と、精算中の本の山に追加してしまいました。
この本をレジ横に置く書原さんの売り方もうまいなあ、と感心したものです。


ところで買ってはみたものの、相変わらず何の本かはさっぱりわからず。
キン肉マンの終わりの歌で、


ヘのつっぱりはいらんですよ。


というキン肉マンに対して、


言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ。


と委員長が返すやり取りがありましたが、それを思い出しました。

そしてしばらく放置していましたが、最近ようやく読んでみました。
…これは面白い。
「遠藤周作の文章術」とでもいうべき一冊です。

そもそも本書が世に出た経緯は、1960年に書かれた原稿が遠藤周作の死後、2006年に発見され、それを書籍化したものだそうです。
2006年の原稿発見時にはちょっとした話題になったそうですが、私は知りませんでした。
少なくとも私のところには関係者から連絡がありませんでした。関係ないので当たり前ですが。


さてこの本、タイトルはまだ決まっていなかったようで、本書の書き出しの言葉である、
「十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。」
という一節がそのままタイトルになったようです。

上に書いたように、「遠藤周作の文章術」というような内容の本書ですが、体裁としては遠藤周作が「手紙の書き方」について面白おかしくまとめたものです。
1960年に書かれているので、当然 e-mail などあろうはずもなく、あくまで「手紙」の書き方について書かれているのですが、本質は同じです。
手紙はもちろん、メールを書くときにも十分参考になる普遍的な「文章術」です。

目次のうち、大項目だけを引用してみます。


序   一寸したことであなたの人生が変る
     ―人生の明暗を分けた、一寸したこと
第一講 筆不精をなおす一寸したこと
     ―筆不精、三つの大きな原因
第二講 手紙を書く時に大切な一寸したこと
     ―手紙の書き方には根本原理がある
第三講 真心を伝える書き出しの一寸したこと
     ―真心を伝えるコツは「相手の身になって」
第四講 返事を書く時に大切な一寸したこと
     ―良い返事は「読む人の心」を考えながら表現するもの
第五講 病人への手紙で大切な一寸したこと
     ―病人宛の手紙は、相手を十分思いやって
第六講 相手の心をキャッチするラブ・レターの一寸したこと(男性篇)
     ―恋人に手紙を書くには―
第七講 彼女に関心を抱かせる恋文の一寸したこと(男性篇)
     ―あなたに関心がない彼女への恋文の書き方
第八講 彼女を上手くデートに誘う一寸したこと(男性篇)
     ―デートを促す、手紙の書き方
第九講 恋愛を断る手紙で大切な一寸したこと(女性篇)
     ―断りの手紙は、正確にハッキリ、誠意をもって
第十講 知人・友人へのお悔やみ状で大切な一寸したこと
     ―相手の孤独感を溶かす、お悔やみ状のもっとも親切な書き方
第十一講 先輩や知人に出す手紙で大切な一寸したこと
      ―一寸した手紙や葉書で人生は大きく変る
最終講 手紙を書く時の文章について、大切な一寸したこと
     ―手紙を書く時の文章で気をつけたいこと



どうでしょう。
目次だけ見ると、昨今のお手軽ビジネス書によくある「文章術」と同じような印象を受けます。
とはいえ、同じようなテーマと目次であっても、そこは遠藤周作。
それはもう、人間に対する洞察力の深さや文章の緻密さなど、「○○が書いた最強の文章術」などというようなものとは、わけが違います。

しかも面白い。
電車の中で読んでいると、不覚にも吹き出してしまうような箇所もちりばめられています。

例えばある架空の(?)学生A君が書いたラブレターを採点するという以下のくだりなどは、少し長いのですが面白いところなので引用してみます。


「拝啓。春日の候、益々、清栄の段、慶賀仕り候。陳者、平生は御無沙汰ばかり申上げ失礼の段、何卒、何卒お許し下され度し御座候。さて今回、悪筆を顧みず書簡をしたためお願い致した度き儀、これ有り候。―即ち、貴嬢来週日曜日、小生と共に喫茶談笑の機会をお与え頂ければ幸甚これに過ぎることなく・・・」

これはダメ。まことに気の毒でしたが第一番目のA君のこの手紙はダメの標本です。これではまるで移転通知か冠婚葬祭の下手な挨拶状。この学生は法科に学ぶ男だったので勢い、ガール・フレンドに出す手紙も区役所の税金督促状のような手紙になってしまったのかもしれん。しれんがこの税金督促状のような手紙をみて―もし、あなたがうら若いお嬢さんなら、心動かされてお茶につき合うだろうかね。「喫茶談笑の機会」など現代の若いお嬢さんを感動さすどころか「この人脳が弱いんじゃない」と失笑の機会を与え、挙句の果ては紙屑籠の中にポイと入れられること必定である。
皆さんのほうは、まさかかかる税金督促状的な手紙を書かれなかったと思いますが、この極端な悪文は次の過ちを犯していること、注意して頂きたい。
①知りもしない候文(そうろうぶん)で書いていること
(以下略)



上記は面白おかしく他人の手紙を採点しているのですが、ちゃんとこの後に、「ではどう書くべきか」という話が続きます。


次に「抑制法」という「文章道の第一原則」については、少し真剣に以下のように説明されています。


「夏のまぶしさや暑さを描くなら光の方から書くな。影の方から書け」
(略)
第一の抑制というのは自分の感情や気持ちを文章の始めから終りまで訴えないことです。
(略)
本当に心にかなしみがあった時に泪もでなくなるという言葉がありますが、我々はそうだと思うのです。感情をあふれさすより、それを抑制して、たった一すじ眼から泪がこぼれる方がはるかにその感情をせつなく表現するものです。



このあたりになると、「さすが大作家」と感心しきりなのですが、以下の「お悔やみ状」について書いている部分などは、遠藤周作ならではという優しさと思いやりの溢れる説明です。


ぼくはこういう場合、相手と同じような悲しみや苦しみをむかし自分が受けなかったかどうかを考えて、その時の思い出などを書くようにしています。
たとえば子供を失った知人には自分がむかし身内を失った時、どういうふうにたちなおろうとしたか、どういうふうにそんな苦しみを受け止めたかを書いてあげるとよいものです。
(略)
実際はどんな人間にも、どんな人生にも似たりよったりの不幸や悲哀が訪れがちなのですが我々はいざ自分がそういう破目になると、急に「自分だけがなぜこんな悲しい目をするのだろう」とか「自分だけが、どうして苦しまなければならぬのだろう」という孤独感に捕らわれるものだからです。
ですから相手のこの孤独感を我々ができるだけ溶かしてあげるのが、お悔み状のもっとも親切な書き方だとぼくは思っています。



さらに引用が続いて申し訳ないのですが、この部分は遠藤周作の考え方がはっきりと述べられていて興味深いところですので、ご容赦を。


「あなただけではなく、自分も同じような悲しみにあった」ことを相手に優しく知らせるのは一種の連帯感を相手に与え、その孤独から救います。
連帯感というようなむつかしい言葉を使いましたが、これはたとえばこんなことです。
病院に入院した人は多かれ少なかれ知っておられるものですが、たとえば手術をした患者の手を看護婦がじっと握ってやると、ふしぎに静かに眠りだすことがよくあるものです。
これは苦痛というものは今、申しあげたように孤独感をひき起こすので、誰かに手を握られているだけでも、彼はその人が自分と苦痛をわけ合ってくれているという安心感がえれれるからなのです。これが人間のもつ連帯感の原型だとぼくは言いたいのです。



解説に書いてあったのですが、本書は遠藤周作が肺結核で入院していた時期に書かれたもののようで、ここでいう「彼」というのは、遠藤周作自身のことを指しているように思えます。


なんだか随分長くなってきたので、この辺にしたいと思いますが、最後に無理やり一言でまとめてみたいと思います。

手紙を含め、誰かに読んでもらう文章を書くには「相手の身になって」書くことが肝要であり、そのためには人間というものを知る必要がある。

このことを、時には面白く時には真剣に語ってくれている本書は、メールを含め毎日文章を書いている現代人にこそ、本当に役に立つ一冊なのではないかと思います。
是非読んでみてください。

ちなみにこのBlogは、「相手の身になって」書かれてはいませんので「ダメの標本」です。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 10月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 10月号 [雑誌]
(2010/08/21)
不明

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8月号、9月号はまだ積読状態なのですが、tacさんが登場しているということや、その他諸々の理由から、10月号を先に読んでみました。

10月号の特集は「人材流動化時代の法務キャリア」ということで、企業法務の世界で生きている私たちにとっては、非常に興味深く素通りできない話題です。


また例によって私より数段早く、かつ、10倍程度わかりやすく「企業法務マンサバイバル」のtacさんが今回の特集についてまとめていらっしゃるので、詳しくはそちらをご覧ください。


          →10倍程度わかりやすい説明はコチラ


さて、巷間よく言われますしtacさんも書いていらっしゃる、
「転職は3回まで」
という話。
この手の話はいつも耳が痛いのですが、私はこの時点でアウトです。

さらに、Business Law Journal の中でも触れられている
「転職は35歳まで」
という話。
これまた私は、気がつくとギリギリアウトの年齢になってしまいました。

以上から、私が今回の特集を読む意味は全くないですね(笑)
とはいえ、今後の新人さん採用時の参考になる話題がてんこ盛りでした。

個人的に非常に興味深かったのが、「転職のノウハウ」と題した座談会の以下のくだり。


 私は採用面接もよくしますが、面接で法律知識を問うのはナンセンスだと思っています。六法を見れば分かることを聞いたり、取引内容の詳細な説明もないままに架空の契約書レビューをさせてもあまり意味がないでしょう。知識や経験についての最低限のスクリーニングは人材紹介会社に任せ、面接段階では社内クライアントとうまく付き合えるかどうか、あるいは「損得勘定」や「金利」といった営業センスをきちんと持っているのかを見るほうが重要です。

 営業センスは経営者自身が持っているはずで、そればかりを法務に求めるのはどうでしょうか。私は法務パーソンとは、ステークホルダー間の利害調整に苦しむ経営者を、確かな法律知識をもってサポートする役割だと思っています。加えて、経営者や現場の思いを法的に問題のないよう文章で表現する「確かな言語化能力」も求められます。とすれば、選考で法律知識や契約書作成力をしっかり確認することも必要なのでは・・・と個人的には思いますが。



「バランス」とひとことで片付けることもできるかも知れませんが、会社が法務担当者に求めているもの、法務担当者自身が求めているキャリアパス、そして会社における自身のポジションなどから、考え方に若干の相違が生じるのではないでしょうか。

とはいえ、個人的にはDさんのおっしゃるように、「法律知識や契約書作成力」というものも選考時に確認しておく必要があるのではないかと思います。
というのも、Fさんのおっしゃる「人材紹介会社によるスクリーニング」というのは、法務担当者に関してはあまりアテにならないように思うからです。
私自身、人材紹介会社を利用して転職したこともありますが、法務担当者として必要な知識などについて、必ずしも紹介会社の方は理解されていなかったように思います。
ただ私が採用する側であれば、Fさんのおっしゃること、言葉を換えると「ビジネス感覚」とでもいうのでしょうか。これは最低限持っていてほしいと思います。

そういった意味でやはり「バランス」は大切だなあ、と当たり前のことを再確認した次第です。

そういえば以前転職活動をしていたとき、ある会社の面接で、法務部門の主任クラスの方から次のような質問を受けたことを思い出しました。


典型契約13種類を挙げてください。



何を求めた質問であったのか未だに謎なのですが、10~11くらい挙げたところで「うーん・・・」と考えていたら、「あなたは勉強が足りませんね」と言われてしまいました。
これはまさにFさんのおっしゃる「六法を見ればわかること」の典型ですね。

話が逸れてしまいましたが、10月号も Business Law Journal ならではの特集が楽しめるので、是非読んでみてください。
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コーポレート・ガバナンス 経営者の交代と報酬はどうあるべきかコーポレート・ガバナンス 経営者の交代と報酬はどうあるべきか
(2010/01/21)
久保 克行

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サブタイトルにもあるように、コーポレート・ガバナンスを主に「経営者の交代と報酬」という切り口から語った一冊です。
先日ご紹介した伊丹敬之先生の「日本型コーポレートガバナンス―従業員主権企業の論理と改革」は、戦後から2000年当時までの日本企業の状況と、会社法(正確には商法中、いわゆる「会社法」とよばれていた部分)を分析し、新しいコーポレートガバナンスのあり方を具体的な制度にまで落とし込んで提案するものでありました。
そこでのポイントは「主権論」、つまり会社の主権者は誰か、ということをきちんと議論してはじめて、「メカニズム論」、どのようにしてガバナンスを行うか、ということを議論することができるというものでした。

今日ご紹介する久保先生の一冊は、現行の制度下においていかにコーポレート・ガバナンスを機能させるか、という視点から書かれています。
つまり、株主主権を前提としていると考えられる現行会社法のもとで、どのようなメカニズムを組み立てるか、というところからスタートしています。
そしてご自身や先人の行ったデータ分析を基に、「経営者の交代と報酬」によって、コーポレートガバナンスを機能させることを提案されています。

ところでこの本、タイトルから受ける印象とは異なり、会社法や経営に関する知識があまりない方でも、「ふむふむ」と読めてしまうのではないかと思える、非常に親切な仕上がりとなっています。
「難しい話をやさしく書く」ということに著者が砕身されたのだろうと思います。


さて、まず目次を引用してみます。


第1章 なぜコーポレート・ガバナンスが問題なのか
1 世界経済危機から考えるアメリカ型企業システム
2 所有と経営が分離している理由
3 経営者を規律づける監視メカニズム
4 データの制約について

第2章 社長交代の是非と後任選び
1 経営者の交代はどの程度必要か
2 市場の動きから見る社長交代
3 経営者の交代確率とその理由―誰から誰に引き継がれるのか
4 業績の悪い経営者は本当に交代しているのか
5 社長交代の業績比較―誰に代わるのが良いのか
6 良い経営者を選抜し、悪い経営者を排除するには

第3章 経営者は十分なインセンティブを与えられていない
1 経営者の報酬を探る
2 役員報酬の実態
3 経営者にも成果主義を
4 業績と報酬の関係はアメリカと比べて非常に小さい
5 海外の経営者報酬
6 望ましい経営者インセンティブとは

第4章 取締役会改革で業績を向上させる
1 取締役会は経営を監視しているか
2 取締役会の現状を数値で検証する
3 取締役会は業績向上に貢献するのか?
4 取締役会改革が必要な企業
5 銀行派遣取締役の役割と効果
6 取締役会改革を進めよ

第5章 企業は誰のものか
1 「日本の会社」は誰のために経営されてきたか
2 企業が危機にあるときに削減するのは雇用か配当か
3 会社は誰のものである「べき」か
4 経営者を規律づける最もよい方法



上でご紹介した伊丹先生の著書は、「従業員主権企業」という言葉がサブタイトルに含まれることから想像できるように、ドイツを中心とした欧州企業の事例が多く紹介されています。
翻って本書は、「経営者の報酬」というテーマや上記の目次をごらん頂くとおわかりになるように、米英企業の事例が多く紹介されています。
現在の日本における「独立役員」「社外取締役」「委員会設置会社」「従業員選任監査役」などの話題は、欧州や米英の制度をごちゃまぜにして引っぱってきている感が強いので、両方の事情を知っておくと理解が促進されるのではないかと思います。

まず、本書において久保先生は、「コーポレート・ガバナンス」を次のように説明します。


組織が成功するためには有能なリーダーが必要であろう。そして選任したリーダーに適切な目標とインセンティブを与えること、さらに、リーダーは期待された業績が達成できない場合には解任することが不可欠である。このようなメカニズムは、現在日本の企業でどの程度機能しているのだろうか。また、企業の成功・失敗とこのような経営者に対する監視メカニズムにはどのような関係があるのだろうか。これらの問題を考えるのがコーポレート・ガバナンスである。



そして、コーポレート・ガバナンスに関して重要なことは、

①経営者の交代
②金銭的なインセンティブ

という「二つの単純なメカニズム」であると主張されています。
ここでは「会社は株主のもの」ということが、とりあえずの前提となっています。


さて上記の、コーポレート・ガバナンスに関して重要な「二つの単純なメカニズム」についてですが、

日本の大企業では、業績と社長交代の関係は非常に弱いことがデータ分析の結果、確認できた。具体的には、ROAが8.08%下落したとしても、社長が交代する確率はわずか4.77%しか上昇しない。



経営者が企業業績を向上させるインセンティブを持つためには、経営者の所得と企業の業績の関係が強いことが望ましい。この観点からみると、日本の大企業の経営者は十分なインセンティブを持っていない。データ分析の結果、企業の業績が著しく向上しても、著しく劣化しても、経営者の所得はほとんど変化しないことが示された。



と、いずれも日本の大企業では「二つの単純なメカニズム」が機能していないことを指摘されています。
そして取締役会の改革を進めることによって、これらの現象の根本にある問題を解決することを提案されています。
特に後者、「金銭的なインセンティブ」については以下のような主張が興味深いところです。


所有と経営を分離させた状態で経営者の努力をコントロールする手段として、経営者の金銭的なインセンティブが重要となる。
(中略)
アメリカの経営者の報酬がストック・オプションなどを通じて巨額であることは良く知られている。このような巨額な報酬は、アメリカでも激しい批判を浴びているが、コーポレート・ガバナンスの観点からは、多額のストック・オプションを付与することは、必ずしも悪いとはいえない。
(中略)
役員報酬が適切かどうかを判断する一番の基準は、「いくらもらっているか」ではなく、「業績の変化に応じて変化するかどうか」である。


(強調部は私によるものです)

もちろんここで、「短期的な業績を重視し過ぎる弊害」を考慮する必要はあるでしょうが、確かにもっともな主張だと思います。
今年(2010年)3月31日決算の会社から、1億円以上の役員報酬を受けている場合は開示が要請されるようになりました。
色々な意味で批判の多いこの制度ですが、1億円という基準は別として、役員報酬の開示自体は、上記のような考えからすると確かに有益なものかも知れません。

最後に、「企業は誰のものか」という問いに対する著者の回答を引用したいと思います。


いわゆるステークホルダー論を実現することは容易ではないことがわかる。従業員と株主に加えて、取引先など他の利害関係者の利害もすべて考慮する形で経営することは望ましいが、実現が著しく困難である。「企業の目的は株主価値を最大化することである」と規定することで、これらの困難は克服することができる。すなわち、株主価値を向上させる経営者が良い経営者であり、経営者が株主価値を最大化するための規律づけのメカニズムも存在する。これらのことから、株主価値を最大化することが、ファースト・ベストではないが、セカンド・ベストであると考えることができる。



最終章でさらりと、「従業員代表を取締役会に送り込むことに対する著者の意見」が、日本の労働市場の問題と併せて述べられているのも興味深いところ。

コーポレート・ガバナンスを考える際には、是非読んでおきたい一冊です。
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1年以上前の話になりますが、「朝にオススメの音楽」というエントリーで、私が通勤時に聴いている音楽を紹介したことがあります。

そのときは Guns n' Roses という、朝の陽射しにはとても似つかわしくない音楽を紹介しました。
「古くね?」
という向きもあろうかと思いますが、「Guns n' Roses は永遠です」という力強い言葉を、先日 twitter 上で頂いたこともあり、相変わらず Slash のギタープレイとAXLの声に痺れながら会社へと向かっています。

なぜそんなことをまた書いているのかというと、「通勤 おすすめ 音楽」というような検索ワードで、このBlogに辿りつかれる方が相変わらず多いのですね。
そのような方はきっと、
「んだよ!朝からガンズなんて聴きたくねーよ!」
などと心の中で舌打ちの一つもしながら、Googleの検索画面に戻っていかれているのでしょう。

そこで今日は、もう少し違う音楽も紹介してみようかと思います。


私は通勤時、たいてい2種類の音楽を聴きます。
一つ目は電車の中で本を読みながら聴く音楽。
二つ目は前回ご紹介した、会社の最寄駅から会社に着くまでの間に聴く音楽。

後者は前回書いたところですので、ほかにもガンガンのハードロックをご紹介したい気持ちをグッとこらえたいと思います。
そこで今日は前者、静かなほうの音楽を紹介したいと思います。

これはまず絶対条件として、周囲の迷惑にならず、かつ、読書の邪魔にならない音楽である必要があります。
間違えてもジャーマンメタルなどであってはいけませんし、イヤでも歌詞が耳に入ってくる、例えば武田鉄也の「声援」のようなものであってもいけません。

あくまで静かで、しかもBGMに徹してくれるような音楽である必要があります。
とはいえ「静かであれば何でもよい」、というものでもありません。
これから仕事に行こうというのに、例えばショパンの「別れの曲」だとか、Simon&Garfunkelの “Sound of Silence”などを聴いていたのでは、朝から切なくなることは必至です。

やはり通勤時には、
「静かながらも力が湧いてくるような爽やかな音楽」
というのがぴったりハマるのではないかと思います。

余談ですが、先日通勤電車の中で、Bruce Springsteen のライブ映像をずっと観ている方がいらっしゃいましたが、これも違う意味でやはり、真夏の通勤電車には相応しくありません。車内の温度が上がります。

そんな私がお勧めしたいのがこれ。

レイト・フォー・ザ・スカイレイト・フォー・ザ・スカイ
(2005/09/21)
ジャクソン・ブラウン

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Jackson Browne の "Late for the sky" です。
1曲目のイントロからして、「静かながらも力が湧いてくるような爽やかな音楽」という基準にぴったりです。
彼のアルバムであれば、ほかにも
The Pretender
Running on Empty
あたりが、通勤時にピタリとハマります。

例えば、「疲れているけれど、ここを乗り切らねば!」
という日には、"Running on Empty" が、弱った心と体を励ましてくれます。
特にこのアルバムの最後のほうに収録されている “The load out” は、ピアノの美しいメロディと Jackson Browne の切なくも力強い歌声が心地よいです。
個人的に残念なのは、この曲にたどりつく前に、会社の最寄駅に到着してしまうことですが、そこはまあ、何曲か飛ばすなどして、何とかうまくやるしかないでしょう。

上記3枚のアルバムはいずれも、通勤時に限らず絶品ですので、もし聴いたことがないようであれば、是非聴いてみてください。

それ以外にも、以下のようなアルバムを「朝にオススメの音楽」として推薦しておきたいと思います。

"LAYLA and Other Assorted Love Songs" Delek & Dominos
誰もが知っている「いとしのレイラ」までは割と静かで、読書の邪魔になりません。

"Ziggy Stardust" David Bowie
間違えても世界を売った男は、朝に聴いてはいけません。ブルーになります。

"Language of Life" Everything but the girl
このアルバムも朝にぴったりなのですが、最後の曲で泣いてしまう可能性があります。

"On and On" Jack Johnson
会社と反対行きの電車に乗って、海に向かってしまわないように注意が必要です。


以上、思いつきで書いてみました。
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