風にころがる企業ホーマー

企業法務や経営に関する話題を中心に、気ままに情報発信してます。

2008/08

日本の法曹人口、特に弁護士人口が大幅に増えており、その是非が激しく議論されています。

弁護士会を筆頭に、法曹側の人々は概ね「弁護士の質の低下」を理由に、「増員は必要だが司法試験の年間合格者3,000人は多すぎる」との意見を主張されています。
それに対し世論は、そうした法曹側の人々の理屈に対して「既得権益しか考えないエゴ」との印象をもち、反発している。
そういった図式ができつつあるようです。

第一法規のホームページで連載されている、生田康介弁護士のコラムも、世論に一定の理解を示しつつも、やはり法曹側の理屈が述べられていました。

以下、引用します。

弁護士の業務は、医師の業務に似て、専門性が高く、市民の人生・生活に大きく影響を与えるものです。過当競争になると、必然的に過大な弁護料請求や、不適切な弁護活動が増え、ユーザーである市民の皆さんが被害を受けることにつながります。(中略)日本に先駆けて法曹の大幅増員に踏み切った韓国では、弁護士が報酬の低い公益的事件を引き受けなくなったり、詐欺的ブローカーのような仕事を手がける弁護士がでてきていると聞きます。(中略)法曹人口についての議論は、業界利益という狭い話ではなく、市民の権利・利益に直結するテーマだということをご理解いただければと思います。



どうでしょう。これに弁護士の就職難問題、知識不足問題を加えれば、法曹側の人々の主張は網羅されるのではないでしょうか。

さて、私は世論側の人間ですので、このような理屈には「エゴ」を感じて反発します。
確かに弁護士の業務は専門性が高く、市民の権利・利益に大きく影響を与えるものでしょう。しかしだからといって競争の埒外に置いておくべきというのは飛躍し過ぎではないでしょうか。
ましてや「過当競争になると、必然的に過大な弁護料請求」になるというのはどういうことなのか、理解に苦しみます。競争が激しくなると価格は通常下がるというのが経済の原則だと思うのですが。
「不適切な弁護活動が増え、ユーザーである市民の皆さんが被害を受けることにつながります」というのも、おかしな理屈です。もちろん、弁護士が増えれば、悪徳弁護士といわれるような人たちが増えるのもわかります。それはある程度仕方のないことだと思います。ある知り合いが、私の出身地である福岡について、「福岡は犯罪が多いわね」とよくいうのですが、人口が多いので当然です。
これでは消費者を脅して商品を買わせるように仕向ける恐怖広告のようなものです。
ほかにもこのコラムには、いちいち突っ込みを入れたくなるのですが、私に都合の良いところだけ引用しているかも知れないので、この辺にしたいと思います。

いずれにしても、どんどん競争すればいいのです。弁護士の就職難なんて、世間一般の人にとっては「だから?」という程度のものです。選ばなければ職はあるとはいえ、世の中には職に困っている人は五万といるのですから。難関資格を取得したのだから高収入を得るべきだ、などという甘い考えではとてもではありませんが、ビジネスの世界は渡っていけません。

私は仕事柄、弁護士の方々と接する機会も多いのですが、「質の低下」というのも、今に始まったことではありません。
もともと「質の悪い」弁護士も大勢いますから。
私がここでいう「質」とはもちろん、知識だけのことではありません。コミュニケーション能力や人間の機微を理解する能力などを含めた総合力をいっています。
弁護士の大幅増員によって「知識の質」が劣る弁護士は出てくるかも知れませんが、「総合的な質」の高い弁護士が出てくる可能性も高まるかと思います。

私たちは偉い先生に高いお金を払って講釈をもらいたいのではなく、同じ目線で話しのできる真に優秀な弁護士を「選びたい」のです。
私たち市民が、本当に求めている弁護士像というものを、弁護士の先生方はもっと理解するべきだと思います。
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酒井穣さんの講演会に参加しました。

「はじめての課長の教科書」に続く著作、「あたらしい戦略の教科書」の出版記念講演です。ベストセラーを連発している出版社、ディスカバー社の主宰で無料招待です。ディスカバーさんありがとうございます。

オランダ在住の酒井さんは、その優しい文章や文体に似合わず(?)大柄で迫力のある方でした。
お顔は、写真でちらっと見たことがあるだけでしたが、とても雰囲気のある方で、一目見てすぐにわかりました。
よく通る声と親しみやすい口調、素敵な方です。

講演のテーマはもちろん「戦略」。
オランダと日本の文化差異を通して、「差別化」というキーワードで、戦略について語られていました。
日本の戦略不在とはよく言われることですが、犯罪抑止の面におけるオランダの戦略には感動すら覚えました。

日本の刑務所に入っている人の殆どは、麻薬に絡む犯罪によるものだそうです。麻薬の密売や所持はもちろん、麻薬欲しさから強盗や売春といった罪を犯す人が多いとのこと。そのために日本がとってきた対応は、厳罰化や空港での手荷物検査です。その結果どうなったかというと、それらの犯罪のアンダーグラウンド化です。状況は悪くなるばかりです。酒井さんに言わせると、これらは「ソリューションとは言えない」。
一方オランダ。ご存知のとおり麻薬のうちマリファナを合法化するという大胆な政策をとっています。ここで誤解なきよう付記しておくと、オランダ国内においても「麻薬は悪」という考えは社会的合意を得ているとのことです。では、なぜマリファナを合法化したのか。
ここがオランダの高度な戦略性です。
禁止しても地下に潜るだけであれば、それを把握してコントロールしてしまおうというのです。マリファナをやっていると、さらに強いクスリが欲しくなる。そのときオランダ人は、それを手に入れるために強盗をするのではなく、病院にいくそうです。病院に行くとメタボンという麻薬のような薬物を無料で処方されるそうで、これで禁断症状を乗り切る。そして病院は麻薬中毒者の情報を入手する。これを政府が把握する、という仕組みです。
そのためオランダでは一桁単位まで、麻薬中毒者の数を把握しているそうです。
そのうえでそれらの人々をコントロールする。

どうでしょう。臭いものにフタをする我々日本人とは発想が違うのではないでしょうか。

利息制限法と出資法の間の金利、いわゆるグレーゾーン金利の問題に対する対応にも同じことが指摘されていました。金利引下げは根本的な解決にならない、地下経済に流れるだけだと。

日本人はどうこうという言い方は好きではないのですが、戦略性という点においては、われわれ日本人ももう少し計算高い発想をしていくべきなのでしょう。

ちなみに酒井さんは現在3作目を執筆中だそうです。期待して待ちましょう。
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